表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
最終決戦編~メタルジャスティス~
81/106

名案だと思うぜ

ここ、長くなったから二話に分けます。後半は次回です

「大局的に……だあ!? ごちゃごちゃ言ってんじゃねーぞコラ!!」

 『表』に出ているヘイレンは小森寧人の問いかけにそう答え、再び攻撃の構えに入ろうとしたが、伴はそれを押しとどめた。

 何かヤバイ、この男を問答無用で倒してしまうのはヤバイ。と、いうよりもこの男はそんな状況を巧みに作り出している。そんな風に感じる


「!? お、おい! 伴!」


 気が付けば『ヘイレン』の変身が解け、ただの高校生、一条伴の姿に戻ってしまっていた。ヘイレンと伴、二人の心が同じ方向を向いていなければロックスの姿になることは出来ないのだ。


「……ほう、一条とか言ったな、ガキのわりに、お前のほうは多少カンがいいみたいじゃないか。ご褒美に教えてやるよ。小森先生の未来予想講座だ」


 変身を解けた伴を前に、小森寧人はニヤリと笑う。

肩を抱いていた女性を離し、少しだけ伴に近づいてくる。

すっかり暗くなった中、公園のライトに照らされ、海風に髪をなびかせている小森寧人は、まるでスポットライトを浴びている舞台役者のようにも見えた。


「まず、俺は別にメタリカで一番強いから首領になったわけじゃない。だから俺がこの場で一人死んだとしても、単純な戦力で考えればメタリカにとってはたいしたダメージじゃない」


 小森寧人は淡々と告げる。そしてその言葉自体は間違っていない。だがそんなことは伴だって最初から分かっている。問題は強さなどではない。彼が悪のトップであるという事実のほうのはずだ。それが討たれればメタリカにとっては痛手であることは間違いない。


 そう考えた伴だったが、小森寧人はそんな伴をあざけり笑って言葉を続けた。


「それにもう一つ。そもそもこの俺が、小森寧人がメタリカの首領であるということを知っている人間がどれくらいいる? たしかにお前は知っていた。大方マルーン5の連中あたりからの入れ知恵だろう。俺も多少は有名になってきたからな。お前らシンプルプランのメンバーやガーディアンなら、話には聞いたことがあるはずだ。だが一般人はどうだ? 前首領、藤次郎のように世界中の人間が俺をきちんと認識しているのか? そんなことはないよな。まして、顔や素性なんかは知られているはずがない」


「……たしかにそうだ。でもそれがどうしたっていうんだよ」


 小森寧人の言葉に誤りはない。まったく無名の存在からわずか数年で悪の頂点にまで上り詰めたこの男は、そのあまりにも早い存在の拡大に世間の認識が追いついていない。なにせ最近までは藤次郎・ブラックモアが生きていると思われていたくらいなのだから。


 メタリカ首領、藤次郎は死んでいた。それもあって弱体化していたメタリカを離反したスレイヤーが全ての悪を制して一つの巨大な組織となっている。これが一般人の認識だ。しかもその巨大組織は依然として具体的な行動に出ているわけではない。いやむしろ、統制がとれたが故か、以前よりも一般人に加わる被害は減っているとする見方すらある。


一枚岩となった巨悪は闇で蠢き、世界の破滅をもたらす準備に入っている。という言い知れぬ不安は世界が共有していることだが、そのトップが誰であるか、ということなんて噂の範囲にすぎない。


ニューヨークでスリップノットを殺害し、煉獄島でマルーン5を退けた男の名が小森寧人であり、そいつが首領である『可能性が高い』程度のことだ。


「それがどうした、だって? お前本当にわからないのか。じゃあお前、俺をこの場で倒したらどうするつもりだったんだ? 『やあ、僕はヘイレン、メタリカトップの小森寧人を倒しました!』とでも世間に公表するつもりだったのか?」


 おかしくてたまらない、とでも言うように小森寧人は伴を見下した。


「……それは………っ……!」


 もし、自分が小森寧人の言うようにしたらその後の世界はどう動くだろう。伴はそこまで思いがいたり、あることに気が付いた。


「……おめでとう。よく理解したな。高校生にしては上出来だ。俺の部下になるのなら重用してやってもいいぜ」


 乾いた拍手をしてみせる小森寧人だったが、その目は伴のことなどまるでどうでもいい、と言っているようにみえた。


「そもそも存在が明確ではない俺一人を討ち取ったところで一般世界もメタリカも、それをメタリカの敗北や壊滅だとは捉えない。それがどうした、と思われるのがオチだ。なにせ悪の戦力はほとんど失われていないからな。それどころか、トップである俺を失った悪党たちがどういう行動にでるかは俺にもわからないぜ? ただ一つ言えるのは、それで『僕たちの負けです。今後は罪を償い、清く正しく生きていきます!』……なんてことにはなるわけがない、ってことだけだ。戦いも混乱も止まらない、間違いなくな。だから今ここでお前が俺を倒しても、さほど意味はない」


 冷静に、ただ淡々と事実を告げてくる小森寧人のプレッシャーは重かったが、伴はそれで黙りはしなかった。


「……かもしれない。でも、あんたを倒さなければ、もっと酷いことになる、違うか」


 たしかに小森寧人の言うことは間違っていないように思えた。でもだからと言ってメタリカ首領である小森寧人を倒さない、という選択肢はない。この男が史上最悪の男であり、その悪意をもって世界を壊そうとしていることは間違いないからだ。


 俺はそれを止めると決意した。たとえささやかな勇気でも、それを無くしはしない。

 

 数えきれないほどの悪事を働いてきたであろう悪の大物を前に、伴は気を吐いた。


「いいや。お前の言うとおりだ。俺はこの世界を征服する。王のいない悪人たちが暴れまわることなんて、オレがこれからやろうとしていることに比べればカスみたいなものだ。それに、俺を失えばメタリカはお前らには勝てない。お前らがその気になれば、一人残らず皆殺しにできるさ。……何年も何年もかければな」


 伴の体が震えた。海風が冷たいことだけが原因でない。


「お前らがそれでいいなら好きにしろ。俺をこの場で倒して、そのあとも戦いをやめない悪人たちから世界を救うために長い戦いに挑め。もちろん、一般人もお前らも被害がゼロってことはありえないがな」


 小森寧人の言うことは何も間違っていない。ほぼ確実に訪れるであろう未来のビジョンだ。伴が戦う動機である身の回りにあるささやかだけど大切な日常はおそらく壊れてしまうだろう。


「……くっ」

伴は何も言えなくなってしまった。


 どうすればいい? そもそも、犠牲を出さずに悪を止めることはできないのか。でもコイツを見逃せばもっと大変なことになる。どうすればいい?


 伴の背中を冷たい汗が流れる。


 小森寧人はそれすらも見透かすように酷薄な冷笑を浮かべ、言葉を続けた。


「ちなみに、こっちだってお前らと条件は同じだ。たとえば今この瞬間に千石ディランがどこかの誰かに暗殺されたとして、お前らは戦いをやめるか? ……やめないよな? 俺たちとお前らの戦いはもうそんな次元の話じゃない。この世界を二つに分ける力のぶつかり合いだ。普通に考えれば、世界的で大規模な戦いが長期間にわたって続き、どちらかがその力を維持できなくなって初めて終わる類のものだ。違うか? 違うというなら、お前はどうやってこの戦いの決着をつけるつもりだったか言ってみろ」


 ゆっくりと、伴に歩み寄ってくる小森寧人。伴は彼の問いかけに答えることは出来なかった。


 立ち尽くしている伴に息遣いがわかるほどの距離まで近づいてきた彼は、耳打ちをするように言葉をかけた。ぞっとするほどに優しい声色だった。


「……だが、俺もそんなことは望んでいない。そんな戦いが何年も続けば、世界は傷つく。経済的にも物質的にも、そして人的にもな。……いずれは俺のモノになる世界だ。勝ち残ったとき、荒廃しきっているような世界には興味はない」


 わからない。小森寧人が何を言いたいのか、伴にはまるでわからなかった。


この戦いは世界のすべてを巻き込み長期化する。

だが、悪の王はそれを望んでいないと言う。



 なら何故彼は悪の組織を率いて世界を征服しようとする。

何故、こんな破滅的な戦いを引き起こす。



「あんた……いったい……」


 伴が戸惑いを見せたその瞬間、小森寧人はまたしても意外な言葉を放った。


「さてここで、俺から提案がある。今言った互いの懸念を解消できる名案だと思うぜ」


「なっ……!?」


 まるで悪魔のように囁く小森寧人はもはや同じ人間であるとは思えなかった。

冷たく、重く、鋭く、深く。


彼は、得体のしれない何かだった。

書籍版 悪の組織の求人広告2巻~営業部覚醒編~

11/25発売予定。予約受付中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ