2.1話 やべぇ昨日は飲みすぎた
ヤンチャンWEBにてコミカライズの連載始まりました。
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やべぇ、昨日は飲みすぎた。最後の芋ロックはやめておけばよかった。
間中年男は朝起きるなり、もう何度目かわからない同じ反省をした。だるい、かなり体がだるい。昔はあの程度大丈夫だったものだが、さすがにもう若くはないということだろうか。
「あー……、もう五時かよ……」
あまり寝た気はしないのだが、もう出なくてはいけない時間だ。始業時間まではまだかなりあるが、間中は始業時間よりだいぶ早く出勤することにしている。
のそのそと体を起こし、メタリカ庶務課指定ジャージに着替える。昨日飲みすぎても、もう若くなくても、たいした給料をもらってなくても、それでもやることは変わらない。変えるわけにはいかない。
まだ誰も出勤していない職場につくと、トレーニングルームに直行。筋力トレーニングやサンドバッグ相手の打撃、地下に降りての射撃訓練を行う。
「ふぃー……頭いてぇ……」
二日酔いなのでかなり気持ちが悪い。だがそれでも慣れたものだ。辛くても休んだことはないし、こうやって自分なりの強さを作ってきた。だからこそ、メタリカ庶務課というひどい職場でも戦ってこれたのだ。
そもそも、飲んだ翌日に寝床でダラダラしたり、やると決めていることはやらないやつに酒を飲む資格はない。
……いや、パフォーマンスは多少なりとも落ちるわけなので、最初から飲まないほうが一番いいのはわかっているのだが、それはできないでいた。
その辺が、俺のダメなところなんだよな。
メタリカ戦闘員としての仕事は全うしている。その辺のガーディアンや他組織のザコに後れをとることはない。しかし組織で出世していく、という若いときに掲げた目標ははるか遠いままだ。色々なことがわかるようになった今では、もう無理なのかもしれないと気づいている。
それは自分に足りないもの、かけているものがあったからなんだろうな、とわかってはいた。
努力、決意、才能、あらゆることが不足していたのだろうと思う。でも、いまさら他の生き方なんてできない。みっともなくても、しんどくても、俺はずっとこのまま必死でやるしかない。夢や信念を亡くしてしまわないように、だ。
そんなことを思いつつ早朝のトレーニングを終了した。ちょうど時間も始業ギリギリの時刻となっている。始業時間に行う朝礼に出てみると、主任に連れられて知らない男が入ってきた。男、と呼ぶにはまだ幼さが残っていて、どうも弱々しい。ガキみたいにも見える。
「今日から入る小森だ。本社採用なのに一般職という珍しい経歴だよ」
主任はいつものようにどこか弛緩した声でそう告げ、その新顔の男について説明した。
なるほど、あいつは新入社員なのか。・
「小森寧人です。よ……よろしくお願いします!」
新入りは声を張った。多分、初日だから頑張ってそうしたのだろう。本当はもっと内気なヤツなんだろう。それがありありと分かる。とても悪の組織にいるたまには見えない。
本社採用なのに一般職で庶務課配属? そりゃご愁傷様だ。
間中はそんな風に思いつつ、その新入りの初日の様子をなんとなく目で追っていた。
バカみたいにスタンロッドを素振りしている。誰にもなにも教えてもらっていないのに、大真面目な顔して汗だくだ。当然フォームも滅茶苦茶で全然だめだ。
変なヤツだぜ。
少しおかしく思えた。だが、同時に間中は違う感情も覚えた。
あの新入りを見ていると、なんだか懐かしい気がしてくる。
いや、若いときの自分に似ている、というわけではない。俺はあんなにオドオドしちゃいなかったし、礼儀なんてクソみてぇなもんだった。でも、何もわからないくせに必死で、それでぜーぜー言いながら意味のないことをやっている、というところだけは少しだけ覚えがある。
仕方ねぇな。しばらくあの新入りがいるようだったら、ちょっとかまってやるか。
間中は、そんな風に思った。
二日酔いは、だいぶ良くなっていた。
「悪の組織の求人広告、コミカライズ」で検索してねー。