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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
営業部覚醒編~ビートル~
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俺の手には負えないかもな

「……はっ!」

 

 独身寮の硬いベッドで目覚めた寧人。どうもうなされていたようだ。


「………あのときの夢か。最近あんまりなかったんだけどな」


 今回はダイジェスト版だった。改めて考えると本当にひどい人生だ。


 「あ、やべ。遅刻する」


 だが、今の寧人はそんな過去を気にしてる余裕はない。今日も出勤する。世界有数の悪の組織へと。


 「おはようございます」


 社会人生活にも随分慣れてきたものだ。普通に挨拶も出来るようになった。


 「おう。おはよう」

 「……ああ」

 「今日も頑張ろうぜ」

 

 同僚たちはそれぞれの声のかけ方をしてくれる。


 「あ! ネーイトっ! おはよ♪ 今日は11時から諜報部の報告会があるよ」


 なかでも際立つのは自分のアシスタントであるアニスだ。何かの勘違いから、自分に対して随分好意的だ。


 それ自体はすこし嬉しい。いやかなり嬉しい。毎日明るく可愛らしい声が聞けるのはすばらしいことだ。これで彼女が普通に街中で知り合った女の子で、ついでにお父さんが普通の会社員ならなおよろしい。


 「……おはよ。いつもありがとう」

 

 「へへーっ。どういたしまして。うふふ」


 なにやら今日はいつもよりさらに機嫌がいいようだった。理由を聞きたい気もしたが、もう始業時間だ。寧人は自分の仕事に取り掛かることにした。



 営業部の仕事は思ったよりもデスクワークが多い。資料や報告をみて、判断をくだしたり、各部署へ依頼書をまとめたりする。今のところ、まだ一度も自分が前線に出たことはなかった。


 寧人はデスクワークなどしたことはなかったので、最初はかなり苦労した。否、今でも苦労している。


 今日もデスクワークが山盛りだ。


 早速取り掛かろうとしたが、始業後すぐに部長の泉に呼び出されてしまった。部長室に入り、ソファに腰掛ける。


 「何かありましたか?」

 「ああ。ちょっと君に聞きたいことがあってね」


 「はい」


 「昨日君が出したプランだけど、これはどういう意図なんだい? 企画部が提出したものだと、C22地区のガーディアン部隊の壊滅が目標のはずだけど、君のプランではすこし離れたエリアへの攻撃を提案しているね。説明してくれるかな?」


 仕事の意図を聞いてくる泉。もしかしたら、俺を試しているのかもしれない、と寧人は思っていた。


 「はい。その件ですか……。C22地区の拠点は守備が堅く、難攻不落です。ですが、企画部の戦略のとおり、落とすべき拠点かと思います」


 「ではなぜ?」


 「C22地区拠点の守備力を考えれば、普通に攻めてはこちらに被害が出そうです。なので、近くの土地で暴れます。建物を破壊して、住民を威嚇します。住民への被害は最小限にしますが、派手に暴れます。そうすればかならずC22地区のガーディアンは救援に来るでしょう。そのときに倒します」


 「……彼らが救援に来なかった場合は?」


 「一般市民の危機を見過ごすようなガーディアンに価値はありません。我々が手を下すまでもなく、市民の声によって規模が縮小されるでしょう」


 「……なるほど。だが、この作戦のために、無関係なエリアを攻撃するのか?」


 なるほど。寧人はそう思った。当然のことをあえて聞く。そうやって部下を試しているわけだ。


 何故迷う。勿論世論はメタリカを叩くだろう。だがそれがどうした。

 俺たちは悪の組織なんだ。目的のために、その道に入ったんだ。普通の人が出来ないことを、悪という手段で実現する道へ。


 「ええ攻撃します」


 寧人はごく普通に、淡々と答えた。


 「まさに極悪非道だな。……まあ、目的のためだ。許されるか。よしわかった。行っていいぞ」


 「……はい」


 泉は間違ったことを言った。許されるはずがない。悪いことは悪いことで、壊れるものはある。だからその罪は背負っていくべきだ。寧人はそう思っているが、あえて口にはしなかった。



 ※

 寧人が出たあとの部長室で、泉はすこしだけ困惑していた。

 あいつの判断は、これまでの部下とは違う。悪をなすのに一切のためらいがない。常軌を逸している。泉ならば、同じ結論を出したとしても、悩むし、あそこまで断固とは言い切れない。

だからこそ寧人は仕事が速く、成果も大きい。庶務課から上がってきたという異色の経歴にも納得できるものがあった。

 何故なのかはわからないが、あいつには悪をなす天性のようなものがある。それは才能といっていいような美しいものではないのかもしれない。むしろ蔑むべきことなのかもしれない。


 しかし、それはメタリカという組織にとっては、輝く力なのだろう。


 「こりゃ、俺の手にはおえないかもな」


 泉はそうつぶやき、コーヒーをすすった。

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