冗談だろ
新名は困惑していた。寧人から送られてきた急行すべき場所と指示内容は奇妙だった。
『座標22-A-1』
そこは確認してみると、地下だった。いや厳密にいえば海中とも言える。地上から海底へ入っていくような作りの洞窟。酸素はあるのだろうが、地震で崩落でもしたら海中で死ぬはめになる、そんな場所だった。
そして指示内容
『現場では戦闘が起きていることが予想される。同戦闘はある程度長期化するだろう。これに介入はせず、中距離から監視し。状況を逐一報告せよ。ただし、甲が乙の最後の1体を倒そうとした場合のみ、それを妨害せよ』
甲とは、この南国の英雄、ラモーン。乙とは海中に潜む超生物、サンタァナを指す。
「ほんと、先輩は何考えてるんだか…」
「んー。なーんか。私わかったかもしれないよ」
「え? マジっすか? アニスさんすごいっすね」
アニスと一緒に暗い洞窟を歩く。
果たして。
指定された座標についた新名たちは、予想外、いや本当は予想通りだったと思われる光景を目にした。
「!!? あれは、ラモーンと、サンタァナ!?」
思わず叫びそうになった新名の頭をアニスが抑え、岩陰に伏せる。
「ニーナ。しーっだよ」
唇に人差し指をあて、ウインクをするアニス。
「いや、あれ、でも」
新名の眼前には洞窟内の広いスペースで激闘を繰り広げる英雄と魔物の姿が映っていた。
洞窟内は不思議と明るかった。その広いスペースは石柱や祭壇のようなものが設置されており、青く輝いていたし、ラモーンの右拳に宿る炎が、あたりを照らしていたからだ。
サンタァナたちは全部で7体。みれば、そこいらには倒れた者が3体いる。対するラモーンも負傷しているようだった。
どうやらこの戦いは始まってからそれなりに時間がたっており、サンタァナはその数を削られ、ラモーンは体力を消耗している。そんな状況のようだった。
「うおおおおっ!!」
ラモーンが高く跳躍し、サンタァナの頭部に踵を叩きつける。
「クコーーーーッ!!」
サンタァナは鱗を弾丸のように飛ばしたり、あるいは接近してからの打撃でラモーンにダメージを与えている。
両者の力は拮抗しているようだった。
新名はこのようなレベルの戦いを見たことはない。それはまさに異次元の攻防だった。目にも留まらぬ速さ、一撃受ければ即死してしまいそうな重さの攻撃。
英雄と魔物の激闘。
「…冗談だろ」
新名はつぶやいた。
先輩は、こんなやつらを倒すつもりなのか。
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