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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
社内闘争編~マルーン5~
38/106

…変身

真紀とスタッフを引き連れ、寧人はオペ室に入っていた。


 「……寧人くん、ほんとうにいいんですか?」


 開発主任である真紀の言葉、やはり改造手術というのは一生の大事だ。彼女が念を押してくる気持ちもわからないではない。だが、もうとっくに答えは出ている。



 「うん。お願い。……まぁ、怖いことは怖いけどね。俺臆病者だから」


 「そんなこと…」


 「いや、そうなんだ。でも、楽しみでもあるよ。俺の精神がどんなデザインで発現すんのかな、とかさ」



 そう言って、笑ってみせる。ここまできてやっぱりやめた。なんていうわけにはいかない。


 池野はすでに部下たちを率いて、迎撃態勢を取っている。ここでやられるわけにはいかない。


 

 「ビートルクリスタルを使ったとしても、シュバリエの予定値ほどの初期パワーは出ないと思います。それに、シミュレーションでは上手くいきましたけど、パワーが強くなる分、精神汚染も……。寧人くんが寧人くんじゃなくなっちゃうんじゃないかって、怖くて…わたし…」



 真紀は不安そうだった。寧人の身を案じていることがわかる。だけど、今はそんな時間はない。


 「いいよ。頼む。精神汚染? 大丈夫さ。俺の精神は絶対に正気を保つ。言ったよね。一緒に世界を変えよう、って。俺は戦う。池野だって、ツルギだって、みんな。だから、真紀さんも、戦ってほしい」


 真紀の戦いは、寧人の改造手術を成功させることだ。寧人はすこし強い口調でそう告げた。


 

 「……わかりました。そうですよね。じゃあ、はじめます。…安心してください。絶対に、絶対に成功させてみせます!」


 「うん」


 最初から心配しちゃいないよ。


 寧人は麻酔をうたれ、眠りについた。



 ※※


 寧人がオペに入るそのころ、池野は開発室の全員に指示を終えていた。


 開発室にやってくるだと? いいだろう。入りたければ入れてやる。


 煉獄島に分散し、開発室外で迎撃することも考えはしたが、それはやめた。開発室内のほうが戦いようはある。限られた武装を最大限に活かし、迎えいれたうえで撃破する。


開発室は様々な設備があるし、閉鎖空間内のほうが数の不利は覆せる。たしかに開発室には破壊されたくないものは多いが、敵にしても戦闘が終わるまでは破壊をメインに行動しないはずだ。多少は仕方がない。


 


 開発室は研究設備や作業場のある大きな棟が二つ、二つの棟の中央には講堂とグラウンドのような合同演習場。中身は違うが形状としては学校のような作りをしており、戦いようはある。要するに拠点防御だ。


 2時間ほどが過ぎた。池野の指示通り、全員が配置につき、準備は完了している。予定より多少時間がかかったが許容範囲だ。


計算ではあと数分でヤツらはくる。


 新名は数名の部下とともに、一棟の三階にいた。眼鏡状のグラスモニタには様々なポイントの映像やデータをリアルタイムで映し出させる、また装着しているイヤフォンマイクで全員との通信が可能だ。


 「新名、俺の指示に3秒以上遅れるな。設備をコントロールするお前が鍵となる」


 〈りょーかいっす〉


 コントロール室にいる新名に指示を出す。冷静にそして素早く自分の指示に答えることができ、かつ、前線で戦うには戦闘能力が低い新名にコントロール室を任せ、池野は前線に出ることにしていた。


 手には改良型のブレイク・ガン・ブレード。超振動の刃に加え、柄の部分からは弾丸を発射することもできる武装だ。当然ながら重量も大きい。だが、池野はこれを振るうに差し支えない筋力をもっている。


 指揮官をやりつつも、直接戦う。この状況ではそれがベストだ。


 そう考えていた。


 〈池野さんよ……来たぜ。やつらだ〉


 ツルギに言われるまでもない。さきほどからグラスモニタで確認済みだ。マルーン5とガーディアンがおよそ100名。こちらは戦えるものが23名。研究職員のなかで戦闘経験があるのはそれだけだ。足を引っ張るような者はいらない。全員地下に避難させている。


 あと、18秒だ。17、16、15…


 「新名!! シェルタードームを起動させろ!!」


 〈うぃっす〉


 振動音と共に、開発室の敷地を取り囲む塀が地下から生えてくる。それはわずか5分という時間で、そのままドーム状となって開発室を包む予定だ。


外的の攻撃に備えるための防御設備だ。このドームにはエネルギー転換装甲を用いている。そうやすやすと破壊できるものではない。


最小限ではあるし、開発室の限りあるエネルギーを使う関係上、長い時間は持たない。10分が限界だ。


さて、見ているか? マルーン5にガーディアンども。


このドームが完全に閉まってしまうと攻略は難しい、グズグズしてるとメタリカの援軍がくるかもしれない、開発室の連中は思ったより対応が早い、完全にドームが閉じるまえに攻め入らなければ。


 と、思っただろう? 


ただ10分待つだけでエネルギー転換装甲は効力切れになり、ただの金属の壁になるそのドームは、マルーン5のテレキネシスをもってすれば簡単に破壊できるものなんだがな。


 池野はグラスモニタの映像を確認し、策が成功したことを知る。


 近距離テレポートやテレキネシスによる空中移動で閉じかけたドームに侵入してくるマルーン5が1番と3番、6番のカメラに映っていた。それを池野はモニタを次々に変えて一瞬で確認していた。


 所詮普通の人間であるガーディアンは超人たちについてはこれない。

 

 狙い目はそこだった。これでガーディアンは開発室を包むドームの外側、相手をするのはマルーン5だけだ。そしてもちろん5名同時に相手をするつもりもない。



マルーン5はそれぞれ得意技がある。能力も異なる。だから、彼らが全力で移動した場合、目的地までの到着時間はややずれるはずだ。


 最初に到着したマルーン5のメンバーは、戦闘時に着用しているサイキックスーツの色から便宜的にブルーと呼称される者だ。近距離テレポートを得意とするだけあって一番速い。ブルーは真っ先に合同演習場に着地した。一棟と二棟の間にあるグラウンドのようなそこは、とてもよく見える。


 池野は即座に次の指示を出す。


 「A班! 現在地点から2メートル東に移動、その地点から侵入者に向け、一斉射撃!!」


 突入予測地点はすこしずれたが問題ない。誤差の範囲だ。

 

 一棟の二階廊下に潜んでいたA班が窓から銃口を突き出し、最初に到着したマルーン5、便宜的にそのサイキックスーツの色をとってブルー、と呼称する、に向け一斉射撃を行う。


 勿論こんな攻撃でロックスは倒せない。ブルーはサイキックパワーによるバリアを張り、弾丸を弾いた。


 「ちっ…待ってました、ってわけか。だがな…!」


 ブルーの姿が光に包まれ始めるのがグラスモニタで確認できた。だがそれも予測済みだ。テレポートは始動から出現までおよそ5秒。



 「テレポートが来るぞ!! A班全員、後退!  新名!! 二階Bブロックの天井を空けろ!!」


 〈もうやってるっす!!〉


 池野は指示をだし、そして三階の廊下を走り出す。超人というほどでもないが、池野は100メートルを11秒台で走る俊足の持ち主だ。




 ブルーの姿が演習場から消えた。そして次の瞬間、一棟の二階廊下に出現した。


 池野はその姿を確認する。グラスモニタの映像ではない、肉眼でだ。


 新名がコントロール室で行った操作により、二階天井の一部がスライドし、特定箇所が三階との吹き抜けとなっていた。これは大型機材を搬送するために各階に備え付けられている設備である。



 「はああああああぁっ!!!」



 吹き抜けとなったその地点まで駆け抜けた池野は3階から飛び降り、2階部分に出現したブルーにブレードで切りかかった。


 「なにっ!?」


 銃を構えていた敵の中央に飛び込んで蹴散らすつもりだったブルーは突如、自分を襲った上からの攻撃に反応が遅れたようだ。テレポートが間に合わず、サイキックパワーで強化した右腕で池野の斬撃を受け止めた。


 このまま近距離で戦闘など行えない。相手は超人だ。


 だが、十分だ。わずか一瞬の足止めが出来ればな。


 「A班! 十字射撃!!」


 声をあげるとともに、池野は横方向に跳び去る。


 マルーン5はサイキックソルジャー。超能力を操る。しかし、身体強度や反射速度は常人とそう変らない。この攻撃に対してならバリアを張ってしのぐ以外には対応は不可能だ。


 ブルーが演習場に現れてからここまで、わずか二十数秒。池野はブルーを仲間から引き離すことに成功していた。


 さらに、この攻防の間にもめまぐるしくグラスモニタの画面を切り替え状況は把握している。


 「ツルギ!! イエローが来る!! D班のものを率いて突撃だ! 講堂の中まで押し切って離脱しろ!」


「新名! 講堂にイエローが入ったらすぐに防弾シャッターをおろせ! やつはテレポートが使えない! しばらくは閉じ込められる!!」



 「キース!! ジャイルズとともに、屋上からスナイパーライフルで他を援護しろ!!」


  目の前のブルーにガンブレードを向け、全て正確に急所狙いの引き金を引きつつ、戦場の全てを把握し、予測していた何通りもの状況に対応し、次々と指示を飛ばす。


池野は思う。


5人そろえばA級以上に匹敵するマルーン5を分断し、曲がりなりにも戦いを成立させている。俺の他の誰にこんなことが出来る? 


見たか小森。俺の力を。


  改造手術はそろそろ終わるはずだ。この戦い、奮戦してはいるが、戦力は圧倒的に劣っている。いわば限界ギリギリの綱渡りで時間を稼いでいるようなものだ。


改造人間の力がなければ、遅かれ速かれ、押され始めて全滅するのは明らかだ。


  言ったよな。一流の指揮官と、戦える改造人間がいれば、戦える。と


  俺は果たすぞ。お前も早くしろ。


  池野は次々と変る戦況にあわせ、奮闘を続けた。



 ※※

 

 「くそ、なんてことだ……!」


 マルーン5のリーダー、くれない 光太郎こうたろうは予想外の事態に戸惑っていた。


 メタリカの開発室の位置、そして戦力は不十分であるという情報、その情報はある意味で信頼できるものだった。実際、改造人間が出てきて僕たちを攻撃しないということは、それは事実だったのだろう。


 僕たち5人なら、負けるはずはないと思っていた。


 それなのに。



 「フンッ!!」


 「! えいっ!!!」


 またも物陰から急に飛び出してくる男の日本刀による攻撃をテレキネシスで受け止める。すかさず反撃を試みようとするも、男は即座に自分と距離をとり、姿を消す。


 彼は普通の人間のはずだ。あの頬の傷や身のこなしをみるに、かなり戦い慣れているみたいだけど、それでも自分の超能力に比べればたいした戦闘能力ではない。


 だけどとても戦うのが上手い。現れては攻撃してくる。反撃の前には姿を消す。


 光太郎はサイキックソルジャーだ。得意な技はテレキネシス。精神を集中させれば、重いものだって手を触れずに持ち上げられるし、敵を吹き飛ばすこともできる。体にバリアを張ることだってできる。


 だが、光太郎を襲う男は、巧みに姿を消し、サイキックパワーを放つために集中する精神の矛先から身をそらす。


 勿論、光太郎が負けることはない。いくら鋭い太刀筋だろうと、自分のバリヤを突破できないからだ。


 「どうした? アンタ、マルーン5とやらのリーダーなんだろ? さっさとかかってきな。ボスの手を煩わせるまでもねぇ。この俺が始末してやる」


 館内のスピーカーから声が漏れる。どこにいるというのだ。


 「たぁっ!!」


 光太郎は闇雲にテレキネシスを発動し、通路の壁を引き裂く、だがその向こうにもいない。


 テレパスで感知することも難しい。何故ならこの建物は色々なギミックがあり、それを巧みに発動してくるからだ。急にシャッターが下りてきたり、あるいは強い酸性のスプリンクラーが発動したり


 怪人の製造所という役割から、例えば開発中の怪人の暴走にそなえたりしての装備なのだろうか。


 光太郎にはわからない。そしてそれで乱された精神の隙をついて襲い掛かってくる敵。



 時間をかければ、この敵も倒すことは出来るだろう。その気になれば建物の壁や廊下を全部破壊してしまうことだってできるのだから。


 しかしそう時間はかけられない。この敵は、メタリカはなにか時間を稼いでいるように思える。本島から遠く離れたこの島にすぐに援軍がやってくるとは思えないけど、そんな風に見えた。


 仲間たちとも分断されてしまった。それぞれ負けることはないだろうけど、なにか嫌な予感がする。ESPは苦手な光太郎だが、そう感じていた。


 (光太郎、聞こえるか?)


 不意に、光太郎の脳内に仲間の声がした。世間ではブルーと呼ばれている。小暮蒼一だった。テレパシーによる会話が出来るということは、そう遠くはないはずだ。

 

 (蒼ちゃん! 今どこに!? 合流しよう!)


 少年時代から一緒だった仲間の一人。親友であり戦友。


 スクールでの非人間的な教育で壊れてしまいそうだった光太郎は、彼がいたからやってこれた。ニヒルを気取ってはいるが、蒼一は優しい男だ。


今でも覚えている。最初に出会ったとき、当時スクールで落ちこぼれで、苛められて泣いてばかりいた自分に『うっとうしいな。何泣いてるんだよお前』、そう言って、そしてぶっきらぼうな彼は、いじめっ子にも『むかつくんだよお前』といってケンカを吹っかけ、そして助けてくれた。そんなつもりはねーよ。と言っていたけど。


それで自分は前向きになれたし、初めて友達というものができた。それで他の皆とも仲良くなれた。そして、仲間と一緒に、ヒーローになった。


 蒼一や他の仲間と一緒なら、僕は強くなれる。


 (ダメだ。メタリカの連中、なにかたくらんでやがる。さっさと終わらせないとまずい)


 蒼一も光太郎と同じ意見のようだった。


 (僕もそう思う。だから)


 (ダメだ、お前はそのまま上の階に上がれ。レイがサイコメトリーで感知した情報だが、この建物のコントロールセンターは二棟の最上階、ニ部屋あるうちの奥のほうだ。そこを押さえれば敵の通信も遮断できるし、妙な仕掛けも止められるはずだ。お前が一番近い。すぐにコントロールセンターを押さえろ)


 蒼一は自分とは違い、冷静で頭が切れる。リーダーなんて柄じゃねぇよ、それに俺たちはお前を中心に集まったんだぜ、そう言ってリーダーを光太郎にした彼だが、戦いの場で頼りになるのはやっぱり蒼一だ。


 (わかったよ蒼ちゃん。すぐに上に行くよ。待ってて! あとで皆で合流しよう)



 光太郎は念話を終えると、すぐに走り出した。さきほどから襲い掛かってきていた日本刀の男は一旦無視する。背後からの追撃を恐れたがその心配もなかった。


 「光太郎くん、はよ階段あがってや!! このボケはワイが押さえたる!!」


 「ありがとう! 待ってて! すぐ戻るよ!」


 仲間の一人、山吹薫が援護に出てきてくれた。ちょっと単純なところがある薫だが、気のいい熱血漢で、安心感がある。これで後ろは問題ない。


 光太郎が、階段を駆け上がると、長い廊下がある。奥にあるのがコントロールセンターなのだろう。 あとはここを駆け抜けて扉を破壊し、コントロールセンターを押さえる。


 それで終わりだ。みんなの力でここまでやってこれた。そして今回も勝つ!


 だが、そのときだった。


 廊下の途中にあったエレベーターが開いた。エレベーターは完全に敵にコントロールされている。と、いうことはあのエレベーターには、メタリカが乗っているのか。


 「誰だ!」


 一気に駆け抜けようとした足をとめ、光太郎は警戒態勢を取る。


 エレベーターから降りてきたのは、一見、普通の男だった。小柄で細身。スーツを着ていた。だが、この局面でここに現れるからには、光太郎の行く手を遮る悪人に違いなかった。


 「……そこをどいてください」


 光太郎は警告を飛ばす。


 「………」


 男は光太郎の言葉を無視し、ゆっくりと近づいてきた。


 コントロールセンターにたどり着くには、この男を越えなくてはならない。


 戦いは好きじゃない。でもやらないきゃいけないことがある。


 力を持った者が、己の目的のために誰かの小さな幸せを壊すのを見てきた。そんなのはもう十分だ。だから僕は悪と戦うことを決意した。世界中の人は救えなくても、自分に出来る限りの、目に映る人々の今の幸せを守りたい。だから


 「とまってください。さもないと……」



 これが最後の警告だ。光太郎はサイキックパワーを右腕に集め始めた。


 「……さもないと。なんだ?」


 男は小さく声をあげた。不意に、光太郎に寒気が走る。


この細身の男から放たれる圧力は一体なんだ。



 「あなたを、倒します」


 だが光太郎も負けない。メタリカは人の小さな幸せを奪う。許してはおけない。止める。


 「……そうか。聞いてもいいか? お前はなんのために戦う?」


 男は歩みをとめ、穏やかな、だがぞっとするような口調で話しかけてきた。 


 「あなたたちのような人を、誰かを犠牲にして何かを叶えようとする人を止めるために」



 光太郎は毅然と答える。


 「ほう。じゃあお前は、俺の目的を知ってるか? 世界征服、じゃあ間違いだぜ。それは手段であって目的じゃない」


 「……そんなこと、知りたくもないよ」


 光太郎のサイキックパワーのチャージは完了した。もういつでも撃てる。

 本来は5人の力で放つ技だけど、一人でも十分だ。チャージしたサイキックパワーを拳から発射し遠距離の敵を撃つ。それがマルーン5のジャスティス・ハンマーだ。



 目の前のこの男は、黒い。感知能力がわずかにある光太郎にはわかる。真っ黒い精神の持ち主だ。自分とはけして相容れない。ならば討つことにためらいはない。


 「お前ら正義の味方はいつもそうだ。大義を知ろうともせず、『小義』を守ることに固執する。そして俺たち悪は自らの目的のためなら、それを踏みにじる」



 男の顔は真剣そのものだった。これほどまっすぐに悪と会話をしたことがあっただろうか。光太郎は男の闇に、その不思議な力に飲み込まれそうになる。


 「……僕はそんなのは認められない…! 大義のためなら犠牲にしていいものなんてあるもんか…」


 しかし光太郎には信念がある。とても容認できはしない。


 「その先にあるものを確かめずに何故わかる? お前は多くの人にとって希望だ。だが、一方で誰かの望む世界への道を遮る存在でもある」


 「……それでも!!」


 光太郎にも、男の言いたいことはわかる。今の世界、それは完璧じゃない。変えたいと思う存在だっているだろう。


でもそれは、多くの人の望むところじゃない。だから、そのために何かを壊し、誰かを傷つけるくらいなら、そんな世界はいらない。だから光太郎は戦う。今の世界を守るために。



 「だろうな。俺は自分が正しいなんて思っていない……綺麗なのはお前のほうさ。でも俺は進む。だから、結局は戦うしかない。来いよ」


 男は足を止めた。光太郎を射抜く瞳。けして折れないであろうことがわかった。


  「……いくよ」


 光太郎は右拳を突き出し、その手首を左手で握った。光り輝く拳。エネルギーは十分だ。ここから放たれるエネルギー波は直撃すればただではすまない。


 「ジャスティス・ハンマー!!!!」



 エネルギー波が射出される。光が男に迫る。


 「……」


 直撃の直前、男の唇が動いた。

 何かをささやいたように見えたが、聞こえはしなかった。


 エネルギー波が炸裂した。光の奔流が爆発した。


 響き渡る炸裂音、光太郎の視界は己の放った一撃により遮られる。


 男の姿はエネルギーの爆炎で見えなくなった。


 「……終わった」


 勝利を確信した光太郎だったが、爆炎が晴れていくのにつれ、そうじゃなかったことに気づいた。



 男はいなかった。


 別のモノがいた。


少しずつ消えていく光と爆炎のなかから姿を現す『それ』


 山羊のような巨大な角、鋭い爪、黒い体色、真っ赤に輝く双眸。

 全身は黒い鋼のようで、コウモリのような羽根がはえている。

 獣のような、無機物のような、だが邪悪であることだけは間違いない。

 おぞましいオーラを纏い、殺気をみなぎらせるそれ。



 光太郎は、その存在を表すのに、これ以上適した言葉を知らない。


 悪魔。



 童話やファンタジーでよくみるそれ。醜悪で漆黒で、でも輝くようなそれ。


 すっかり良好になった視界に、佇む悪魔。


 今わかった。こうたろうは思い返し、あの男がさきほど、ジャスティス・ハンマーが直撃する寸前にささいやた言葉、唇の動きを思い出し、その内容がわかった。



 あの男は、こう言ったのだ。



 「……変身」


 正義の味方の前には、悪魔が立ちふさがっていた。


 光太郎の背中を、冷たい汗が流れ落ちた。


ベタです。すいません



次回「裏切り者は、そのままにはしないさ」

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