3.女の敵は女?!
今日からまた仕事。気持ちを切り替えて、出社した私を、待ち受けていたもの。
・・・ロッカーを開けて、絶句。
生ごみが散乱していた。
「何これ?!」
後ろからそんな叫び声が聞こえた。
「洋子さん」
涙目の私を、洋子さんは抱きしめた。
「このロッカーは、もう使わない事。女の苛めは陰険だから嫌いなのよ。
私のロッカー使いなさい。他の空いた所探すから、ね?」
なんて優しい洋子さん。私は頷いて、仕事の準備を始めた。
・・・秘書室は、私たち秘書と、社長しか入れないように、鍵がされているから安心した。
デスクを確認するまでは、ヒヤヒヤしたけど。
しばらくして、修二さんが出社してきた。
「おはようございます」
皆立ち上がって、深々と頭を下げた。
「おはよ」
笑顔の修二さんが、洋子さんの耳打ちで、一瞬にして、顔色が変わった。
・・・もしかして。
「・・・どうにかなりませんか?」
洋子さんが言った。
「ちょっと、やり過ぎだな」
何時のも野菜い顔はどこにもなかった。
「洋子さん、そんなこと」
私は慌てて言う。
「いいのよ、こういう事はちゃんとしておかないと、何かあってからじゃ遅いんだから」
私たちの会話に、
「・・・岩下さん、ちょっと」
社長室に来るよう促された私は、洋子さんを横目に、中に入っていった。
ドアが閉まると同時に、修二さんが私を抱きしめた。
「しゃ、社長・・・」
「悪いな・・・オレのせいだ」
「そんな!社長のせいなんかじゃありません…私は気にしてませんから」
私の言葉に、より一層、抱く腕に力を込めた修二さん。
「何とかするから」
・・・修二さん。
「ホントに、何もしないでください。社長はいつものままでいてください」
「しかし」
「自分でなんとかしますから」
微笑んだ私は修二さんに頭を下げると、社長室を出ていった。
・・私に何とかする力があるか不安だけど、何とかするしかない。
…私のこの決意とは裏腹に、どうにもできない事態が・・・
「今度、新しい企画が秘書課と、海外事業部の連携で、することになった。これを、海外所行部まで、持って行ってくれないか?」
藤田さんに言われ、私は海外事業部へ。
…秘書課って、社長の身の回りの事だけじゃないんだ。
そう思いながら、足早に、階段を下りていた。
・・・?!
突然誰かが私を突き飛ばした。
どうする事も出来ず、私はまっさかさまに落ちた・・・
「…イテテ」
何とか無事らしい。
「…重いから、降りてくれないか?」
?!・・・私は誰かの上に、落ちたらしい。
慌てて下りると、頭を下げ謝罪した。
「ごめんなさい!」
恐る恐る顔を上げると、どこかで見たような・・・
「君はあの時の?!」
「あ~!」
…思い出した。
意味深な言葉を残して行った、大路春也その人だった。
「…ぁ、書類」
私は散乱した書類をかき集めた。
春也もそれを手伝った。
「さっき…誰かが君を突き飛ばしたね?」
春也が呟いた。
「ここで、苛めにでもあっているのか?」
「さぁ・・・」
私は言葉を濁した。
「修二は何をやっているんだ?!」
「この事は!!…社長には言わないでください」
「なぜ?」
「心配をかけたくありませんから」
「・・・婚約者なのに?」
「…付き合ってもいません」
・・・たぶん。
私の言葉に、溜息をついた春也。
「わかった。秘密にしておいてやる・・・その代わり、オレと付き合ってくれたらね?」
「・・・」
この人、仮にもアメリカの大財閥の社長でしょ?
修二さんといい、春也といい・・・
この人たちの考えてる事は、私にはわからない。
「バラされるのと、秘密にしておく代わりにオレと付き合うのとどっち?」
見つめられた私は、後者を選んだ。
・・・その後、私たちは階段で別れた。
急いで書類を届けると、秘書室に戻った。
「・・・どうしたの、そのあざ?」
洋子さんが、指を指した先・・・足に大きな痛々しいあざが・・・
「さっき、よそ見してて、ぶつけちゃって」
笑って言うと、
「もう、ドジね?気をつけなさい」
「はい」
…どうやら嘘が通じたようで溜息をついた。
「ぁ、そう言えば、社長室に来るように言われてたんだ」
「私ですか?」
「うん、早く行った方がいいわよ」
「わかりました」
・・・ノックをして、ドアを開けた。
「やぁ、さっきはどうも」
…いてほしくない人物。
「大路社長」
「春也でいいよ」
・・・馴れ馴れしい。
「今度の企画、大路の会社と一緒に、する事になったんだ」
修二さんはにこやかに話した。
私と言えば、顔が引きつるのを必死に堪えるしかなかった。
「さっきって、さっきも会ったのか?」
修二さんが問いかける。
「あぁ・・・そうだ、さっきから、オレとすみれ、付き合うことになったから。
結婚の話しは忘れろよ」
涼しい顔で言い放った春也。
修二さんは、私をただ見つめるしかなかった。
「…そういう事です。他に用がないのでしたら、失礼します」
私はここから早く逃げ出したくて、頭を下げるなり、社長室を出ていった。
・・・修二さんとは付き合っているわけじゃない。
私の事なんて、本気じゃない。
そう自分に言い聞かせた。