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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
特地攻略編~ラモーン~
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どいつもこいつも

 機内は静かだった。さきほどまではアニスが元気に喋っていたが、疲れたのか眠ってしまっている。新名は離陸の直後からビールを飲み始め、もうつぶれている。


 寧人は到着前にもう一度、特地の情報を見直してみることにした。


 「ツルギさん、ファイル取ってくれませんか?」


 「ボス」


 「…あ、ごめん。ツルギ。ファイルとってくれ」


 「承知」


 ツルギからファイルを受け取り、読み返す。


 特地、沖縄。ここが特地といわれる理由は主に二つある。


 一つ目、メタリカではない悪が存在すること。

 サンタァナと呼ばれる彼らは正しくは『参多納』と書く。彼らは人間ではない。未明な部分が多いが、海底を本拠としている超生命体であり、人間の魂を主食とする。

 魂、というものがあるのかどうか寧人にはわからないが、沖縄においては年間何人もの人々がサンタァナに襲われ、その後昏睡状態になり眠り続けるという事件が発生している。


 そんなサンタァナは、捕食対象を選ばない。つまり、一般人だろうが、ガーディアンだろうが、そしてメタリカだろうとお構いなしに、襲ってくる。さらに言えば、彼らはより強い存在の魂のほうが好物といわれており、平均して一般人よりも強者の割合が多いメタリカの構成員は攻撃対象となることが多い。



 結果として、沖縄にはメタリカの戦力を大きく派遣することができない。



 続いて二つ目の理由。沖縄には非常に強いロックスがいる。沖縄から出ることはないが、ご当地では無双の強さを持つラモーンというロックスだ。なお、こちらも正しくは『羅門』と書く。


海と太陽の精霊の力で戦うという触れ込みで、なんとも非科学的な存在なのだが。その実力は本物だ。シャーマニズムの一種なのだろうか。神秘的なエネルギーを駆使して戦うラモーンは地元の英雄である。


 ラモーンは基本的にはサンタァナの脅威から沖縄の人々を守っているが、もちろんメタリカにも敵対している。


 メタリカにとっては、ただでさえサンタァナのせいで戦力が削がれてしまう沖縄地区において強いロックスとも戦わざるをえないことになる。


 メタリカの基本戦略としては、圧倒的な戦闘力を背景として、政治や経済に介入し、こちらの都合のいいように操ることで『征服』を行っていくのだが、沖縄ではそれが出来ない。なぜなら沖縄においてはメタリカの戦力は脅威ではないからだ。


 以上二点が、沖縄がメタリカにおいて『特地』と呼ばれる理由だ。


 「……ふーっ…こりゃ、やっかいだな」


 寧人はあらためて特地の危険性にため息をついた。


 「アンタらしくないな。俺たちの任務は沖縄における安全な拠点の確保だ。そう難しいことではないかと思いますがね」



 「ああ、それだけならな」


 「と、言いますと?」


 「ツルギ、俺は拠点の確保だけで終わるつもりはさらさらないぞ」


 「……なるほど。さすがはアンタだ。俺も同じ意見ですよ」


 調査や拠点の確保で終わるつもりはない。サンタァナもラモーンも潰す。その上で沖縄をメタリカの力で覆う。それが最終目的だ。特地といえども、たかがは一つの島だ。世界征服を狙うなら、それくらいできないでどうする。寧人はそう考えていた。



 「ツルギ、サンタァナと戦った経験はあるのか?」


 「ええ、二回ほど」


 「強いか?」


 「強いですね。俺ですら戦うときは命がけです」



 「俺が直接、一対一の純粋な勝負で戦える相手かな?」


 「ボスが? ご冗談を。そうですね。もって一分といったところでしょう。新名なら10秒で死にます」


 「はっきり言うな……怖くなってきたじゃないか。泣きそうだよ」


 勿論、沖縄は制圧するつもりなのだが、怖いものは怖い。トイレに行きたくなってきた。

サンタァナでさえそんなに強いのに、そんなやつらと一人で戦っているラモーンとかいうご当地ロックスは一体どんだけ強いんだよ。ちびるよ。寧人は脚が震えるのを感じた。


 「ふっ……アンタは本当に不思議な人だ。ぞっとするほど強い悪をみせるときもあれば、それ以外はその有様」


 「仕方ないだろ。なぁ、現地についたらすこし俺を鍛えてくれ」

 

 「承知」


 「なかなかつかないな」


 「メタリカの専用機は通常の航路を飛べませんからね。どうです? 新名じゃありませんが、一献、付き合ってはもらえませんかね」



 ツルギは酒を取り出した。純米酒のようだ。


 「ああ、もらおうかな」

 

 しばし、二人で無言のまま飲み交わす。ツルギは無口な男だったが、それで寧人の居心地が悪くなることはなかった。



 「ネイト!……むにゃむにゃ」


 「うお、なんだ…? 寝言…か?」


 「…うーん。むにゃむにゃ…大好き……パパに…紹介……」


 

 なにやら、アニスが嬉しくも恐ろしい寝言を言っている。


 「ふっ…」

 「おい笑うなよ」


 「これは失礼。ですが結構なことじゃないですか。アニスさんはその辺の盆暗に惚れるような女じゃない。俺の見る目も確かだったというわけだ」


 断っておくが、ツルギはゲイというわけではない。古風な言い回しを好むだけだ。


 「……どいつもこいつも」


 勝手に期待しやがって、とは続けなかった。それを言うのは俺が死ぬときだ。それまでは、全力で、そういう存在を目指してやるさ。


 真紀は今度改造人間の社内コンペに出るらしい。

 池野は本社のグローバルレベニューマネジメント部という部署に最年少の課長として異動になった。



俺だって、負けてられないさ。

寧人はキレのいい日本酒をぐっと飲み干し、杯をツルギに差し出した。


 小森 寧人

 庶務課平社員(レベル1) 

 ↓ 

 第二営業部平社員(レベル2) 

 ↓

 沖縄支店係長(レベル3)



 なお、課長級はレベル4、部長、支店長級でレベル5、専務級でレベル6です。

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