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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
特地攻略編~ラモーン~
27/106

ただの悪党だよ。

 ※※

 新名は先輩で、上司である小森寧人のことを図りかねていた。

 今までみたことのないタイプの男だった。


 たいして強そうでもないし、抜けているところもある。どちらかというと気弱なタイプにみえる。メタリカの面接試験で特技がそろばん3級であることを語ったエピソードなど、どう考えてもおかしい。自分やツルギに指示を出すことはあるが、それにしたって無理しているのがありありとわかる。


 そんな男でありながら、初代ロックスであるディランを撃退し、科学の超人ビートルを倒し、ハリスンを制圧したという異例の実績がある。



 最初はむちゃくちゃ運のいい人なのかと思った。たしかにそれもあたってはいるのだろう。彼は強運の持ち主だ。だが、それだけではないのかもしれない、というのが最近わかってきた。ただ運がいいだけの男にツルギほどの猛者が忠誠を誓うだろうか、というのが一つ。そしてときおり見せるあの悪魔のような表情、それが一つ。


 もしかしたら、すげー人なのかもしれない。そんな気がしだしていた。


 また、それとは別に。不思議なところもある。自分は会社の上司と飲みにいくことなどないだろう、と思っていた新名だったのだが、この前はなんとなく行ってみてもいいかな、という気持ちになった。



 それもおかしい。いや褒められて嬉しかっただけだろ、といわれれば否定は出来ないのだが、自慢じゃないが新名は持ち前の要領のよさで学業成績は優秀だった。別にはじめて褒められたわけじゃない。


 「……変な人、だよな。やっぱり」



 思っていることが新名の口から出てきた。今だっておかしい。


 寧人は午後一から沖縄支店の庶務課の人間50名を集めていた。支店ではスペースがたりないので、わざわざ講堂を借りている。


 何を話すつもりなのか? そう聞いたのだが、新名やアニス、ツルギにすら話してはくれなかった。


 「ちょっとな。全部上手くいったら話すよ」


 例の気弱そうな笑顔で言われた。気にはなったのだが、誰よりも年長で、かつ戦闘能力も高いツルギが『承知』と言ったのだからそれ以上は聞けなかった。



 「アニスさん、先輩って何話してるんすかね?」


 新名はアニスに話題を振ってみた。


 「さー? でも多分なんか悪いことだと思うよ♪」


 そういえばこのアニスさんもよくわからないよなぁ、新名はそんな風に思う。

 なんでもすごい大物の娘らしい。そしてとてつもない美少女だ。年齢は聞いたことはないけど多分、新名より5つくらいは下、高校生くらいだろう。


 奔放でお茶目で、まるで妖精のような彼女は、どうやら先輩に夢中らしい。一度どのへんが好きなのか聞いてみると、極悪人だからだヨ! と屈託のない笑顔で答えられたときは参った。


 「んー…それにしても長いっすね…。30分くらいはたってますよね?」


 新名たちは講堂の外で終了を待っていた。


 「新名。ボスのやることだ。必ず何か意味がある。時がくればそれはわかる。男ならソワソワしてんじゃねぇ。うっとうしい」


 「へーい」


 この人もおかしいよなぁ、切腹とかしそうだよ。先輩より年上なんだろうけど、これだもんなぁ、サムライかよアンタ。マフィア上がりじゃなかったのか? ……俺が一番普通だよなぁ…


 新名がそんな風に思ったときだった。


 「うおおおおおおっつ!!!」


 そんな声、吼えるような声が講堂から聞こえてきた。一人や二人の声じゃない。庶務課全員? 講堂の外にいる新名にもはっきり聞こえた。空気が震えるような大声。いったいなんなんだよ。


 叫びではなかった。それは何か、映画で聞いたことのある、戦いへ挑む戦士たちの咆哮のように聞こえた。


 しばらくして、講堂から庶務課の人たちがぞろぞろ出てきた。みな、やたらと盛り上がっているようにみえた。



 さらにしばらくして、先輩、小森寧人が出てきた。


 「あ、ごめん。一応終わったよ」


 「お疲れ様です。ボス」


 「ありがとう。待っててもらって悪いな。んじゃ、次の作戦の説明に…」


 「あれ? 先輩、それってなんすか? 首輪?」


 新名は戻ってきた寧人の首に金属製の首輪のようなものが装着されていることに気づいた。なんかどっかで見た記憶もあるが、思い出せない。


 「ああ、首輪。これから一ヶ月くらいつけてるけど気にしないでくれ」


 「……はぁ」


 新名にはまったく意味がわからなかった。


 ※※


 庶務課のメンバーたちを講堂に集めて話をした一週間後の朝、寧人はサンタァナが直近で現れた場所である離島、瀬底島にいた。ライトバンを路肩に止め、時を待つ。


 瀬底島は沖縄本島から橋を渡っていける場所だ。あのビーチでの戦いのあと、しばらくの沈黙期間を破ってサンタァナが次に姿を現したのは瀬底島だった。そのときの被害は一人。一度襲撃があれば次も同エリアが襲われることが多いため、瀬底島の島民は島から離脱しており、瀬底島へ渡る橋は通行が禁止されている。


 が、行こうと思えば簡単にいける。

 行こうと思った物好きは、寧人以外には一人もいなかったようだが。


 「よう。待ってたぜ」


 寧人は島にただ一つだけある商店の前のベンチにこしかけたまま、来訪者に挨拶をした。


 「……クコッ…クコッ…オマエ…、アノトキノ…ツヨキモノ…」


 サンタァナだった。鱗に覆われた強靭な巨体が寧人ににじり寄ってきた。



 「俺が強き者だって? リップサービスができるんだな。あんたら。俺はただの悪党さ」



 余裕をみせてはいるが、寧人はこの時がくるまでの間、ひたすらおびえていた。怖かった。怖くて怖くてたまらなかった。


 だが、いざ時がくれば、震えは止まっていた。


 これまでもそうだった。どうやら俺は目的のためには開き直れるタイプらしい。寧人はそう思いつつ言葉を続けた。


 「あのときは熱血ヒーローにジャマされたからな。……おっと! 俺を襲うなよ! 怖いんだよちびるぞ。あんたらがその気になれば、いつでも俺を殺すくらい楽勝なんだからその前に話を聞いてくれ」


 「………クコッ、クコッ…」


 二度にわたり、自分たちに話しかける奇妙な男。サンタァナの目にはそう映ったのかもしれない。彼らはすぐには攻撃してこなかった。だが、まだ攻撃態勢を解いてはいない。


 「……だよな。すぐに話を聞いてもらうのはムシがよすぎる。だから、今日はあんたらにプレゼントを持ってきた」


 寧人はそういうと、路肩に止めてあったライトバンのトランクをあける。


 「クコッ!?」

 

 ライトバンには、縛り付けられた人間が5人ほど転がっている。みな、息はある。生きているようだった。


 「あんたら、人間の魂集めてるんだろ。やるよ。それ。こうみえても俺は少し名の知れた悪の組織に属していてな。人間を用意するくらいわけはない」


 背中に冷や汗が伝う、しかしそれを表情に出すわけにはいかない。



 「悪い話じゃないだろ。理由は知らないが、あんたらが戦うとラモーンが来る。精霊の力とやらにはあんたらを感知する能力もついてるのか? そうじゃなければ、これまであんたらの襲撃をラモーンがあれほどの回数防げた理由がないからな。こうして話している間にも来るかもしれない」



 「……ナ、ゼ。コノヨウナ」


 「簡単だ。俺はあんたらに殺されたくない。だから、俺と仲間を襲うな。代わりに定期的に生きた人間をプレゼントしてやる。あんたらの襲撃頻度にあわせてな」


 「……」


 他に誰もいない孤島。悪党と怪物の会談は進む。


 「悪い話じゃないだろ。あんたらだって、人を襲って魂をとる手間が省ける。しかもその途中にラモーンに邪魔されたらまた数を減らされるぜ」


 「……クコッ…ミカエリ…ハ、ソレダケ、カ」


 「見返り? ああ、じゃあ、ついでに聞かせてくれ。いや、頷いてくれるだけでいいぜ。そんなに警戒するなよ。何度もいうけど、あんたらがその気になれば俺を殺すなんて一瞬だ。それに事情を俺に話して何かデメリットはあるのか?」


 寧人は『仮説』の答え合わせに入ることにした。幸い、というべきか、彼らはこちらの言語をほぼ完全に理解しているようだった。回答が片言なので理解には手間が言ったが、それくらいは我慢するしかない。



 魂を集める目的は『城』と呼んでいるあんたらの拠点を定期的に補強するためだな?


 その通りだった。元々は例の海底遺跡にいたサンタァナは遺跡が発見されたあと、拠点を移らざるえなくなったらしい。だが、新たに建設した彼らの拠点である海底神殿は維持には人の生体エネルギーを補給する必要があるらしい。もともと拠点だったところにはたっぷりエネルギーがあったようだ。

いずれにしろ新しい拠点を維持するために貯めたエネルギーを一ヶ月に一回程度神殿に捧げているとのことだ。



 あんたらは10体までしか増えない。違うか?


 これもその通りだった。自然と共存するため、という不思議な理由だが、彼らはけしてそれ以上の数にはならない。一体が統率者となり、種族を守る。魂を集め、神殿に捧げ、種として生きていく。時間がたてば種を10体までは増やせる。長命な彼らがその数を減らすのは、ラモーンに倒されたときだけだ。



 「……そうか。わかった。大体予想通りだったよ。それなら何も人間を襲う危険を冒すことはない。俺が届けてやる。ラモーンと戦わなければ、またすぐ仲間を増やせるだろ? 減らないんだから」


 「……オマ、エ、イッタイ、ナン、ナンダ?」


 「最初に言っただろ。ただの悪党だよ」


 寧人はくつくつと笑ってみせる。


「人間をあんたらに差し出すことなんて屁とも思ってない。みんなを守るために戦ってるラモーンにとっては、あんたらと同じく倒すべき悪だ。悪党同士、仲良くやろうぜ。あんたらとは戦いたくない」


 ここ一週間考えた台詞だった。

 サンタァナたちはしばし考えたが、最終的には


 「…ワカッタ。オマエハオソワナイ」


 そう答え、ライトバンのなかで縛り付けられていた人間の魂を奪い、彼らは立ち去った。魂、生体エネルギーを奪われた彼らは、ぐったりとしている。こん睡状態になったようだった。


 サンタァナたちが立ち去ったあと、ツルギと新名が駆けつけてくる。


 寧人は安堵から思わず座り込んだ。どうやら腰がぬけてしまったらしい。


 「ボス、どうでしたか?」


 「……一応、上手くいった。あー、怖かった。ホント怖かった。死ぬかと思った。新名、毛布くれ、包まるから。うー寒い。寒いぞ」


 終わってみると震えがぶり返してきた。こうなることがわかっていたので、アニスは呼んでいなかった。恥かしいからだ。


 「先輩、マジでやったんすか…。ほんと容赦ないっすね」

 

 「……そう、だな。容赦、ない、よな」


 新名は寧人の行動に畏怖を覚えているようだった。自分のために他の人間をサンタァナに差し出した。それは悪以外の何者でもない行為に見えるのだろうし、実際そうだ。



 「えっと…、この、魂奪われた人たち、どうしたらいいっすか? ……もしかして…俺は悪人だ、だから…とか言って、もしかして…」


 新名は恐る恐る、と言った口調で問いかけてくる。


 「ああ、その人たちはメタリカの救命設備に搬送だ。手配はしてある」


 「? あ、そうっすか。いやーよかった。てっきり海に捨てとけ、とかいうのかと思いましたよ。…え? でも、救命設備? って」


 「何言ってるんだお前。海に捨てるとか、そりゃただのバカだ。悪じゃない。俺は意味のあることしかしない」


 「?? え? でも、あれ? 意味…っすか?」


 「あー…さむい。ほんと怖かった。もう二度とやりたくない…」


 新名の言わんとしていることはわかった。が、今は説明できない。


 今は。


 ラモーンもサンタァナも、俺に跪かせてやる。それまでは、誰にも説明できない。



 毛布に包まり、チワワのように震えながら、それでも。


 寧人の悪意は欠片も失われはしていなかった。


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