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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
営業部覚醒編~ビートル~
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よう、ヒーロー

 ハリスン攻略戦は乱戦となった。


 あくまでも民間施設であるハリスンなので、守備についても武装は最小限だが、ハリスンには独自の科学力で開発したロボットがいる。


 人型大のロボットたちは、硬質ゴム弾を放つライフルと大型警棒を装備しており、無機質なモーター音を立てながら、寧人らメタリカ部隊へ次々と迫ってくる。


 ロボット部隊と交戦し、閉ざされたシャッターを破壊していく。

 

 「うおおおおっ!!」

 「くらえ!!」

 「ロボットごときが!!」

 

 周囲では仲間たちがそれぞれ奮戦している。なかでも際立って目立つものが数人。

 

 「ガアアアアッ!!!」


 その荒れ狂う力のまま、暴れまわる怪人。鬼の腕力はロボットにはとめることは出来ない。次々と敵をなぎ払い、進んでいく。


 「機械風情が、俺を止められると思うかよ…ふんっ…!」


 日本刀を装備しているツルギ。ゴム弾を巧みにかわし、裂帛の気合とともにロボットの頭部を撥ね、返す刀で、胴体部分を真っ二つに切り裂く。


 「えい! そりゃ! うりゃ、うりゃりゃ!」


 アシスタントのアニスは手にした小型レールガンによる正確無比な連続発砲で周囲を援護している。掛け声は可笑しいのだが、その動きはまさに踊るようで、思わず見ほれてしまいそうだ。



 銃声と怒号、一部黄色い声が混ざる戦場のなか、寧人自身も全力で戦っていた。


 「だあああああっ!!」


 寧人には弾丸を避ける速さも、遠距離から正確に銃撃をヒットさせる技術もない。

 撃たれるゴム弾はアーマーの防弾性の性能を頼りに、受ける。そして愚直に踏み込み、ブレードを突き刺す。

 勿論痛い。防弾とはいえ強烈な衝撃は内臓にも重く響き渡る。だが突き刺したブレードはけして放さない。ブレードの振動波が敵を破壊するまで、ブレードを強く握り締める。至近距離ではロボット兵の警棒による攻撃が、浅いながらもこちらの肩口をたたいてくるが、それでも放さない。


 「さっさと…ぶっ壊れやがれ…!! 痛いんだよこの…! だらああああっ!!」


 少しして、ロボット兵はガシャン、という音とともに完全に機能を停止したのを確認。それを確認してブレードを抜く。


 「…はぁ……はぁ…。次!」


 

 寧人たちは、それぞれが奮闘し、なんとか乱戦を終わらせた。もともとこちらが有利なのだ。『ヤツ』さえいなければ、だが。


 ロボット兵はすべて破壊し終わり、シャッターも貫通、奥に隠れていた研究員や職員については、威嚇した上で捕縛、猿轡を噛ませ、身動きもとらせず声も出せなくする。


 そしてその目の前で施設を徹底的に破壊していく。


 「……アニス、施設の破壊の指揮をお願いしてもいい?」


 息も絶え絶えながら、寧人はアニスに指示を任せた。

 

 「? いーけど。どして? ネイトがやらなくてもいいの?」


 アニスははぁはぁ言っている寧人とは対照的にけろっとしている。さすがサラブレッドだ。


 「俺は、ちょっと準備しとかないといけないことがある。」


 そうだ。早くしなくては、アイツが、ビートルが来る前に。


 寧人はひとり『事前準備』に入った。


 そして、数分が立った。研究員をすべて捕縛した広場にて待機に入る。寧人は悪の指揮官らしく、ひとり椅子に腰掛ける。


 「…きますかね? ヤツは」


 ツルギが寧人に声をかけてきた。ビートルが今夜、別の現場に出動していることはわかっている。ここが襲撃を受けていることが伝わったとしても、距離がある。


 しかし。


 「来るさ。必ず」


 寧人は確信していた。たとえ、疲れていようとも、遠かろうとも、ビートルは、ヒーローは、来る。


 敵でありながらも、寧人は信じていた。彼らの気高さを、勇気を。少年の日に憧れ、そして今では敵となった彼らを。


 「!」


 施設内に轟音が鳴り響いた。入り口の辺りだ。寧人たちが設置していたバリケードが破壊された音なのだろう。


 「ほらな」


 その音が聞こえてから、わずか数秒後、寧人たちがいる広間には、ヒーローが現れた。

 背中に装着しているブースターを全開にしており、すさまじいスピードだった。脚部からは空気が噴出しているのか、ホバリングしているようだった。


 へえ。やっぱりカッコいいな。ディランとは違って、メタリックな感じで。素朴に感じもする。



 「…なんてことを」

 

 そう嘆く彼の声は思いのほか若い。所属する組織を徹底的に破壊されたことに、憤っていた。


 「…許さないぞ…」


 銀色に輝くアーマードスーツに包まれた男、ビートルは青年なのだろう。

 ウィーン、というような機械的なモーター音と脚部ホバリングブースターの風の音の底には、彼の怒りが感じられた。



 寧人は椅子にかけたまま、足を組みなおす、ビートルを睨む人員たちの中心で、あえて不敵に笑ってみせる。

 いかにも悪役だが、これも演出。捕縛した研究員たちに絶望を与えるための、そして率いるメンバーの士気をあげるための。


 「よう。ヒーロー、遅かったな」


 寧人はボロボロにダメージを受けた体の痛みも、怒りに燃える超人とこれから戦う恐怖も、仲間を救うため、たった一人で悪に立ち向かうヒーローへの敬意も。何もかもを仮面に隠し、悪意に満ちた言葉を告げた。

 

 

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