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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
営業部覚醒編~ビートル~
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この機会に紹介を済ませておこう

 レベル3への昇進と、特地への転勤を了承した寧人。

 ラーズは興味なさげに、ふんっと鼻をならし、泉はほっとしたように息をもらした。


 「そうか。まあ、せいぜい死なないように気をつけるんだな。泉、俺はもう行くぞ」


 「はい。お手数をおかけいたしました」



 ラーズにしてみれば、たかだか係長レベルの人事など瑣末なことにすぎないのであろう。用は済んだといわんばかりに足早に立ち去っていった。



 「小森、すこし待っていろ。お前の部下になる者たちも呼んである。この機会に紹介を済ませておこう」


 泉は手回しがよい。寧人としてもそこの部分は気になっていた。これまで庶務課の人たちを指揮することはあったが、それはあくまで現場現場での対応というだけで、部下というようなものではない。アニスはアニスで、部下といえなくもないが、アニスなので別枠だ。


 俺に、部下、か。どんな人かな。少しばかり不安でもあり、また楽しみでもあった。



 すぐに部長室の扉がノックされた。泉の応答を待ち、一人目の者が入ってくる。


 「……! あなたは…!」


 「おひさしぶりです」


 入室者、つまり寧人の部下になる一人目の者には見覚えがあった。艶のある黒髪に長身、年齢は30代なかごろだろうか。猛禽を思わせる鋭い目つき、隙のない身のこなし。ハリスン攻略戦で一緒に戦ったあの男だった。


 「……ツルギ…さん?」


 「ツルギ、そう呼び捨ててくれて結構です」


 落ち着きと重さのある声とその声で発せられた台詞に違和感がある。

 この人が? 俺の? 部下? 


 いやいやいやいや。おかしいだろ。上司よりも圧倒的に実力が上の部下なんて。


 「泉さん、これは…その…どういう…」


 寧人は思わず泉のほうに視線をやったが、答えたのは泉ではなくツルギだった。


 「自分で志願させていただきました。アンタは、俺が仕える価値のある男だ。そう判断したもんでね」


 なんだこの人、戦国武将か。任侠の人か。いやまあそんなようなもんだったなそういえば。


 「小森。経緯は知らないが、彼はこう言っている。いいじゃないか。彼は、イタリアンマフィアで相当慣らした猛者中の猛者だぞ。ヘッドハンティングでメタリカに来てもらったが、用意した管理職の椅子を蹴ってまで、庶務課にいた変わり者だがね」



泉がツルギの説明をしてくる。すこし納得する。

なるほど、おかしいと思ってたんだ。彼ほどの男が何故一戦闘員として庶務課にいたのか。それにしても、ヘッドハンティングとは驚きだ。そしてそれなのに庶務課にいたなんてもっと驚きだ。そしてそんな男がなぜ俺の下につくといっているのはもはや驚愕だ。


 「…あの…ツルギさん…どうして、俺に?」


 寧人の問いかけにツルギはふっと笑ってみせる。渋い。男のたたずまいだ。


 「俺は、アンタに惚れたんですよ。アンタの『悪』にね。…ついていきますよ。ボス」

 

 「でも、特地勤務ってことは結構大変かもしれないけど…」


 「アンタと一緒なら、それも悪くはねぇさ」


 「…う、うん。よろしく」


 「承知」


 寧人はとりあえずそう答えるほかなかった。しかし冷静に考えるとマイナスなことなど一つもない。


 ハリスン攻略戦で見せたツルギの戦闘力、冷静沈着な判断力、そして理由はよくわからないが、自分への忠義。どれをとっても不足はない。彼が自分の懐刀になってくれるのなら、それは千の軍勢を得るのに等しいことだ。


 ツルギとのやりとりがちょうど終わったタイミングで、再び部長室の扉がノックされる。


 「入れ。小森、二人目を紹介しよう」


 「おはーざーす」


 そういって入ってきた男の口調は非常に軽かった。いや口調だけじゃなくて、全体的に軽い。


 明るい茶髪、細いスーツに華奢な体、派手な顔立ち、若い男だった。


 「あ、この人が俺の上司っすか?」


 「……彼は、新名 数馬くんだ」


 「ども。今度採用されまして、4月から入社っすー。実戦とかは経験したことないっすけど…あ、一応大学は啓皇大でした」



 来年度入社ということは、新人か。寧人の一期下というわけだ。それにしてもなんて絵に描いたような…


 「う、うん…よろしく」


 「えー? こっちの人が上司っすか? こっちの強そうな人じゃなくて? マジっすか?」



 ニイナ カズマと呼ばれた新人の男はツルギの方を上司と思ったようだ。無理もない。


 「一応。俺が上司、ってことになるよ」


 「やべぇ。マジすか? 俺の一期上の先輩なんすよね? んで、ビートルを倒したって話っすけど、それ先輩ってことっすか? どのへんまでガチなんすか?」


 「いや…一応、ホント」

 「……すっげ。パねぇ」


 ラーズ将軍、ツルギと重めの登場人物の連続で固まっていた室内の空気が一気にふわふわしたものに変わっていた。ある意味すごいことだと寧人は思った。



 「……新名くんは、ああ見えるが、採用試験時の知能テストではトップの成績だった。…ま、多分、それなりに、その…まあ、部下を育てるのも、管理職の……な?」


 泉は小声で寧人に語りかけてきた。だが別に寧人は文句を言うつもりなど最初からない。


 「いえ、問題ないですよ。新名。採用のはじめから特地勤務なんて悪いな」


 「あー。ま、ぶっちゃけちょっとイヤっすけど、ま、仕方ないっすね!」


 そういえば、これ、ツルギが怒ったりするんじゃないか、と思って寧人は彼のほうをみてみたが、特にそういうそぶりはなかった。いや、むしろ新名に対する寧人の接し方を見守っているようでもある。


 「泉部長、じゃあ、これで全員ですか?」



 「いや…そのつもりだったんだけどな」


 泉が言葉を濁したと同時に再度部長室の扉がノックされ、同時に開いた。


 「ネイト! 昇進だね! おめでとー!」



 入ってきたのは見慣れた金髪の美少女だった。ただし世界有数の恐ろしい父親をもち、手を出したら命が危ないアンタッチャブルな存在の。


 「あ……、ありがとう」


 「やったね♪ アニス、ネイトならすぐに偉くなると思ってたよ? 大丈夫! 転勤も一緒にいくから寂しくないよ!」


 アニスは寧人の手をぎゅっと握り、ニコニコしている。


 「え? アニスも、くんの?」


 「うん! 嬉しい?」



 寧人は泉の顔を見てみた。泉はなにか観念したように目を伏せ、首を横に振っている。


 ああ、断れなかったんだな。大変だな。中間管理職って。


 ツルギをみるとやっぱり『…ふっ』っていう渋い笑みを浮かべている。

 新名は新名で『うっひょー、マジ可愛いじゃないっすか。先輩すげーっすね』とか言っている。



 「…まあ、いいか」


 かくして寧人は三人の部下をつれて『特地』への赴任することが決定したのだった。

 なお、その日の終業後に、寧人は部下になる者たちを飲みに誘ってみた。まあ懇親を深めるには、という社会の慣習に従ってみたのだ。以下、三人の反応である。


 「おともします」

 「えー? 俺、仕事とプライベートはわけたいんで。サーセン帰ります」

 「わーい! え? みんなでなの?」



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