11.5話 さて、何者なんだろうな
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やれやれ、またつまらない仕事になりそうだ。
イタリア、トスカーナ地方沿岸部に位置する倉庫。今しがたその倉庫の扉を蹴破って侵入したツルギ・F・ガードナーはため息をついた。
ツルギの眼前、つまり押し入った倉庫内にはマフィアの男が五人おり、ツルギに向けて銃を構えていた。ツルギとて人間なので、仮に彼らが発射する弾丸が急所に直撃すれば当然のように死ぬ。
が、ツルギはそれをなんとも思わない。
「て、てめぇ! 何者だ!?」
マフィアの中で一番若い男が、訛りのあるイタリア語で怒声を上げた。
「さて、何者なんだろうな」
若いマフィアの言葉にツルギは笑った。これは、自嘲だと分かっている。
腕を買われてあちこちの組織に用心棒や助っ人として招かれ、くだらない戦いで剣を振るう俺は、いったい何者なのか。こちらが教えてほしいくらいだ。
「どうした。さっさと撃てばいい。言っておくが、今から俺は、お前らを一人残らず切り捨てる」
くだらない仕事は素早く終わらせるに限る。ツルギは彼らを挑発し発砲を促した。
「舐めてんじゃねぇぞコラァ!!」
一人が発砲したが、ツルギは避けもしなかった。銃口の向きをみれば弾丸が自分にあたらないことは明白だったからだ。
代わりに、スタスタと歩いて間合いを詰める。呆気にとられているのか、それとも怯えているのか。他の男たちは反応が遅れているようだった。
力いっぱいに銃把を握りしめている若いマフィアの眼前に迫り、ツルギは携えてきた日本刀の柄に手を当てる。そして。
「……ふんっ!」
抜き放った刀を袈裟切りに振り下ろす。ごっ、という鈍い音がなり、一撃を受けた若いマフィアはどさりと倒れた。
「ふ、ふざけんじゃねぇ……!!」
一瞬遅れて、他の男たちが銃やナイフでツルギを襲ったが、その動きはあまりにも遅い。
「雑魚が」
ツルギは素早く体を沈め、低い体勢のまま男たちに突進、いくつもの銃弾が頭上を通過するのを意識しつつ、連続して斬撃を放った。
時間にしてわずか二秒。マフィアの男たちは全員、倉庫内の硬い地面に倒れ伏していた。
「……ちっ」
一仕事を終えた達成感なんてものはない。ツルギにとってこれは、いわば退屈しのぎのようなものだ。あるマフィアに依頼されて、違うマフィアを潰した、ただそれだけのこと。依頼した連中も、今なで斬りにした連中も、そして俺自身も、等しくクズだ。
「……なるほど」
ツルギは倉庫内に積まれた『小麦粉』が入っていることになっている粉袋に視線を向けた。小悪党同士の欲望に起因する小競り合い、それに加担する結果となったらしい。
半端者にはふさわしいカスのような仕事だ。が、あくまでツルギの仕事はこの取引現場にいた連中を始末することであり、その他のことは知ったことではない。依頼者のことも、もともと気に入らなかった。ヤツのいいように利用されるのもごめんだ。
ツルギはコートのポケットからスキットルを取り出し、入っているバーボンを一口だけ飲むと、残りを粉袋に注いだ。続いてマッチを擦り、煙草に火をつけたあとでそれを投げ捨てた。
踵を返し、湾岸倉庫を去る。背後からは激しい炎の熱を感じるが、振り返りもしない。
「さて、次はどうしたものかな」
ツルギは考えた。この火災の一件でしばらくは面倒事が続きそうだ。一時的にイタリアを離れる必要があるだろう。もっとも、根無し草である自分にとってはそんなことは大した問題ではない。
考えているのは、イタリアを出てどこに行くか、ということである。
「ふーっ……」
短くなった煙草を吹かすと同時に、思い出したことがある。古い知人から、ある組織についての評判を聞いていた。
メタリカ。現代の世界において、もっとも強いとされる『悪の組織』。その本部は日本にあるらしい。身を寄せてみるのも面白いかもしれない。
世界代々の悪の組織、メタリカ。どんな連中がいるのかは知らないが、少しでも自分を熱くさせるものがあってほしいものだ。
ツルギ・F・ガードナーはそんなことを考えつつ、吸い終わった煙草を携帯灰皿に押し付けて消した。