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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
新入社員立志編~ディラン~
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正義の味方のお出ましだ

 寧人は知るよしもないことだが。同期入社の池野はすでに企画部の一員として作戦の立案を任されていた。寧人が種別Rの命を受ける1週間前、池野は会議の場で重要な提案を済ませていた。



※※

 「私のプランは万全です。庶務課の1チームを捨石にすることで、ロックスの現場到着は少なく見積もっても2時間は遅れるはずです。それだけの時間があれば…」


 今回、メタリカの計画していることは、関東地域にある民間の研究機関の制圧だ。

 同研究機関は遺伝子工学の分野で突出する成果を示している機関であり、それは独占することが出来たのなら、大きな力を生み出すことが可能なものである。

 

 メタリカとしては是非とも押さえたい施設だ。それは今後のメタリカの軍備増強のためにも、世界征服を目指す上での技術の独占においてもだ。


 池野は新入社員だが、その優れた経歴と能力が認められ、この作戦への建策が許されていた。


 池野の計画はこうだ。

 

 今回はロックスの一人である『ディラン』に研究機関制圧作戦は漏れてしまったことが事前にわかっている。おそらく当日にはメタリカの制圧作戦の妨害に来るだろう。

 そこで、あえて当日に別の情報を流す。大規模な犯罪の計画会議が、あるエリアで行われている、と。


 勿論そんな計画はない。大事なのは、それが世間一般に知れ渡ることだ。そして実際に庶務課の人間を配置する。それもなんの意味もなく。


 

 研究所襲撃の可能性が高いのは周知の事実だが、それでも、正義の味方であるロックスは偽の情報を確認せずにはいられないはずだ。

 

 そのため、研究所と偽の会議場所はあえて隣接してある。


 必ず、正義のヒーローは来る。見過ごせはしない。池野はそれを考慮していた。

 すぐに情報が偽物だとわかったとしても、その場には庶務課の人間がいる。足止めくらいにはなるはずだ。そういう計画だった。


 上の連中には渋られたりもしたが、強引に案を押し通した。成功すればいいだけだ。


 池野は決済書類をまとめ、総務部へ向かった。総務部は社内稟議のコピーを保管する役割もある。


 「真紀ちゃん、これファイルに入れといて」


 総務部の黛真紀に声をかけ、書類を渡す。彼女は同期入社で、そして容姿端麗で素直で可愛らしい。すでに第一線でバリバリ働いている自分をアピールするいい機会だ。


 「あ、はい。…! これって…」


 笑顔で受け取ったあと、書類をみて何故か怪訝な表情を浮かべる真紀。


 「ん? どうしたの? 決裁はおりてるよ?」


 「…この作戦だと、庶務課の人たちは…」


 「ああ。多少の損害は受けるかもね。でも、庶務課はそれが仕事でしょ」


 説明してやったのに、真紀の表情はなおも沈んでいる。池野にはその理由がさっぱりわからなかった。



 ※※

 


寧人が種別Rの現場で出動したポイントは湾岸地区だった。倉庫が並んでいるだけで人気はまったくない。


 「間中さん、ホントにディランが来るんですかね…?」


 「…かもな」


 庶務課のメンバーはある程度分散し、湾岸エリアに点在している。庶務課ではツーマンセルが基本なので、寧人は間中と組み、日の傾き始めた港で待機していた。間中の装備はライフル、寧人は麻酔銃を抱えている。物陰に隠れ、監視カメラの映像を二人で確認しつつ、時が過ぎていく。


 「…お前には悪かったな。この作戦にお前を加えるのには反対したんだけどよ…」


 間中が不意に呟く。


 「や、やだな。何言ってるんですか。別に死ぬって決まったわけじゃないし…! そうだ。これ終わったら、また飲みに連れてってくださいよ」


 まるでこれが最後のような間中の言葉。寧人はあわててそれを否定した。


 「…そうだな。よっしゃ。今日はいつものおでん屋じゃなくて、もっといいとこ奢ってやるよ!」


 「はい!…」


 その時だった。監視カメラにあるものが映りこんだ。すでに、変身を完了している。

 テレビでみたことがあるそれと同じだ。

 機械的なアーマーと生物外骨格の中間のニュアンスをもつ純白の肉体。額には角のような突起、あふれんばかりのエネルギーを内包していることが一目でわかる微弱な発光。まるでお伽話に出てくる光の騎士のようだ。

 

 他にあんな存在がいるものか。あれこそは初代ロックス、社会を悪の魔の手から守る、正義の化身…

 『ディラン』!


 「間中さん! これ…!」


 ごくり、つばを飲み込む音が聞こえる。


 「ああ…正義の味方の、お出ましだ。…仕方ねぇ。他のメンバーに招集をかけた上で、まずは俺たちが接近するぞ」


 寧人はうなづいてそれに答え、移動を開始する。

 今回の任務は『現れるであろうディランと全員で交戦せよ。ただし一度に全員では戦うな。個別に挑め』というだけのものだ。理由などは聞かされていない。


 相手は一騎当千の正義の英雄である。ザコにすぎない寧人ら庶務課メンバーが、それもそれぞれ単独で戦って勝ち目はあるのだろうか。一人一人順番にたたき潰されるだけではないのか。結果、全滅までの時間が延びるだけではないのか? 何故このような指令がおりたのか、疑問は尽きないが。仕方なかった。それが庶務課。悪の組織の末端の兵士の役割なのだ。


 「だが、お前はヤツの視界には入るな。直接戦うのは俺一人でいい。お前は影から見ていろ」


 「!? そんな…!」


 「いいな!」

 

 返事をまたず、間中は物陰から飛び出し、ディランの前に踊りでた。寧人はすこし離れた位置からそれを見守る形となった。

 

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