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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
組織頂点編~シンプルプラン~
55/106

アンタには参りましたよ。ボス

主人公不在回です。

 メタリカ本社、グローバルレベニューマネジメント部はクリムゾンを事実上の支配下に置いたことにより忙しさが増していた。


 同部署は他組織との合同計画の推進や調整業務を主とするが、現在取り掛かっている大きな案件は二つある。


一つはクリムゾンが独占していた特殊武装や機器のテクノロジーを取り入れ、メタリカの技術と合わせることで両組織の戦力を増強すること。


そしてもう一つはクリムゾンが築いた地盤を利用してメタリカが米国に進出するプランを練ることだ。


 いずれも簡単なことではない。

小森寧人の成し遂げた奇跡的なクリムゾン吸収合併劇のメタリカにあって、もっとも重要な部署の指揮を任されたのは、今期から取締役に就任し、グローバルレベニューマネジメント部の部長を兼任している男の名は、池野礼二。


開発室一課長時代に次世代型改造人間の開発に大きく貢献し、その後室長に昇進。より実用的な改造人間の作成と運用という功績を作ったことで、池野は現在の地位まで上り詰めていた。


池野は常人なら務まるはずもない激務をこなしつつも、そのスマートなたたずまいをすこしも乱してはいなかった。


今日も彼はその辣腕を振るっている。


 「OK。すぐにサンプルを開発室に送れ。クリムゾンの飛行技術は一刻も早く改造人間に取り入れる必要がある。一ヶ月以内にプロトタイプを提出させろ。完成時の運用案は私のほうですでに作成済みだ」


 部長の椅子に腰掛け、次々に指示をだす。


 「LAの状況はどうだ? よし、ならすぐに人を送る。クリムゾンがうちに吸収されたことで米国の他組織は対応を決めかねている。今のうちに地盤を固める」


 同部署にいる池野の部下たちも指示に応え、素早く的確に仕事をこなす。みな精鋭級のエリート揃いだ。


 「……よし。今日はこんなところか」


 仕事が一段落したのを確認し、池野は部下たちに帰社を促す。残業など能力のないバカがすることだと池野は捉えていた。終わったら帰ればいいのだ。それに池野自身はこれから取締役会に参加しなければならない。



 今日の仕事も完璧だ。持って生まれた高い素質と日々の自己研鑽による優秀な能力。いまだかつて、誰にも一度たりとも負けたことはない。


 池野は席をたち、会議室に向かう。取締役会は、メタリカにおいてM会議に次ぐ重要な会合だ。多くの場合M会議の前段として行われ、M会議のテーブルにあげる議案などを決定する。


取締役会には首領を除くすべての取締役が原則として参加するものだが、今回小森は欠席のはずだ。


池野は思う。


取締役に就任したタイミングはわずかに小森のほうが早かった。だが、その結果としてやつは今米国に出向している。


なるほど、たしかにクリムゾンを落としたというのは大きな功績だ。どうせなにか非道な手段をとったに決まっているが、その功績自体はイヤイヤながらも認めている。結果としてメタリカは大きく躍進した。

だが、このタイミングで本社を離れているというのは致命的だ。取締役といえども、本社にいないのでは発言力はないに等しい。


所詮出向先は出向先、このままいけば、小森はクリムゾンのトップ兼メタリカ米国支社長という形に落ち着くのが一番自然だ。


俺は違う。


特地や米国を転戦し、綱渡りのような邪道な方法で出世を続けてきた小森。

本社で高い功績を出し続け、一度の失策もなく正攻法で高い評価を出し続けてきた自分。


この差は大きい。



池野は小森のように世界を征服して変えたいという思いはない。

ただ、誰よりも強い自分でありたいだけだ。どんなときでも自分らしくいられるように。世界の形がどうであろうと、関係なくいられるように。


そしてこの世界で最強とされる人間の一人は、メタリカの首領だ。


俺はそこにたどり着く。小森、もう一つの件も勿論だが、メタリカ首領の座もお前に譲るつもりはない。


 池野は決意を固め、初めて参加する取締役会に全力で臨むことにした。


 取締役会は比較的スムーズに進んだ。もちろん池野も自分の考えを主張し、他の取締役をうならせる場面もあった。


 豪傑ラーズを前にしても、天才・プロフェッサーHを前にしても、池野は怯まず、米国を足がかりに南米を落とすプランやグローバルレベニューマネジメント部の予算増をM会議に通すことを承認させた。


 それも当然だ。池野の考え抜かれたプランには一部の隙もないのだから。そして必要とあれば自らが前線で戦う覚悟もある。誰にも文句は言わせない。


 だが、取締役会の終盤、比較的無口だったハメット相談役が口を開いたことに端を発し、プロフェッサーHが何故か怯えたようにそれに賛成したことで、池野にとってあまりにも予想外なことが決定した。

 

 小森寧人の常務就任が決定したのだ。


常務取締役、それはここにいる大半の平取締役を追い抜き、メタリカでトップ5の地位に着くということで、M会議に参加する権利を得るということだ。


取締役会における議決は過半数の賛成によって行われるが、プロフェッサーHが賛成したこと、またラーズが小森を気に入っていることから、この議案はあっという間に可決した。もちろん、池野にこの決定を覆すことなどできない。


たしかに、小森の功績はすさまじいものがある。だが、それにしても。


「……どういう……ことだ」



池野にはわからなかった。小森がしかけているであろう何かも。そしてメタリカがこれからなにをしようとしているのかも。


※※


 「ほう。あのお嬢さんたち、なかなかやるじゃねぇか」


 ツルギ・F・ガードナーは邪悪な魔法種族とされるジャミロクワイの結界の中に足を踏み入れ、つぶやいた。


 『結界』は秋葉原の一部を包んでおり、廃墟となっている。現在人はいない。ここを拠点としてジャミロクワイは活動しており、人々に危害を加えている。すでに死者は数百人をくだらない。


 ツルギが『やるもんだな』とつぶやいたのは、目の前で行われているジャミロクワイとロックスの戦いを見た率直な感想だ。今戦っているのは、緑色の体色と童話に出てくる魔法使いのような衣服が特徴的なジャミロクワイのなかでも最上位に位置する個体のはずだが、ロックスは互角に戦っている。


 魔法という不可思議な戦闘スタイルをとるジャミロクワイと戦う二人組のロックス、『ウイングス』。その正体は、と、いっても見れば明らかに分かるし有名なことなのだが、十代の少女だ。


彼女たちはツルギの目からみれば、戦闘に適しているとは思えない少女らしいヒラヒラとした服を着ており、髪の色もやたらと明るい原色で、闇にまぎれることもできそうにない。

しかし、その実力は本物のようだ。彼女たちもまた魔法を使っている。キラキラと輝く光の波を手にしたアクセサリーから放ち、ジャミロクワイと互角に戦っている。その戦闘力はあなどれない。


「どうしますか? ウイングスがジャミロクワイを倒すのを待ちますか?」


 ツルギの背後に控えている十数名のうちの一人がそう提案してきた。


「ふっ、バカを言うな。国内の悪は『俺たちの手で』潰しておく。それがボスの意志だ。それに、もうだいぶ弱っている。俺が変身するまでもない」


 手にした日本刀を鞘から抜き、ツルギは応えた。


「まぁ、そうですね。わかりました」


「全滅したら意味ないですしね」


「しっかし、ジャミロクワイの連中、あれホントにこっちの戦力になりますかね?」


ツルギの背後にいる者たちは、本質的にはツルギの部下ではない。メタリカの組織表の上ではそうだし、この場ではツルギが指揮を取っているが、彼らの本当の主君は今米国にいる小森寧人だ。


元々は沖縄支店であったり、営業部だったり、開発室所属だったりした者たち。いずれも間近で寧人の戦う姿をみて、あるいは激しい悪意や言葉を目の当たりにして、寧人に信服したものたちだ。


現在は、第一営業部に席をおいており、部長であるツルギとともに寧人の信念のもとで戦っている。


「無駄口はそこまでにしておけ。……いくぞ」


 ツルギは日本刀を構え、激闘を繰り広げるジャミロクワイとウイングスたちに歩み寄る。


 「!? な、なんだぁ? お前らは!? 死にたいのかぁ?」


 ジャミロクワイはツルギの接近に気づき、声をあげる。


 「ダメ! おじさん! ここは危ないよ! ボクたちは大丈夫だから……逃げて!!」


 ウイングスの片割れ、ショートカットのほうの少女が正義の味方らしくこちらを気遣う。活発そうだが、心に優しさがあることがわかる。


 だが、当然ツルギは意に介さない。あとに続くものたちも同じだ。そのまま前進し、ジャミロクワイにのみ視線をやる。

 


 「俺の名はツルギ。悪を極める男、小森寧人が一の槍だ。お前に恨みはねぇが、覇業をなすため、斬らせてもらう」


 ツルギはよく通る低い声で名乗りを上げた。


 「コモリ!? あの……メタリカのかぁ……!?」


 「!? 噂にはきいたことがあります……。まさか…、そんな!」


 ジャミロクワイと、ウイングスの片割れ、眼鏡をかけた方が驚きの声をあげた。


 「……覚悟しろ」


 ツルギは瓦礫を利用して高く跳躍した。元々の筋力に加え、改造手術を受けたことでさらに強化されたツルギの身体能力は変身をせずとも常人をはるかに超えている。


ツルギの大きな跳躍と同時にメタリカの他のものたちは、一斉にジャミロクワイにむけて一斉射撃を行う。


 「ぬわっ!!」


 ジャイミロクワイは魔法で作り出したらしきドーム状の氷の障壁に篭り、銃弾を防ぐ。


 だが、空中にいるツルギはこの時点で確信する。


勝ちだ。


 「ふんっ!!!」


ツルギは大上段に構えた刀を、氷のドームに向けて、落下しながら思い切り振り下ろした。

 

 ガツン、という鈍い音が響いた。一瞬遅れて、氷にヒビが入り、粉々に砕け散る。

 隠れていたジャミロクワイの姿が露出したかと思うと、すぐに膝をつき、倒れた。


 「……峰打ちだ。安心しろ」


 ツルギの剛剣は魔法の氷による防御さえも貫く衝撃で、ジャミロクワイを倒したのだった。


 即座に、部下たちは気絶したらしきジャミロクワイをタンカに乗せ、運ぶ。最上位の個体が倒されたのだ、彼らの勢力は大打撃を受けることであろう。


 「嘘……! たったの一撃で……」


 「どうしてだよ? どうしてメタリカがボクたちを助けるの!?」


 目の前で起きた一瞬の戦いをみて、ウイングスは混乱しているようだった。元が少女なのだから仕方がないのかもしれないが、この辺も彼女たちがC級ロックスである理由の一つなのだろう。


 「……さて、お嬢さんたちは、ウチに帰りな。そして、もう二度とヒーローごっごはしないことだ。世の中には、本当に悪いやつもいるからな」


 ツルギはそんな彼女たちに端的に言うと、自分もその場から歩き始めた。もうここに用はない。


 振り返りもせず、ざっざっと音をたてて立ち去るツルギたち。ウイングスは背後から攻撃してきたりはしない。なにせ今ここでツルギたちがやったことは、ただ単に『悪が他の悪を倒しただけ』だ。一般市民に危害を加えたわけでもない。


それにそもそも、彼女たちは、同種の力をもつジャイミロクワイを専門にしている。ツルギは知らないが、他のロックスたちと同じように、力を手にした経緯や戦う理由があるのだろう。これまでメタリカと表だって戦ったことはない。ならば、それはそういうことなのだ。


 もちろん、彼女たちが戦うというのなら、こちらも相手をするつもりはある。彼女たちもロックスである以上、難しい戦いになるかもしれないが、それならそれでいい。

 

 結局、ウイングスたちは攻撃してくることはなかった。


 これで、今日の仕事は、そしてツルギに任された期間は終わりだ。先日、ボスの帰国が伝えられている。 


 「これで、7つ目か……ボスの帰国前に全部潰しておきたいところだったがな……」


 まさか渡米から半年足らずでクリムゾンを掌握してしまうとは、予想よりもはるかに早い。いかにツルギといえども、この短期間に他の悪の組織や種族をすべて倒すことは出来なかった。まだ強い勢力は残っている。


 もっとも、可能な限りでいい。ということだったので、指示を達成できなかったわけではないが、ツルギとしては不満が残る。


いくらなんでも早すぎる帰国だった。経緯はわからないが、彼の『悪』の強さに磨きがかかった結果なのだろう。


 「……まったく。アンタには参りましたよ。ボス」


 ツルギはあらためて自分が忠誠を誓う男の底知れなさを感じた。

 



 


国内組を全員書こうと思ったのですが、長くなったので、一部は次に回します。

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