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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
米国進出編~スリップノット/ソニックユース~
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あいつメッチャひびってるぜ

久しぶりの休日だった。開発室の仕事が一段落した寧人は都内のメタリカ独身寮に戻ってきていた。

 

 寮とは名ばかりで、ただのアパートを借りているだけで、10畳のワンルームだ。

 多少は収入があがった寧人だったが、引越しをするのが面倒くさいという理由で、この部屋を引き払ってはいなかった。


 辞令は多分そろそろ出るころだろう。しばらくはすこし時間に余裕がありそうだった。

 もちろん訓練は欠かさないが、最近、すこし疲れた。


 寧人は今日の午後まで何も予定を入れていなかった。


 「……よく寝た」


 目覚めた寧人が時計をみると午前10時だった。連休二日目、昨日は一歩も家からでなかった。こんな怠惰な生活は久しぶりだ。


 のそのそと起きだして、冷蔵庫を開ける。何か食べ物はあっただろうか。


 そういえば今日も夢を見た。昔からよく見るトラウマが映像化したような夢とはすこし違う。最近は死んだはずの人がよく現れる。


 家族を社会の底辺近くまで突き落としそのまま死んだ父、その後数年寧人を育てたあと『慰謝料』というなの生活費を数年分を残し、亡くなった母。


 彼らが夢に出てきてはなんだかんだと話しかけてくる。


 ちょうど改造手術を受けてから見るようになった夢なので、真紀にそれとなく聞いてみたことがあった。


 人間の精神は量子化される。死んだ人の残留思念が情報として残ることがある。精神のエネルギーを転換する改造を受けた自分は、量子化され残留している精神の影響を受けることがあるのかもしれない。


 ということだった。


 寧人にはよくわからなかったが、特に気にしない。要するにただの情報ということだからだ。


 「コメしかないな」


 冷蔵庫の中にはラップに包んで冷凍しているコメしかなかった。


 すこし考える。まだそれほど腹は減っていない。とりあえずすぐに外出するのも面倒だ。


 寧人はテレビを付けてみた。沖縄のニュースがやっている。


 〈ここ、沖縄は半年前までに多発したメタリカの被害が強く残っています〉


 キャスターが喋っている。過去の映像として破壊された建物が次々に映っていた。

 泣き叫ぶ子どもたちの映像も。血を流している人も。


 あれはたしか、沖縄の有力政治家の自宅だった。あれはどこだったかな。ああコザの町か。


 〈ですが、ここ数ヶ月、このような被害はありません。専門家の間では、『沖縄はすでにメタリカの手に落ちた』という説が有力視されているようですが、それは本当なのでしょうか?〉


 キャスターは続ける。


 〈県会議員のあいつぐ辞任、新人の無名候補者の当選、地元企業の急激な経営方針変更、これはメタリカの影響力が働いているのでしょうか〉


 そうだよ。邪魔な県会議員は恐喝で辞任してもらった。逆らうものには容赦しなかった。地元企業はもうメタリカの言いなりだ。

 破壊による恐怖を与える一方、見返りも与えている。おかげで地元の有名なビール会社は今ではメタリカ御用達だ。海洋研究で有名だった大学も、その成果を一番にメタリカに届けてくれる。


 〈また、沖縄ではガーディアン不要論が唱えられ、連日のデモが行われています〉


 そういう風に誘導したからな。

 

 〈特区として、サバスへ人権を、との声も……〉


 ああ、支店長。俺が言ったこと実行してくれてるみたいだな。ありがたい。 


 〈サンタァナ、ラモーンも現れてはいません〉


 あいつらはもう二度と沖縄に現れないよ。


 〈市民の混乱は収まり、今では平和なように見える沖縄……ですがその内実は闇のなかです。人々の笑顔の背後には、なにがあるのでしょうか〉


 今度は、普通に過ごしている現在の沖縄の人々の映像。だが、BGMはなにやらおどろおどろしい。人々の笑顔にも映像処理で影が差していた。

 

 寧人はテレビを消した。


 ……迷わない。迷わないと決めた。俺はこのままだ。


 「よし、コンビニ行くか」


 やっぱりお腹がすいていたので、寧人はアパートを出た。

 右にいくとスラム街、左にいくと普通の町だ。


 コンビニは左だ。だから寧人は左側に進む。


 道路を歩くと向こうから、若者が3人歩いてきた。寧人より三つ四つ年下だろうか、ハタチ前後くらいだ。彼らは楽しげに話しながら歩いている。彼らは横に広がって歩いているので、寧人は歩道の片隅によった。


 「でよー、この前のコンパの女さー」


 「なんだよそれ、ぎゃはははは!!」


 「つーかさー、あいつありえなくね?」


 片隅に寄った寧人だったが、ちょうどすれ違うそのとき、若者の一人が会話のリアクションなのか、大きく手を横にふった。


 がん、と音が聞こえた。おそらく彼らは寧人に気付いていなかったのだろう。彼の振った手が、寧人の顔にあたった。



 「……あ」


 痛かった。反射神経の訓練が足りないな、と寧人は思う。

 若者は缶ジュースを飲みながら歩いていたのだが、ぶつかったことで、彼は缶ジュースを落としていた。


 「……おい、なにぶつかってんのお前?」


 若者の一人が寧人にすごんできた。彼らはみな寧人より背が高い。髪の毛を明るい色に染めており、元気だった。


 「すいません」


 寧人は答える。


 「つーか、お前のせいでこれ落としたんだけど、服にかかったんだけど」

 

 彼のシャツにはジュースの染みが出来ていた。

 

 「……すいません。勘弁してください」


 寧人は頭を下げる。


 「ありえないんだけど、お前、クリーニング代とか出す気ないわけ?」


 三人は寧人を取り囲んできた。すこし焦る。

 正直困った。


 「こいつ、めっちゃビビッてるぜ? ははははっ!」


 こういう事態にはメタリカに入る前から慣れていたが、苦手だ。それに久しぶりだった。


 いや、たとえば今ここでエビルシルエットに変身すれば、あっという間に彼らを粉砕することはできるだろうけど、そういう問題じゃないのだ。それにそんなことする気はない。


 おかしいな。と思った。俺はこれまで色々な敵と戦ってきたのに。こんな人たち、100名いたってラモーンの足元にも及ばないはずなのに。


 どうして俺は、今こんなに困っているんだろう。怖い、とは思わない。ただただ、困る。


 「……すいませんっ!」


 迷ったのだが、寧人は三人の間をぬけて、走り出した。ちょっと転んだ。ケツに泥がついた。でも立ち上がって逃げた。


 「だっせー! マジかよあいつ! 必死すぎだろ。ウケる」

 「あんまりお前が脅かすからだぞ? かわいそうじゃん。イジメ、かっこ悪い。うひゃひゃひゃ」


 転んだのが面白かったのか、それとも必死に逃げる自分の後ろ姿が滑稽だったのか、背後からは三人の元気な笑い声と野次が聞こえた。


 「……追っかけてくるわけじゃ、ないんだよな…」


 うーむ。やっぱ俺は仕事じゃないと、ちょっとあれだな。ダメだな。別に半殺しにしてやろうなんて思わないけど、もう少しスマートにかわせないもんだろうか。


 池野だったらどうするかな……うん。多分腕の一つでもねじりあげて終わりだな。

 新名だったらどうだろう……なんか上手いこといってあいつらと仲良くなっちゃいそうだ。

 ツルギなら……あんな怖そうな人に絡むやつ、いないか。




 そのままコンビニに入る。インスタントカレーを買おう。


 それで家に帰って食べよう。うん。午後に備えて。寧人はすこし憂鬱になった自分の気持ちを意識的に高揚させることにした。幸いネタはある。


 「よし! 家に帰ってカレー食べて、準備するか!!」


 一人で声をだす。ちょっと気合を入れようと思ったのだ。


 午後からは予定があるのだ。


 寧人の人生で始めて、その予定がある。


 なんか流れで決まったことだし、予想外だったし、そういう対象かどうかなのかはわからないし。

 そもそもそんなことしたことないからやり方がわからないし、結構不安もある。


 でもソワソワする。楽しみでないといえば嘘になるだろう。昨日なんてちょっと興奮して眠れなかった。布団のなかでバタバタしたりした。仕事で接する分には普通なのだが、急にそういうことになってみると。落ち着かない。


 そういう対象としてみるのは色々な理由ではばかられる相手だし、ちょっと変わってるし。正直、接し方に戸惑うことも多々あるけど、彼女といると楽しい。



 だってその相手はハタからみたら間違いなく美少女だし。それに俺にしては比較的上手くやっていて仲の良い女の子だ。勘違いなのかもしれないが、好意を感じなくもない。彼女の所属している団体や経歴を考えると矛盾しているが、とてもいい子だと思う。


 一応、新名からアドバイスももらった。例によって部下のくせにニヤニヤしながら、偉そうに教えてくれた。もちろん、マジメに聞いて、感謝した。


 最近、色々あった。本当に色々あった。

 そしてこれからも間違いなく色々ある。


 でもとりあえず今日やることはあれだ。もちろん仕事の兼ね合いもあるけど。

 

 寧人は家に戻って、デートの準備をすることにした。


 あの娘はどんな格好をしてくるのだろう。

 浮かれすぎそうになるのを、寧人は我慢した。

 

ストーリー的にはそんなに進まない回です。


すいません

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