★修二side
すみれの姿を目で追った。
・・・何でまだ二回しか会った事がない春也と、さっき会って、急に付き合うことになったのか。俺にはさっぱり訳が分からなかった。
「・・・仕事の話をしよう」
俺の言葉に。
「なぜ、何も聞かない?」
春也が質問した。
「男女の仲を、とやかくいう事もないだろう?」
「結婚すると決めた女じゃなかったのか?」
「お前には関係のない事だ」
苛立ちを押さえながら、冷静に言葉を発した。
「そうですか・・・では、本題に入りましょうか?」
・・・仕事は終わり、春也は帰っていった。
自分のデスクに座り、溜息をついた。
「・・・すみれ」
小さな声で呟いた。
「…社長」
「ぁ…すまない。入って来てたのか」
いつの間にか香華が中に入ってきていた。
オレの傍に来た香華は、オレの顔をそっと抱きしめた。
「・・・仕事中だぞ?」
「あんな子やめて、私にしてください」
「要件だけ述べて、出ていきなさい」
「・・・そんなにあの子がいい?」
切ない目でオレを見つめた。
「オレにはアイツしかいない」
「…私は遊びだった?」
「最初から、恋愛感情はないと言ってたはずだ。香華も承知の上じゃなかったのか」
「分かっていても、気持ちは止められない」
香華はそれだけ言うと、書類を置いて出ていった。
同じ秘書課に配属した事。その事で、香華から離れた事、罪悪感がないわけではなかった。
・・・仕事中だったな。
すみれが来てから、オレの心は乱れっぱなしだ。それほどまでにすみれの事を・・・
…トントン。
「どうぞ」
入ってきたのは、藤田だった。
「社長、この件ですが」
何とか切り替えて、仕事を始めた。
仕事が終わったのは、午後10時を少し回ったころだった。
ドアを開けると、すみれがうつ伏せになって、デスクで眠っていた。
「こんな時間まで、仕事を?」
…デスクの上には、山ずみの書類が・・・
「カワイイ顔で寝ちゃって・・・」
顔をツンツン突いても、起きる気配がない。
こんな時間だ。もう、みんな帰って、夜警のおじさんしかいないな。
オレは、軽々とすみれを抱き上げると駐車場に向かった。
…途中、案の定、夜警のおじさんに出くわしたが、シーッと、指を口に当てて静止した。
マンションのすみれの部屋。ベッドに寝かせると、
「修二さん・・・ごめんなさ、い」
…寝言?謝るような事でもしたのか?クスッと笑ったオレは、すみれの唇にそっとキスをした。
「おやすみ・・・いい夢を」
帰ろうと立ち上がろうとしたその時。手を掴まれた。
…なんだか離してはいけない気がして、そのまま握り返した。
「オレはずっと、お前だけを愛してきた・・・」
寝顔にそう呟いた。
…オレはそのまま、眠ってしまった。連日の激務で、疲れていた。
…これは、すみれと出会った場所?
この頃、まだ中学生だったすみれ。オレは、会社に入ったばかりで、失敗して、会社近くの公園でうな垂れていた。
そんな時、笑顔で喋りかけてきたのが、ずみれだった。
「元気がないね?そんなんじゃ仕事もうまくいかないよ?」
「その仕事で失敗したんだ」
「ふ~ん・・・大人って大変だね。ほら、これあげるから、元気だしなよ」
笑顔で差し出してきたのは、チョコレート。
…子供かよ、オレは。
「それね、おまじないしてあるんだ。今度は仕事成功するよ」
・・・なぜか、この子の笑顔に惹きつけられた。
「・・・名前は?」
「すみれ、岩下すみれ」
「オレが社長になったら、雇ってやるよ」
「ホント?!じゃあ、私の就職は安泰だね」
すみれは嬉しそうに笑った。これが、最初の出会いだった。
すみれの顔が忘れられなかった。
…それから数年後。再会した。
それは、オレが通っていた大学。恩師に頼まれて、久しぶりに大学に言った。
…オレは自分の目を疑った。笑顔はそのままだったが、あまりにも綺麗になっていたすみれ。
オレはしばらく、すみれを見つめていた。
「綺麗な子だろう?」
「…教授」
「気さくで、頭が良くて、男女ともに人気者だ。・・・知り合いかね?」
「・・・いえ」
オレは運命だと思った。
オレはすみれと結婚すると、心の中で誓った。
「・・・修二さん」
・・・すみれ?
オレはそっと目を開けた。
時計が朝の5時を指していた。
「起きたんだな」
「あの・・・もしかして、ここまで運んでくれたんですか?」
「起こしても、起きないからね?しかも、手を離してくれないから」
そう言って微笑めば、
「ごめんなさい」
少し顔を赤くして、すみれは謝った。
・・・その顔が、そそるんだよ。
すみれは分かっていない。
オレはたまらなくなって、すみれを抱き寄せた。
「春也と別れろ」
オレの言葉に俯いたすみれ。
「ごめんなさい・・・それはできないんです」
「弱みでも握られた?」
オレの言葉に、一瞬体をこわばらせた。
…ビンゴ?
「一体何を?」
「・・・何も、握られてなんか」
明らかに動揺している。オレに知られるとまずいのか?
あえて、深くは聞かなかった。
「この唇は、春也に渡すなよ」
そう言って強引に唇を奪った。
「…何で、泣いて?」
「・・・知りません。帰ってください。仕事ですよ」
涙を拭ったすみれはそう言ってそっぽを向いてしまった。
…仕方なく、オレは部屋を出ていった。
…春也に何を握られているのか?
…あの、涙の意味は?
謎だらけで、納得できなかった。