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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
新入社員立志編~ディラン~
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歩いて行くよ

寧人が意識を取り戻したのは、メタリカ傘下の医療施設であった。戦いが終わったあと、庶務課の仲間に運び込まれたらしい。怪我は左腕の銃創。出血で気絶はしたものの、それ以外に大きなダメージはなかった。


比較的短期間で退院できるらしい、今回はよくやったな。庶務課では異例の成果だ。…間中のことは、残念だったな。気を落とすなよ。面会に来た庶務課の主任はそう説明し、さきほど病室を出て行った。


「……」


 やっぱり、あの出来事は夢ではなかったのか。人気のない波止場での戦闘、圧倒的なまでの強さと迫力を持つヒーロー、死に物狂いで一矢報いようとした自分。そして、間中の死。


「……くそっ…」


 採用試験、配属、庶務課、社員。まるで一般企業のような名称に組織体制だったが、寧人のいるところは紛れもなく普通ではなかった。もしかしたら、構成員がその異常性を感じるのを抑制するために、あえてそうしているのかもしれないな。

寧人はボンヤリとそんなことを考えた。別のことを考えていれば、今心の中にある感情を追い出せるのではないか、と思って。


 しばらくして、不意に病室のドアがノックされた。


 「……? はい」


 「こんにちは。入っても…いいですか?」


 ドアから顔を覗かせたのは、同期入社の真紀だった。


 「真紀さん……? なんでここに?」


 今日はオフなのだろうか、彼女はひらひらしたワンピースを着ていた。


 「うん。労災の書類申請で、寧人くんのこと知って、それで……」


 真紀は花を抱えている。お見舞いに来てくれた、ということだろうか。どうして来てくれたんだろう。同期だから? 社会人って偉いんだな。寧人はそう思った。


 「そっか」


 真紀は総務課の配属だった。そういう情報も入ってくるのだろう。多分、間中が戦死したことも知っているはずだ。


 「あ、これ。お見舞いです。……活けてもいいですか?」

 

 真紀はそういうと、バックから花瓶の入った袋を取り出し、花を活け始めた。


 「……ごめん。せっかくの休みの日に気を使ってもらって」


 同期入社の美少女がお見舞いに来てくれた。普段なら思わずニヤついてしまうほど嬉しい出来事だったが、今はそんな心情にはなれなかった。


 「いえ。どうせ暇ですから! 気にしないでください!」


 真紀は花を活け終えると、手をぶんぶんと大げさにふる。


 「……ありがとう」


 「どういたしまして。それにしても凄いですね! 寧人くん。本社のほうでも話題になってるんですよ!」


 元気付けようとしてくれているのか、真紀は元気な口調だ。

 

 「新人がロックスを、それもあのディランを撃退した! って! すごいです! どうやったんですか?」


 「……」


 「……ごめん、なさい」


 一転して、真紀はしゅん、と顔をうつむかせた。

いや、いい。別に真紀に対して怒ったりしてるわけじゃない。心遣いが嬉しかった。本当に嬉しかった。だから、カラ元気を出して見せた。


 「そ、そうなんだ! 給料上がったりしないかなー?」


 「…あはは。そうですね。ひょっとしたらボーナスでるかも知れませんね!」


 「やったぜ!」

 

 「やりましたね!」


 そのあとしばらくは、真紀の近況報告を聞いたり、全然関係ないテレビ番組の話なんかをした。


 少しだけ、楽しい気持ちになれた。真紀はきっと、自分が沈まないように、きてくれたんだろうな、とわかった。別に好きでもないであろう同期というだけの男に、こんなに気を使ってくれるなんて。美少女な上にいい人なのか、すごいな。

 

 そんな風に思った。


 「あ、……長居しちゃいましたね。ごめんなさい。傷に障るとよくないから、そろそろ、行きますね」


 「うん。今日はありがとう」


 そう言葉をかわし、真紀が立ち上がる。


 「あのさ」


 誰かに、聞いて欲しかった。だから口から言葉が出た。


 「ん? なんですか?」


 「……俺にはいい先輩ができてさ、すごくいい先輩で、さ」


 「……はい」


 真紀はこっちをまっすぐ見つめ、頷く。大きな瞳が、少しだけ潤んでるようにも見えた。


 「その先輩が、俺に言ったんだ。『メタリカの頂点に立て、約束だぞ』って」


 「……うん」


 メタリカの頂点に立つ。下っ端の戦闘員ごときの大言壮語。笑われるかな、そう思ったけど。真紀はマジメな顔で、答えてくれた。


 「それがどういうことなのか、今は分からないけど。俺……バカみたいだけど……」


 メタリカの頂点へ。悪の頂へ。

世界を変えたいと願った気持ち。それは嘘じゃない。そして、この道の先には、それを可能にする力があるかもしれない。


 俺が作りたい世界はどんなものなのか。まだおぼろげだけど。きっとこの道を進んでいけば見えてくるはずだ。


 悪に属する自分が進めば、壊してしまうものもあるだろう。『正義』の敵とされるだろう。多くの業を背負うだろう。当初なんとなく入団した自分に、それでも進む覚悟はあるか。


 答えは決まっていた。それはきっと、間中が最後にきっかけをくれたものだった。

 だから。間中が死んでしまったことが悲しくても悔しくても、それで立ち止まるわけにはいかない。


 「俺は、メタリカの頂点へ歩いて行くよ」


 寧人は静かな口調でそう告げた。


 真紀はそんな寧人を、笑わなかった。

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