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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
米国進出編~スリップノット/ソニックユース~
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大丈夫だよ、アニス

活動報告の告知予定より早く書けました。すいません前倒し投下です。

2トップロックスの共闘とミスタービッグの謎の失踪がクリムゾンに与えた影響は大きかった。幹部の誰もが動揺していたし、あらゆる悪事の現場にあらわれるソニックユースとスリップノットにクリムゾンの作戦はことごとく阻止されたからだ。


 二人のロックスの共闘は単純な戦闘力向上のほかにもう一つ大きな問題がある。対応速度の向上だ。


 ソニックユースはこれまで、どちらかというと後手に回ることが多かった。事件が発生してから現場に駆けつける、というスタンスだ。これは予知能力があるわけではないのであたりまえだ。


 一方スリップノットは、どうやっているのかはわからないがクリムゾンの計画をある程度事前に掴んでいるふしがあり、現場に先着して作戦開始前のクリムゾンを攻撃してくることが多かった。


 そして現在はソニックユースまでもが、スリップノット並みの対応速度になっている。クリムゾンが作戦を遂行する上で非常に大きな問題だった。


これは共闘を続けるうちに両者が交流をもつようになり、スリップノットが自分のもっている情報をソニックユースに流しているからだとクリムゾン側は推測していた。



 そんな事情もあり、寧人は予定を早めて退院した。このままではクリムゾンはガタガタになってしまう。


 ミスタービッグ不在のなか、クリムゾンでは幹部会が行われることになった。当然寧人も幹部の一人として出席していた。議題はもちろん、現在の窮地について、である。


 

 ミスタービッグをトップにおき、その下に13人の幹部がいるのがクリムゾンの上層部の組織構成だが、13人に序列はない。その13人のうち、現在生き残っている10人がビル高層フロアのオフィスにて円卓を囲んでいた。



 「それにしても何故あの黒タイツ野郎はいきなりあんな行動に出たんだ!?」


 「ミスタービッグはあいつらの手に落ちてしまったのだろうか」


 当初は混乱を前面にだした悲観的な話でスタートしたが、すぐに対応策の検討が始まった。そこはやはり、クリムゾンの幹部達だ、いずれもみなミスタービッグの元で辣腕を振るってきた悪の猛者だけのことはある。寧人は議論の流れを見つつそう考えていた。



 「一度ニューヨークから撤退してはどうだ?」

 

 という意見が出た。だがこれは却下だ。もちろん寧人も賛成は出来ない。それは逃げだ。クリムゾンは2トップロックスを恐れたことになる。そうすれば今は押さえつけているほかの悪の組織たちが反乱を起こすかもしれない。舐められては終わりだ。


 それにそもそも、ニューヨークは絶対に押さえなくてはならないエリアだ。



 「ソニックユースとスリップノットの共闘をやめさせることができればいい。情報操作で互いに不信感を持つようにしてはどうか?」


 という意見もでた。これはみるべきところもある考えであるように思うが、果たしてそれは可能か? スリップノットは元々いいイメージばかりの者ではないし、今更多少彼に不利な情報が流れても意味はないかもしれない。それにソニックユースの高潔な人格と高い人気を考えればいかなる情報操作も無意味だろう。第一、すでに二人が直接接触しているのだから、情報操作などでその関係を割くことができるとは思えない。



 「まずはミスタービッグの捜索が先決だ。今は強力なトップが必要なときだ。そして万が一、ミスタービッグが討たれてしまっているのなら、その復讐はファミリーの掟として最優先すべきことだ」


 これは一見もっともだが、意味のない意見だ。すでにすべての幹部には捜索にあたる方針が出ている。寧人もまた自担当エリアであるマンハッタンの捜索を依頼されている。


 復讐も同じだ。それはファミリーの掟として絶対に行わなければならない。今後のメタリカの体勢にも係わることだ。だがミスタービッグを見つけられない現状でそれを話しても無意味だ。

 

 寧人は腕を組み、議論の流れを観察していた。


 みんな本当はどうすればいいか、わかってるだろ?

 言い出さないのは何故だ? その責任者になるのを恐れているからか?

 それとも、それはできるわけがない、と思っているからか?



 寧人の眼前にはいずれ劣らぬ迫力の米国トップクラスの悪党たちが白熱した議論を交わしている。だが結論が見えている議論に時間をかけるのは滑稽だ。



おそらくあと数時間も議論すれば、結論は出るのだろうが、そんなに待っているつもりはない。


 寧人はおもむろに立ち上がった。


 円卓を囲む者たちの視線が集まる。議論はいったんとまり、オフィスは静かになった。



 全員の注目が集まったのを確認し、寧人は口を開いた。



 「倒すしかないでしょう。この国最強の二人を。俺たちの手で」


 端的に言い切った。これは当然の帰結なのだ。共闘し今までと違う行動パターンの正義に押されて、クリムゾンは危機を迎えている。ミスタービッグの失踪の謎も、彼らが係わっているとすれば、倒してしまえば謎は解けることになるのだから。


 寧人の言葉を受け、幹部たちはがやがやと声をあげた。


 「それはたしかだが、方法はあるのか?」


 「簡単なことじゃないぞ。君は日本では名のあるロックスを倒してきたそうだが、スリップノット一人を倒しきれなかったじゃないか」


 「わかっているさネイト。その方法をこれから話し合おう」


 彼らのいうことはそれぞれ一理ある。なんの策もなく戦える相手ではない。

 単純にクリムゾンの全戦力で当たればいいというものではない。全米に散っている戦力を集めるのも非現実的な話だし、クリムゾンは2トップロックスと戦う以外にもやらなければならない『通常業務』だってある。


 それにやつらに対しては基本的にこちらから攻めることはできない。スリップノットは正体が不明で、ソニックユース、つまりマーク・ゴードンの私邸は国家レベルの安全対策がされている。そんななかでどう策を練れる? その疑問はもっともだった。



 「……俺に考えがあります。とりあえず、デカイ悪事を働こうとすれば確実に現れるでしょう。そこを討ちます」


 寧人は静かな声で幹部たちに説明をはじめた。


 「たしかにな。だが現れたヤツらとどう戦う?」


 「現場で指揮を取るのは、俺がベストだと思います。改造人間ですから。それにロックスと一番戦い慣れているのも俺です」


 会議室のざわつきが大きくなった。彼らの考えていることはわかる。こんなものは策をはいえない。


 「君は死ぬつもりか? 我々はもうファミリーなんだぞ。新入りだからといって味方を捨石になどしない」



 幹部の一人がそういうと、皆が頷いた。


なるほど、これがミスタービッグの作り上げたクリムゾンの力の秘密か。寧人はすこし感心した。


成功の可能性は極めて低いが、もし失敗しても他の幹部たちはほぼノーダメージだ。万が一成功すればそれはそれでメリットがある。これまでの寧人のキャリアを考えるとかすかな希望くらいはあるはずで、それに乗るのは悪くないはずなのだ。


だが幹部たちはそれをよしとしない。『ファミリー』だから、ということなのだろう。ありがたい話ではある。が、今はそれではいけないときだ。


「お心遣い感謝します。ですが、まったく勝算がないわけではありません。俺に任せてくれませんか? ミスタービッグは俺のことをこう呼んでくれました。『ヒーロー・キラー』 俺はもともとメタリカの人間です。ですが受け入れてくれたクリムゾンやミスタービッグには恩も義理も感じています。あの人は俺を信じてくれた。だから、その信頼に報いるのは俺の使命です」


口調は穏やかに静かに、だが内側で燃える炎のような闘志を滲ませる寧人。


幹部たちの表情がより真剣になる。寧人を見つめる視線に、少しずつ信頼の色と希望の光が差していく。


「だが……それでも……」


一人の幹部が口を開こうとしたが、寧人はそれを遮り、そして彼の目をまっすぐに見つめる。


「俺は勝ちますよ。絶対にね」


 断固たる言葉。それも当然だ。さもなければこの場を、ミスタービッグ不在のクリムゾンで主導権をとることなど出来ない。



 そして、この言葉は寧人の本心だった。自信がある。今度は絶対に勝てる。だからこそ放てるオーラがある。寧人はこれまでの経験からそれを知っている。


 寧人の断言に、もう誰も反対しなかった。結果、会議は終了となった。


※※


  その日のうちに寧人は即座に準備を終了させた。ことは一刻を争う、作戦決行は明日だ。


 オフィスを出た寧人は自宅へまっすぐ帰ることにした。飲みにいったりする気分ではなかった。


 クリムゾンが用意してくれた寧人の自宅は職場から数ブロック先の高層マンションのペントハウスだ。その帰り道を一人歩く寧人。ふと気づいて、空を見上げてみた。


 「………雪か」


 道理で寒いと思った。しんしんと降る雪が、夜のマンハッタンを銀色に染めていく。

 

身を切るような寒さ、だが今の寧人にはそれがちょうど良かった。黒のコートの襟を立てて、寧人は歩いた。


「……アニス?」



 マンションの入り口付近にたたずむ人影がいた。毛糸の帽子から見える金髪に鮮やかな赤のコート。もう3年以上の付き合いになるあの少女だった。



 「ネイト。おかえりなさい」


 アニスもまた寧人に気がついたようで、駆け寄ってきた。


 「俺を待ってたの? 寒かっただろ」


 「ん……。ちょっとね」



 アニスは照れたように笑った。鼻の頭が赤い。きっとちょっとどころじゃなく寒かったのだろう。手袋をした手で口元を覆っていた。



 「どうかしたの?」

 「……うん」


 だがアニスはなにも話さなかった。いつもの元気な彼女ではなかった。降り積もっていく雪のなかで、沈黙の時間が二人の間を流れた。


 「元気、ないな」


 「あはは……そうだね。ゴメンね。ネイト」


今日の彼女は別人のようだった。


ミスタービッグが消えてから数日が過ぎているが、それでも彼女はこれまでの期間、落ち込んだ姿を見せていなかった。いつものように明るく、寧人や他のみんなの心を励ましてくれる存在だった。


もちろん、それが彼女の健気な努力だということを寧人は知っている。


あれだけ仲の良かった親子だ。大好きなパパがいなくなって、こたえないわけがない。


それでも彼女はいつもどおりだった。きっと家では泣いたりしているのかもしれない、とも寧人は思っていたが、なにもしてあげられなかった。自分にそんな資格はない、と思っていたからだ。こうなったのは、俺が弱かったからだ。そう、思っていた。


 「……聞いたよ。明日、戦うんだね」


 「うん」


 寧人は素直に答えた。もうこれ以上隠し事はしたくなかった。少なくとも今は。


 「ヤダよ……ヤダ……ネイトまでいなくなっちゃいそうで」


  アニスは震えた声でそう呟くと、寧人の胸元にしがみつくように体を寄せた。


 「……」


 寧人はすこし考えて、アニスを抱きしめた。そんな立場ではないのはわかっている。でもそうすることしか出来なかった。震える肩をみると、そうせずにはいられなかった。慣れていないので、寧人自身、震えながら。



 「大丈夫だよ。アニス」


 散々悪事を働いてきたくせに身内がやられるのはイヤだと? ふざけるな。

そういう人はいるだろう。それでも、寧人はアニスの気持ちを受け止めたかった。


ミスタービッグにしろ、寧人にしろ、これまで危険なことは沢山あった。アニスはいつも明るかった。それは多分、状況の恐ろしさよりも信頼や好奇心のほうが勝っていたからなのだろう、と改めて感じる。


いくら悪のサラブレッドでも、いくら変わった倫理観をもっていても、悪人を好きになるような部分があっても、それでもアニスはやっぱり女の子で、大好きな人がいなくなってしまうのはつらいんだろう。


クリムゾン最大の敵であるロックスが大きく動いているなか、ミスタービッグは行方不明。その安否はアニスには知りようがないことだ。きっと不安でたまらないはずだ。


だから、せめて、俺だけは。俺だけはこう答える。


「俺は絶対にいなくならない」



 どんな敵でも倒してきた。それは悪を極めて世界を変えるためだ。だが今回はそれに加えてもうひとつ、絶対に勝たなくてはいけない理由がある。


 寧人はアニスの震えをとめるように、冷たい体をすこしでも温められるように、抱きしめる腕をすこしだけ強くした。


 「……ぐすっ…ん……うん。約束、だヨ」


 アニスはぐすぐすと涙まじりの声で答えてくれた。


 「あー、もー、顔がなかなかすごいことになってるぞアニス」


 そういってハンカチを渡そうかと思ったが、このハンカチは多分三日くらいまえからコートのポケットに入れっぱなしのクシャクシャなやつだということを思い出し、やっぱりポケットティッシュを渡した。



 「ん。ありがと」


 ちーん、と鼻を噛むアニス。


 「……えへへ。ごめんね。かっこわるいとこみせちゃった」


 顔を上げたアニスの表情はさっきよりはすこし明るかった。


 「ああ。いいよ別に」


 「ネイト、日本で遊園地に行ったとき、わたしが言ったこと覚えてる?」


 アニスは健気に頑張って穏やかな表情を作っているようにみえた。



 「……うん」


 「ネイトをみてるとワクワクする。この男の子はどこまでいくんだろう、どんな世界につれていってくれるんだろう、って。だから、寧人をこれからもそばで見ていたい。どんなに寧人が悪い人でも」


 不意に、手を握られる。こんなときなのに、寧人はすこしドキドキした。


 「パパのことは大好きだよ。でも寧人のことは、違う好き」


 そういうと、アニスは寧人に一歩近づき、背伸びをした。


 静かに振りつもる雪のなかで、寧人は予想外の行動に出たアニスに対応できず、固まってしまうだけだった。



 「……ア、アニス?」


 慣れないことだったので、寧人は硬直してしまった。そして硬直しているうちにそれは終わった。


 「えへへ♪ わーい、やっちゃったヨ」


 「……あー……」


 「♪~。んっんー♪ ネイトみてみて。あそこ。雪だるまつくれるくらい積もってる!」


 呆然とする寧人の横では、アニスがくるくると踊るように回っていた。なんだか照れ隠しのようにも見えたし、不安を払拭するように無理をしているようにも見えた。


 寧人はリアクションが出来なかった。柔らかい感触だけが唇に残っていた。


 アニスはそんな寧人をみると、びしっと指をさしてきて、いつもの、天真爛漫で魅力的な彼女の声でこう言った。


 「ん! 元気になった! ありがと、ネイト。わたし今日は帰るね。寒いからネイトも早く家に入ってね。風邪引いちゃ、ダメだヨ。明日、ガンバッテね!」


 「あ……、送るよ」



 「いいの!! ネイトはもう帰って寝るの!」


 寧人の言葉をなにやらムキになって断り、アニスはそのまま走っていってしまった。



 「……?」



 一人になったネイトはアニスのことも含めて色々なことを考えた。


そして思う。


今回やることは、これまでのなかでも最悪のことだ。だけど、それでも、いやだからこそやる。やらなくちゃならない。


俺はもう、引き返すことは出来ない。



寧人は眠れない夜を過ごした。悪事をなすと決めた寧人がそんな夜を過ごしたのは、初めてだった。

 



そういえば本編には出ないのですが、各ロックスが主役のスピンオフ的短編を書いてみました。力を得た経緯とか見せ場の戦いを書くと自分的に愛着わきますね


『白銀の騎士ディラン』

『機動鋼人ハリスン・ビートル』

『精琉霊ラモーン』

『超能戦隊マルーン5』


やっぱりヒーロー物が好きなようです。

本編終わったら短編投稿するかもしれません。

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