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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
最終決戦編~メタルジャスティス~
80/106

学校で習わなかったのか?

最近バタバタしていて更新が遅くなりました。待っていただいた方がいらっしゃったら、申し訳ないです。また、今回やや遅めの展開ですがご容赦ください。

寧人は情報を引き出すために彼にそう答え、瞳を見つめた。そこで直感が走る。


 似ている。この少年は似ている。


 顔立ちや体型などではない。この少年の瞳の奥にあるもの。

寧人が幾度となく見てきた『彼ら』に、少年は似ていた。


 

「……えっと、思うって言うか。そうなんですよね多分」


 少年はこちらを警戒する口ぶりだった。


「ははは……参ったな……」


 寧人は頭を掻いて力なく笑うと、目の前にいる高校生らしき少年について考えた。そして海浜公園にこちらを警戒する他の気配がないことを確認したうえである結論をつけた。


 この少年は一般人ではない。


彼は俺をメタリカの首領だと確信した上でわざわざ接触してきた。まずこれがおかしい。

つぎに、彼は『メタリカ首領であるかもしれない人間』を前にしても、怯えていない。ありえないことだ。

それに何故、彼は俺がこの場所にいることを知りえた? そしてそれを知ったのなら何故たった一人で俺の目の前に現れる? 普通に考えれば疑問だらけだ。


つまりこの少年は、メタリカの首領についての知識を持っており、それと接触する動機があり、なおかつそんな危険なことをしても単独で自身の安全を確保するなんらかの手段があるということだ。


そんな存在を寧人は、一種類しか知らない。


ならば、コイツは敵だ。


寧人はそこまで思考を走らせると、自分の中にあるスイッチをONにし、心を研ぎ澄ませた。


スラックスのポケットに手を入れ、彼を鼻で笑ってみせる。そして目は冷酷なまま、彼をあざけり笑う。


「それで? 俺がメタリカ首領、小森寧人だったらどうだっていうんだ? ロックスの坊や」


「!?……なっ……やっぱり、あんたは……!」


 少年の表情に緊張が走るのが見て取れた。

 もう間もなく水平線に日が沈む海浜公園は穏やかそのものだったが、二人の間の空気は急速に凍り付いていく。


「人に名前を尋ねるときは自分から名乗るものだって学校で教わらなかったのか?」

 寧人は少年にそう言葉をかけつつ、ゆっくりと彼に近づいていく。あくまでも表情は冷静なままだ。


もう間もなく飲み物を買いにいってくれた真紀さんも戻ってくることだろうし、おそらくは別の姿があるのであろうこの少年の戦力がどれほどのものなかわからない。だから、ここでコイツと一戦交えるのは得策ではない。


それに想定していたシナリオのために、いずれはシンプルプランの誰かに接触するつもりだったということもある。予期せぬ形となったが、向こうから接触してきたのはこちらも望むところだ。


予期せぬ敵との遭遇は命すら危うい危機だが、うろたえる姿をみせるわけにはいかない。

 

 寧人は短かった穏やかで温かい時間の終了を感じながら、すでに極限近くまで成長した悪意を体中に満たした。

 こいつとの接触を通して、シナリオを加速させる。そのためにはこの場を生き残り、コイツを上手く操る必要がある。そのためには――


※※


一条いちじょうばんがこの海浜公園に居合わせたのには深い理由はない。

 たまたまクラスメイトの女子の買い物につき合わされ、寄り道して帰りたいと言い出した彼女に付き合ってなんとなくやってきただけのことだ。


 

 伴が参加することになった『シンプル・プラン』とは無関係なプライベートなことであり、ガーディアンや他のロックスたちは今日ここに伴がいることは知らない。


 だから、この海浜公園で『彼』と出くわしたのはただの偶然に過ぎなかった。

 もっとも伴の中に住み着いている自称宇宙人の精神体・ヘイレンが言うには、そうした偶然は伴の持つ特異体質によるものだという話だ。伴がヘイレンと共に戦うことになったことや、やたらとクラスメイトの女子と偶然遭遇することもそれに起因するらしい。ヘイレンは因果律がどうだとか、運命干渉体だとか説明していたが、伴にはイマイチ理解できていない。


 だが、大事なことはこの『偶然』の原因なんかではない。これを受けてどう動くか? ということだ。

 

 脳内に響くヘイレンの声が、小森寧人の存在を伴に教えてきた。ヘイレンは感知能力が高く、改造人間が付近にいればその変身体の姿をも認識することが出来る。そのヘイレンがスリップノットを倒したあの怪人、エビルシルエットを感知したのだがから、それは小森寧人に間違いはないのだろう。


 伴は戸惑い、焦った。当たり前だ。

いくらなんでもこんな平穏な普通の場所に。高校生が買い物帰りに寄り道するような海浜公園に、そんな大物がいるとは思うはずがない。常識的に考えてありえない。


 とりあえず一緒だったクラスメイトの女の子には悪いと思ったが、彼女には用事を思い出したから先に帰ってくれ、と言って、伴自身は駆け出して小森寧人らしき人物を目視できる位置まで移動した。(ちなみにそのときやっぱり変な顔をされてしまったので、今度学校で会ったときの言い訳にも苦労しそうだ)


 彼は女性と一緒で、何か話しているようだった。どちらかといえば優しく穏やかな男性に見えて、とても極悪人には見えなかった。

 だが脳内のヘイレンの感知能力には疑いはない。

 伴は少し考えたが、小森寧人と一緒にいた女性が場を離れたのをみて、彼に声をかけることにした。


 伴は普通の高校生を自負している。でも、迫りくる世界の危機のなか、偶然手に入れた力を使い、ロックスの一人として戦うことを自分なりに決意した。それに千石さんや光太郎さんは強いけど、こんな風に『偶然』小森寧人と遭遇したりできるのは多分俺だけなんだ、と感じてもいる。

だから、この機会は見過ごすことのできないものだった。


相手は一人、もし戦闘になったとしても、ヘイレンに変身すればエビルシルエットに負けることはない、とも思う。それはヘイレンとともにこれまで戦ってきた経験からも明白だ。最悪、逃げることくらいは簡単なはずだ。上手くいけば、取り押さえた上で千石さんに連絡するところまでいけるかもしれない。

 

 そうした考えのもと、伴は小森寧人に話しかけたのだった。

 最初の反応は拍子抜けするほど普通だった。だが、伴が確信を持っていることを悟ったのか、こう答えてきた。


「それで? 俺がメタリカ首領、小森寧人だったらどうだっていうんだ? ロックスの坊や」

 低い声。笑っているのに冷たい表情。

さきほどまでとは全然違う。彼の中に渦巻く闇があふれ出ているようだった。


「!?……なっ……」


 伴と同じ程度の小柄な背丈はずのその男から、不気味で巨大な威圧感が放たれていた。

しかも、伴がロックスであることを確信した上で、まったく動じてもいないようだ。


「やっぱり……あんたは……!」

 もう間違いない。この男は、メタリカ首領。悪の王とされる男だ。

 ずい、と間を詰めてきた小森寧人、伴は無意識に一歩後ずさりをしてしまった。夕日と夕日を反射する海面からの光は小森寧人の背後からさしており、それも彼の威圧感を高めるのに一役買っているようだ。


 突如、伴の脳内に声が響く。

〈何やってんだよ伴!! もう決まりだべ!? さっさとやっちまおうぜ! 変身だ変身!!〉


 もともとヘイレンは好戦的であり、自分の力に絶対の自信がある。だから彼の物言いは伴にとってはいつものことだった。そもそも小森寧人に接触したのもヘイレンの強いプッシュがあったからでもある。



〈コイツさえ倒せばカタがつくんだろ? こんなチャンス、いくらお前でももう二度とこねーぞ!〉


 伴はヘイレンの声を受け、考えた。

 たしかにヘイレンの言うことも一理ある。自分たちは短い時間しか戦うことが出来ないロックスだが、戦闘能力は千石ディランさんや光太郎マルーンレッドさんにそう劣りはしない。だから、倒せないことは……たぶん、ない。シンプルプランの計画にはこんなことはなかったが、今ここで小森寧人が倒すチャンスであることには間違いはない。

だが、現在小森寧人がなんらかの悪事をしているわけではない。だから『止める』ための戦いはできない。こちらから仕掛ける形になる。

伴はそうした戦いをしたことは今まで一度もなかった。


〈……お前ちょっと落ち着けヘイレン。……もうこっちの顔も知られてる。メタリカに情報が入るのはまずいんじゃないのか? 普通に考えて〉


〈んなことは最初からわかってんだろ。 さっさと倒しちまえば問題ねぇから話しかけたんだべ!〉


 伴がヘイレンと脳内で会話をしていると、小森寧人はさらに迫ってきた。


「人に名前を尋ねるときは自分から名乗るものだって学校で教わらなかったのか?」


 こちらを値踏みするような小森寧人の冷たい視線が伴に突き刺さる。

 

「……っ!」

 戸惑っていた伴を決意させたのは、小森寧人から発せられた『学校』という言葉だった。

 それは、ロックスとして秘密の活動をしている伴にとって、日常の象徴である単語だ。それは、普通の高校生の伴が守るべきもの。ロックスである伴が戦う理由。


 この男は、こっちが高校生であることを推測している。メタリカの力を持ってすれば、俺の素性を知るのは多分簡単なはずだ。

 だから今ここでこの男を倒さなければ、このまま行かせてしまえば、いずれは俺の周辺に、その日常に危険が迫るかもしれない。さっき下手な言い訳をして分かれたばかりのあの女の子も、そのなかに入る。

 伴が戦ってきたのは、そんな些細な、でも大切な世界を守るためだ。そして本来は世界がどうなろうが何の関係もないヘイレンは、そんな伴を気に入ったと言ってくれて、力を貸してくれている。

 

なら、今俺がしなければいけないことは?

 

 伴はそうした思いとともにゆっくりと息を吐き、小森寧人の圧力に立ち向かった。


 俺がロックスになったのはただの偶然で、なりゆきだ。本当はヘタレなところもある普通の高校生だ。ただ、平穏な生活がしたいだけだ。でも、俺には戦う力がある。だから。


「……名前か。わかったよ。俺の名前は一条いちじょうばん、そして……」


 伴は荒っぽくてちょっと馬鹿な、でも誰よりも頼りになる相棒に語りかけた。


〈……いくぜ。ヘイレン〉

 掌を額に当て、自身のうちにいる相棒と意識を同調させる。そして二つの声を重ね、叫ぶ。


「変身!」


 スイッチとなる合言葉と同時に、伴の肉体がメタモルフォーゼを始める。体中に光り輝くエネルギーが溢れる。これは、精神体に過ぎないヘイレンに一時的に伴の肉体を貸し、再構成させ、その超人的な強さを短時間ながら実体化させるためのプロセスだ。

 

 白と赤のカラーリングベースにした鋼よりも硬い金属の質感を持つ肉体。全身から起る微弱な発光。重力を操りわずかに浮遊するその姿。これは、誰も知らない、そして誰もが知っている伴のもう一つの姿。


「……ヘイレン……だと? まさか高校生が正体だとは思わなかったな」


 小森寧人が意外そうにつぶやく。彼もその名は知っていたようだった。メタリカの首領であることを考えれば当然のことかもしれない。


「てめぇ、ボコボコにブチのめして、しょっ引いてやるぜ。覚悟はできてんだろうな!?」


 ヘイレンと入れ替わって精神アストラル体となった伴はいつも、この口の悪さと荒っぽさには辟易しているが、まあ、今は仕方がなさそうだ。と思い、特段口を挟まなかった。


「なるほど。どういう理屈なのかは知らないが、人格が変わるタイプのようだな」

 小森寧人は目前にロックスが出現したにもかからずやはり動じていない。伴にはその理由がわからなかった。


「おうよ。どうした。てめーもさっさと変身したらどうだ? ああ!?」


 ヘイレンが小森寧人を煽る。すでに日が沈んだ海浜公園には人気が少なく、変身して戦う舞台としてはさほど悪いものではなさそうだった。


「……そうだな……」


 ヘイレンの言葉を受け、小森寧人は自身が閉めていたネクタイに手を伸ばし……、伸ばしかけたその手を途中で下ろした。


「……いや、やめておくよ」

 そして、その口から発せられたのは意外な言葉だった。


「んだと!? てめぇ舐めんのか!?」

 ヘイレンを相手にして生身で戦えるはずがない。また、逃げられるはずもない。

 どういうことだ?

 伴は小森寧人の考えがわからなかった。


「言葉通りの意味だ。俺が変身して戦ってもお前には勝てそうにもないからな。負ける戦いは好きじゃないんだ。無意味なこともな」

 

 そう答えた彼はなんと警戒態勢も防御姿勢も取ることもなく、歩いてこちらに近づいてくる。


「はあ? 言っとくけど。こっちはお前をブチのめさなきゃならない事情があんだよ。お前にその気がなくてもやらせてもらうぜ?」


〈待て! ヘイレン!!〉


 ヘイレンは小森寧人の真意を測りかねつつも、エネルギーを右腕に集中させるように指示してきた。変身時のエネルギー調整は伴の役割だが、今回は少し待つ必要がありそうだ。


「……ヘイレン、お前はその戦闘能力ではディランに引けをとらないとされているが、メタリカではお前をディランより格下のA級に位置づけている。何故かわかるか? ちなみに俺は今、あらためてその理由を実感したよ。ははは」


 小森寧人は嘲笑をみせてこちらの肩を小馬鹿にしたようにポンと叩くと、そのままをカツカツと別の方向に歩きだした。

その向かう先に視線をやると、さきほどまで小森と一緒だった女性が小走りに駆けてくるところ姿が見える。心配そうな表情だ。

どうやら、彼女も事態の異常を認識しているようだった。


関係ないが、彼女はかなり可愛い。伴からすれば年上だが、少女のような可憐さと聡明そうな雰囲気が絶妙に同居している。


「おい姉ちゃん!! そいつは極悪人だぜ! アブねーから離れてな!!」


 ヘイレンはこうみえても女性には優しい。戦いで女性を傷つけたことが一度もないことは世間でもよく知られている。


だから今も女性に声をかけたのだろうが、彼女は聞いていないようだった。


そりゃそうだろう。ヘイレンはピンときていないようだが、伴からみれば彼女が小森寧人をどう思っているかは明白だ。


 よくニブイだの、難聴だの、鈍感だの言われる伴だが、他人のことに関してはけしてそんなことはないという自負は間違いではなさそうだった。


 小森寧人はそのまま女性に近づくとその肩を抱き、こちらを侮蔑するような口調で告げてきた。


「馬鹿かお前。コイツは俺の女だ。俺が何者かなんてわかってるに決まってるだろ」


不意に肩を抱かれた女性は「ふぇっ!?」 と言った感じの、戸惑ったような、でも少しだけ顔を赤らめた表情をみせた。あれは多分、意外に思いながらも嫌がってはいない、といったところだろう。


いや、むしろちょっと照れているようで、嬉しそうにも見える。


伴も経験として知っているが、女性というのはこんな緊迫した状況下でもそういうことには反応するものらしい。


 アタフタと戸惑いつつも黙ってじっとしているの女性とは対照的に小森寧人は冷静な表情のままだ。


「……てめぇ……!!」


 ヘイレンは相当イラついているのか、エネルギー波の構えを取った。ヘイレンが全力でエネルギー波を撃てば生身の人間などひとたまりもない。一撃で体中の骨がバラバラに砕けて絶命するだろう。


 だが、小森寧人は相変わらず防御の姿勢をとらない。女性の肩を荒々しく抱いたままだ。


女性が持っていたコーヒーを受け取り、飲む余裕すらみせてくる。そしてこちらには淡々と言葉を告げてきた。


「……お前が強さの割りにS級より格下とされる理由は、行動がつたないからだ。お前が俺の前に現れてから数分だが、すでに致命的なミスを二つも犯している。千石ならこんなミスは絶対にしない。まあ、本体がガキで、変身体が馬鹿じゃ仕方ないけどな」


 すでに日はすっかり落ちており、海浜公園に設置してあるライトが小森寧人を照らしていた。闇のなかで一筋の光があたっている彼の表情は、夕暮れどきに女性と一緒のときにみせていた優しいものとはまるで違っていて、残忍さと計算高さをあわせもつ、そうまるで、悪魔のような表情だった。


「……ん、だと……!」

〈落ち着け。ヘイレン!〉


 ヘイレンは怒っているが、彼の見せる余裕の態度と含みのある物言いに動きを決めかねているようで、それは伴も同じだった。



「少し大局的な視点で考えてみろ、ヒーロー。お前が今俺を殺したらどういうことになるのか?」


こちらが攻撃動作を中断したことを確認しつつ、小森寧人は大仰な身振りでこちらの視線を集中させたうえで、ゆっくりと語りだした。


その姿は、伴がゲームや歴史を通して漠然とイメージしている『王』の姿にきわめて近くて。


それが恐ろしく感じられた

 


一応ゴタゴタしてるのがいったん落ち着いたので、週一の更新を目指します。


※お知らせ1 二巻の発売が11/25になりました。Amazonなどで予約受付中です。ツルギとアニスのイラストにご期待ください。


※お知らせ2 少し前にTwitter初めてみました。しょうもないことを呟きつつ、告知でも使いたいと思います@056196d81f4245a

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