よう、ヒーロー
ハリスン攻略戦は乱戦となった。
あくまでも民間施設であるハリスンなので、守備についても武装は最小限だが、ハリスンには独自の科学力で開発したロボットがいる。
人型大のロボットたちは、硬質ゴム弾を放つライフルと大型警棒を装備しており、無機質なモーター音を立てながら、寧人らメタリカ部隊へ次々と迫ってくる。
ロボット部隊と交戦し、閉ざされたシャッターを破壊していく。
「うおおおおっ!!」
「くらえ!!」
「ロボットごときが!!」
周囲では仲間たちがそれぞれ奮戦している。なかでも際立って目立つものが数人。
「ガアアアアッ!!!」
その荒れ狂う力のまま、暴れまわる怪人。鬼の腕力はロボットにはとめることは出来ない。次々と敵をなぎ払い、進んでいく。
「機械風情が、俺を止められると思うかよ…ふんっ…!」
日本刀を装備しているツルギ。ゴム弾を巧みにかわし、裂帛の気合とともにロボットの頭部を撥ね、返す刀で、胴体部分を真っ二つに切り裂く。
「えい! そりゃ! うりゃ、うりゃりゃ!」
アシスタントのアニスは手にした小型レールガンによる正確無比な連続発砲で周囲を援護している。掛け声は可笑しいのだが、その動きはまさに踊るようで、思わず見ほれてしまいそうだ。
銃声と怒号、一部黄色い声が混ざる戦場のなか、寧人自身も全力で戦っていた。
「だあああああっ!!」
寧人には弾丸を避ける速さも、遠距離から正確に銃撃をヒットさせる技術もない。
撃たれるゴム弾はアーマーの防弾性の性能を頼りに、受ける。そして愚直に踏み込み、ブレードを突き刺す。
勿論痛い。防弾とはいえ強烈な衝撃は内臓にも重く響き渡る。だが突き刺したブレードはけして放さない。ブレードの振動波が敵を破壊するまで、ブレードを強く握り締める。至近距離ではロボット兵の警棒による攻撃が、浅いながらもこちらの肩口をたたいてくるが、それでも放さない。
「さっさと…ぶっ壊れやがれ…!! 痛いんだよこの…! だらああああっ!!」
少しして、ロボット兵はガシャン、という音とともに完全に機能を停止したのを確認。それを確認してブレードを抜く。
「…はぁ……はぁ…。次!」
寧人たちは、それぞれが奮闘し、なんとか乱戦を終わらせた。もともとこちらが有利なのだ。『ヤツ』さえいなければ、だが。
ロボット兵はすべて破壊し終わり、シャッターも貫通、奥に隠れていた研究員や職員については、威嚇した上で捕縛、猿轡を噛ませ、身動きもとらせず声も出せなくする。
そしてその目の前で施設を徹底的に破壊していく。
「……アニス、施設の破壊の指揮をお願いしてもいい?」
息も絶え絶えながら、寧人はアニスに指示を任せた。
「? いーけど。どして? ネイトがやらなくてもいいの?」
アニスははぁはぁ言っている寧人とは対照的にけろっとしている。さすがサラブレッドだ。
「俺は、ちょっと準備しとかないといけないことがある。」
そうだ。早くしなくては、アイツが、ビートルが来る前に。
寧人はひとり『事前準備』に入った。
そして、数分が立った。研究員をすべて捕縛した広場にて待機に入る。寧人は悪の指揮官らしく、ひとり椅子に腰掛ける。
「…きますかね? ヤツは」
ツルギが寧人に声をかけてきた。ビートルが今夜、別の現場に出動していることはわかっている。ここが襲撃を受けていることが伝わったとしても、距離がある。
しかし。
「来るさ。必ず」
寧人は確信していた。たとえ、疲れていようとも、遠かろうとも、ビートルは、ヒーローは、来る。
敵でありながらも、寧人は信じていた。彼らの気高さを、勇気を。少年の日に憧れ、そして今では敵となった彼らを。
「!」
施設内に轟音が鳴り響いた。入り口の辺りだ。寧人たちが設置していたバリケードが破壊された音なのだろう。
「ほらな」
その音が聞こえてから、わずか数秒後、寧人たちがいる広間には、ヒーローが現れた。
背中に装着しているブースターを全開にしており、すさまじいスピードだった。脚部からは空気が噴出しているのか、ホバリングしているようだった。
へえ。やっぱりカッコいいな。ディランとは違って、メタリックな感じで。素朴に感じもする。
「…なんてことを」
そう嘆く彼の声は思いのほか若い。所属する組織を徹底的に破壊されたことに、憤っていた。
「…許さないぞ…」
銀色に輝くアーマードスーツに包まれた男、ビートルは青年なのだろう。
ウィーン、というような機械的なモーター音と脚部ホバリングブースターの風の音の底には、彼の怒りが感じられた。
寧人は椅子にかけたまま、足を組みなおす、ビートルを睨む人員たちの中心で、あえて不敵に笑ってみせる。
いかにも悪役だが、これも演出。捕縛した研究員たちに絶望を与えるための、そして率いるメンバーの士気をあげるための。
「よう。ヒーロー、遅かったな」
寧人はボロボロにダメージを受けた体の痛みも、怒りに燃える超人とこれから戦う恐怖も、仲間を救うため、たった一人で悪に立ち向かうヒーローへの敬意も。何もかもを仮面に隠し、悪意に満ちた言葉を告げた。