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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
組織頂点編~シンプルプラン~
74/106

集え、英雄

we will rock you


を聴きながら書いてみました。

 すべてのロックスに届いてほしいと思っている。寧人の見つめるモニタに映る千石は低く、だがよく通る声で話し始めた。


〈……メタリカには、かつてのような力はもう、ない〉


 メタリカ。それは子どもでも知っている世界最大の、世界最初の、そして世界最強の悪の組織だ。

 超人を兵力として保有し、平和な社会を脅かす恐怖の組織であるメタリカは、その誕生によって世界の有り方を変えた。


 世界中の大多数が幸福に生きる世界を乱す存在として有り続けた。ガーディアンやロックスはそんなメタリカから人々を守る希望だったが、それでもメタリカは依然として世界の脅威として人々に認識されている。


 千石は、そんなメタリカを一言目から否定したのだ。


〈首領の藤次郎・ブラックモアは8年前、俺の手によって倒れた〉


 この言葉に現場の聴衆のどよめきが起った。おそらく世界中でも同様のことが起きている。


「こいつ……!」


 寧人は思わず声を洩らした。

千石、この男はやっぱり気づいていやがったのか。そして、そのカードをこのタイミングで切ってくるのか。


 今まで誰にも知られないように隠してきたことを、全世界に同時に伝えてきたのだ。

 しかもラーズを倒した直後のメタリカ本社の前で、だ。


 この威力は計り知れない。


もともとメタリカというのはたった一人の邪悪な天才が作り上げた組織だ。その優れた能力と圧倒的なカリスマ性がなければ今日こんにちのような発展はありえなかっただろう。


 それはガーディアンも、そしてメタリカ構成員も共通して認識している。


いわば藤次郎という男は、その名だけでメタリカにとっては戦略的な武器であり、ガーディアンにとっては最優先警戒要素となっていたのだ。


 だからこそハメットたちは藤次郎の死を隠していた。

 だがそれが今、暴かれた。


 そしてこれを否定することはできない。

 重要なのは、この事実を告げている人間がディラン本人であるということだ。これを否定し、そしてそれに説得力をもたすためには藤次郎本人が表に出る必要がある。当然、不可能だ。


〈そして、藤次郎亡きあとのメタリカを支えた幹部だったヘッドフィールドはすでに倒れ、ラーズはたった今この手で倒した〉


 ボロボロの体、頭部から流れる血。千石は立っているだけでも辛いだろう。だがそれでも凛とした立ち姿を崩さない。


〈知ってのとおり、新興組織スレイヤーはメタリカを離反したものだ。このことからもメタリカが弱体化していることがわかる〉


 千石の言葉には一切のよどみがなく抜群の説得力がある。

当たり前だ。言っていることはすべて事実であり、そしてその事実は平和に暮らす人々が望むそれなのだから。人は、自分の信じたいことを信じるものだ。


〈そしてそのスレイヤーはクリムゾンやアンスラックスをはじめとする他組織を次々と制圧し勢力を増しつつある。……わかるだろうか? これがどういうことなのか〉


 寧人は考えた。こいつはどこまで知っている。メタリカがスレイヤーの離反を認めているという事実はどうだ? スレイヤーがすべての悪の組織を潰した上でメタリカに戻り、そして自分か池野がそのトップに立つという計画は?


 わかるわけがない。少なくとも証拠などがあるはずがない。だが、寧人の鼓動はおさまらなかった。


〈……このまま行けば、スレイヤーはメタリカをもその傘下におさめるだろう。そしてそれは、世界中のすべての悪が一つになるということだ。巨大な悪が世界に誕生する〉


「……千石……!!」

危険だ。この男は危険だ。


この男の言っていることはあくまでも推測だが、限りなく事実に近い。そしてそれを人々に信じさせることが出来る。


〈……センパイ。こいつ……何が言いたいんすか? そんなことわかったところでどうしようもないっすよ。もうスレイヤーは止められない。そうっすよね?〉


「いや……。違う」


 新名との回線はさきほどからつないだままなので、彼の声が聞こえてきた。

新名らしくない、少し考えればこの男がこの先どうするつもりなのかは簡単に推測できるはずだ。


 さっきとは逆なのだろう。人は、自分の信じたくないことは信じない。

 

 千石は少し時間をあけ、聴衆が彼の言葉を理解するのは待ったあと、ゆっくりと続けた。


〈このままでは巨大な悪に対抗することはできない。世界は危機にさらされ乱れるだろう。……俺はそれを止めたいと思っている。多くの人が幸せに生きることができる世界を守るために〉


 聴衆が黙りこみ千石の言葉を待っているのがモニタ越しにも伝わってくる。

きっと今世紀でもっとも世界中が静かな瞬間だった。

 

〈悪を倒すのなら今はおいて他にない。メタリカが弱体化し、スレイヤーに新興故の脆さが残る今でなければ、やつらを討つことは出来ない。もしやつらを止めることが出来なければ世界は変わってしまう。だから俺は戦う……! そのための仲間を求めている〉


 千石の静かで激しい言葉。


 迷いがない。

この世界を守るために戦うときは今だと、そう告げた言葉はまっすぐで強い。


 素顔を晒し、本名を名乗ったのはこのためだったのだ。


「こいつの狙いは……!」

 寧人には千石が何を言おうとしているのかわかっていた。


ガーディアンと連携していたことからこれがすべて計画通りだったということもわかる。千石は今、ガーディアンと共にある。コンタクトも取れるだろう。もはや謎のロックスではないのだ。


ここが重要なのだ。


数々のロックスは正体不明な者が多い。

それは、正体を知られれば身近な者に危険が及ぶということや自身の生活上の問題から意図的に正体を隠しているケースがほとんどだと推測されている。


だからロックス同士が繋がることはほとんどない。ロックスの情報はどの組織も求めていることであり、うかつに自身の正体をもらすことは危険過ぎるのだ。


様々な公的機関にも悪の手が入っていることもあるため、ガーディアンですら信頼するのは難しいとされる。だから彼らは基本的に謎の存在なのだ。


例外としては誕生時点から正体が知れ渡ってしまったソニックユースやマルーン5がいるが、ソニックユースは暗殺を防ぐために徹底的なセキュリティ下での生活を余儀なくされていたし、マルーン5は五人が絶大な信頼関係で互いをカバーしていたからこそ活動できていたのだ。

絶対に信頼できる相手でなければ、ロックスが正体を明かすことはない。


また、ロックスはそれぞれ別の動機で戦っている。

沖縄を脅かす魚人サンタァナと戦う精霊だったラモーン、ニューヨークの人々の夢を守り続けたソニックユース、超能力兵士による世界征服を食い止めたマルーン5。


多くの種類の敵を相手にする者や自分の敵を倒したら活動を停止する者など、様々な有り方があるロックスだが、一つだけ共通することがある。


いずれも今ある世界の平和を脅かす者を良しとせず、悪を止めるために戦う存在だということだ。

彼らは、さきほど千石が説明した世界の危機を聞いてどう思うだろう?


 正体は明かさず正義のために戦うロックスは強いが、これまではあくまでも個の力だった。

 ならば彼が結集したのならそれはどれほどの力になるのか。


 これまではありえなかった。危険性から正体を隠し、それぞれ戦う動機が異なっていたロックスが共闘することはほとんどなかった。


 だが今、それを可能にする二つの条件がそろったのだ。


『絶対に信頼できるリーダー』『全員に共通する戦うべき悪』、この二つを明確に提示できる男は全世界に一人だけ、人々のために戦い続けた最初にして最強のロックス、ディランだけだ。


〈俺はディラン、千石転希。俺は今、ガーディアンと共にある。そして待っている……集え。英雄ロックス!〉


 最強の正義が咆哮をあげた。様々なオリジンを持つロックスたちを一同に集め、共に戦う。それが千石の狙いだったのだ。


それが世界中に届いたであろうことは聴衆の感動の叫びを聞くまでもなく、誰の目にも明らかだった。


〈聞こえるか? スレイヤーを率いる男よ。俺は信じている。この呼びかけに答える者たちがいることを、俺とともに世界を守る力になってくれることを。この世界をお前の好きにはさせない……!〉


 千石がこちらを指差す。その目には一点の曇りもない気迫があった。気高かった。


全身に、電気のような衝撃が走った。

 


寧人はその瞳をみて自分の体が震えていることに気がつき、そして心から理解した。


この男こそ、最後の敵になる。

俺の道を遮り世界の変化を止めるために、この男は戦いを挑んだのだ。


〈……センパイ! どーするんすか? 一度メタリカ戻りますか!?〉

 

 通信から聞こえる声。あの新名ですら少しだけ焦った声をあげていた。

それも当然だろう。文字通り、今夜世界は動いたのだ。放送の開始からロックスへの呼びかけまでわずか数分、この数分で寧人を取り巻く環境が劇的に変わった。


ラーズが倒され藤次郎の死が明かされたことはメタリカに混乱を生み隙を作るだろう。

そしてあの呼びかけに応える者は必ずいる。あれに応えないような者がロックスと呼ばれる存在になるはずがない。


あの男の放った白く強い言葉は必ず強大な流れを生む。


それは世界を壊して変えるために走ってきたおれたちにとって、最大の脅威になり、同時に世界の希望になる。

 

 

「……上等だ」


 寧人は自分の膝を殴りつけ、歯を食いしばり震えを止めた。


「いいや。今メタリカに戻っても意味がない。だが即行動を開始する。至急、トップ回線で池野につなげろ。おそらくはアイツも俺と同じ考えだろうから行動を決めるのに時間はかからないはずだ。ツルギには戦闘員を集めさせメガフォース2の機動準備を、ベナンテはアンスラックス全員をいつでも動かせる体勢を取らせろ」


挑みかかるのは世界で一番強く優しい、気高い男。

だがそれがどうした。

俺の前に立ちふさがるのなら、誰であろうと容赦はしない。そう決めたはずだ。

 俺のやることは変わらない。だが、前倒しだ。ディランがあのような声明を出したからにはそう時間はかけられないだろう。速攻でことを終わらせる必要がある。


 そしてその上であの白い力を迎え撃つ。


「……それから新名、お前は」


 新名に次の行動を指示しようとして、止めた。客室の外、上空から轟音が聞こえてきたからだ。これはスレイヤーの高速ヘリのプロペラ音に間違いない。 


「早いな」

〈でしょ? さっさと乗ってください〉


 窓を開けると月に重なるように浮遊する黒いヘリと、ヘリのドアのあたりに立つ新名の姿が見えた。


 閑静な山間の温泉宿だったというのに申し訳ない。寧人はヘリが生み出す強風に丹前をはためかせながら心の中で謝罪した。アニスがあとでフォローしてくれるだろうけど、出来ればこんなことはしたくなかったが。


「ああ。すぐに行く」


 寧人はそう答えると、ヘリから垂らされた縄梯子に向かい歩き始めた。


※※


 同時刻、すでにライブによるディランの放送が終わった各局は引き続き報道を続けていた。ディランの正体について、そして今回の行動の真意についてだ。


 それは事前にガーディアンが正確な情報を提供していたこともあり、ほぼ間違いのないものだった。ディランの衝撃の行動と呼びかけからわずか30分後ディランが今回発案した計画には全世界共通の名称がつけられた。

それはマスメディア側の都合と視聴者の声を反映して作られたものだがったが、偶然にも千石が考えていたそれと一致するものだった。


シンプル・プラン。


悪を倒し世界を守るために、正義のロックスが結集する。

子どもでも思いつく、しかしこれまで誰にも出来なかった単純な計画。キャッチーでありながらも真理をついたこの計画の呼び名は、またたく間に全世界に定着した。




ちょっと整理ですが、作中のヒーローにはメタリカが定めたランクがあります。

Sクラス→ディラン、他0名

Aクラス→スリップノット、ソニックユース、マルーン5(5人セットで)、他3名

Bクラス→ラモーン、ビートル、マルーンレッド、他13名

Cクラス→マルーン5のレッド以外、ウイングス、他42名


くらいはいます。未登場のやつらもこれから出てきます。結構お気に入りです。

また、現時点で生きてるやつが誰だったか思い返していただくとこのあとの展開が読みやすいかもしれません。



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