14.今度は本当の?!
この事がきっかけで、2人は全く喋る事が無くなった。
・・・そんなある日。
「修二さん」
2人きりの部屋の中、ソファーに座って雑談中。
「なんだ?」
「雅也さんの事なんですけど」
「あぁ、オレもその件ですみれに話したい事があったんだ」
そう言った修二さんは私を抱き寄せ、優しく微笑んだ。
「なんですか?」
少しの間を置いた修二さんが、口を開いた。
「今、春也に頼んで、俺達の結婚式に準備をしてもらってる」
…今、なんて?
「俺達が結婚すれば、雅也ももう、何も言ってこないだろ?」
「・・・」
いつかは結婚したいな。そうは思っていたけど、何か違うような…そんな気がした。
「すみれ?…オレとの結婚は嫌か?」
心配そうに顔を覗きこんだ修二さん。
「そんな…嬉しいですよ?でも、何か違う気がして…」
「・・・何が?」
「二人の気持ちがずれてるっていうか、とにかく、なんか違うんです」
「…まさか、雅也に惚れたとか?」
?!!何でそんな発想が出来るの?
「ち、違いますよ!」
「じゃあ、春也には、このまま進めてもらうぞ?」
「・・・」
返す言葉が見つからず、ただ頷いて見せた。
結婚てこんなものなのかな?
…もっと嬉しくて、感動しちゃうのかと思っていたけど。
・・・雅也が好きなわけじゃない。ただ、雅也には納得してもらってから、式を挙げたい。私は修二さんが好き。大好き。この気持ちを、雅也に受け入れてもらいたい。
…どこから私たちの事が漏れたのか、『結婚』の事が、会社中に知れ渡っていた。
女子社員達はもう、私に対するいじめを止めてしまっていた。
今は、おめでとう・お幸せになどなど、嬉しい言葉を言ってくれていた。
…昼休み、私は静かな屋上で、コーヒーを飲んでいた。
「・・・すみれ」
私を呼んだのは・・・
「どうしたんですか、雅也さん?」
「オレもちょっと休憩」
そう言ってかと思うと、私の横に腰を下ろした。
「兄貴と・・・」
「え?」
「結婚…するのか?」
「・・・」
私は黙って頷いて見せた。
「オレに気持ちを、無視するな」
「・・・雅也さん」
どうしたら、祝福してくれますか?
・・・?!!
突然、私の頬を両手で挟んだ雅也。
「こんなに好きなのに」
「私には、修二さんしかいません。雅也さんにはもっといい人が見つかります」
…そんなに切ない目で見ないで。
・・・修二さんと同じ顔をした雅也。どうしても、気持ちが揺らぐ・・・
「私は、貴方を…愛していない」
これだけ言っても、諦めてくれない?
「オレは、すみれを愛してる」
私は、雅也の手をそっと離して、立ち上がった。
「雅也さんを受け入れる事なんて、私にはできません。俺様で、強引で…でも、本当は優しくて、心の温かい修二さんを、私は好きになりましたから」
その言葉を残して、私は屋上を出ていった。
私が何を言っても、無駄のような気がしたから。
それほどまでに、この短時間で、人を愛してしまう気持ちは、私にも、痛いほどよくわかるから。
…もう、何も言わない。私は修二さんと結婚する。
とは言っても、私たちの結婚式の翌日までは、雅也はうちの会社で働く。その後は、青木財閥が経営するもう一つの会社の社長就任式が待っていた。めでたいこと続きだと、会長は喜んでいるようだけど、私、修二、雅也は、複雑な気持ちで一杯だった。
そして数か月後。結婚式当日を迎えた。
純白のウエディングドレス。なんだか自分に似つかわしくないほど、派手な装飾がなされていた。
「やっぱり、すみれにはこのドレスが良く似合うわ」
それを言ったのは、アメリカで仲良しだったアリス。
「そうだな、惚れ直した」
そう言って微笑んだのは春也。
「誰に惚れたって?」
アリスが春也の頬をつねった。
「イテテ…冗談だよ」
この二人、どうやら付き合うことになったらしい。
「今度は、アリスたちの番だね」
そう言って微笑むと。
「こんな乱暴な女と、誰が結婚するか!」
捨て台詞を履いて、春也は逃げ出した。
「なんですって?!」
アリスが春也を追いかけた。
ケンカはしょっちゅうだけど、とっても幸せそうな二人。見ててホッとする。
「すみれ」
その声に、そっと振り返ると、『惚れ直した』その言葉がその人には、ピッタリと当てはまった。
白いタキシード。背が高くて、よく似合っていた。
「カッコいいですね。見惚れちゃいました」
そう言って頬を染めると。
修二さんは微笑んだ。
「すみれの方こそ、凄く、綺麗だ、」
手を取り合い、見つめ合った。
今日、私、結婚するんですね。
大好きな貴方と・・・
「修二さん」
「修二でいい、いつまでオレに敬語を使う気だ?」
「フフ、これからもずっと、このままでいるつもりです」
「なんで?」
「私が修二さんを愛していると言う、証みたいなものです」
そう言って微笑むと、修二さんは私の頭を優しく撫でた。
「すみれがそう言うなら・・・そのままでいてくれ」
『そろそろ、お時間です』
担当者に呼ばれ、私たちは教会に向かった。
…扉が開き、前に進む。
雅也の姿はそこにはなかった。
やっぱり来てくれなかったんですね。俯いてしまった私を見た修二さん。
「どうした?」
「いいえ、なんでもありません」
私が微笑むと、安堵の溜息をついていた。
厳かに行われた結婚式。左薬指には、綺麗な結婚指輪が光っていた。
教会を出る途中で、勢いよく、扉が開いた。・・・雅也。
バージンロード似た田津無私たちの前に、雅也は真剣な顔で近づいてきた。
「・・・雅也」
修二さんが一歩前に…
「・・・」
?!!
突然私の手を掴んだ雅也は、教会の外に走り出した。
「雅也さん、離して!」
私の言葉なんて、耳に入っていなかった。
誰もいない中庭。
「雅也!」
後ろから、修二さんが追いかけてきた。修二さんのその声で、足を止めた雅也。
「すみれはオレのモノだ。結婚なんて許さない」
修二さんに背を向けたまま、雅也は言った。
「雅也さん、私…幸せになりたい」
私の言葉に、雅也の顔が歪む。
「俺から…すみれを奪ったら、生きていけない。それくらいすみれを愛してる。雅也。オレの手からすべて奪ってもいい、地位も、名誉も何一ついらない、でも、すみれだけは・・・」
修二さんの正直な気持ち。雅也はど受け止める?
と、突然クスクスと笑いだした雅也。
「何が可笑しい?」
修二さんが雅也に言った。
「兄貴がこれほど愛せる女は、すみれだけなんだな?」
「ああ、もちろん」
「今の気持ち、忘れんなよ?」
「・・・え?」
「生きていけないほど愛した女を泣かせたら、絶対奪うからな」
そう言った瞬間雅也は私の手を離した。
「・・・雅也さん」
「実に愉快。初めて、兄貴に勝った気がする。すみれ、まだ祝福は出来ないけど、しざわせになれよ?」
「・・・ごめんなさい」
「謝るなよ、惨めになるだけだ。いつでも俺のとこに来いよ、いつでも面倒見てやるから」
そう言って笑った雅也が歩き出した。
「雅也どこへ?」
「まだ祝福できないって言っただろ?オレはどこかに消えるさ」
「・・・明日」
「社長の就任式には、笑って会おう」
その言葉を最後に、雅也は車に乗り込んだ。
・・・その場に取り残された私と修二さん。
「教会の中は大騒ぎ、だな」
そう言って苦笑いする修二さん。
「二人で頭を下げますか?」
私の言葉に。
「・・・初めての夫婦の共同作業が、皆に土下座とは・・・」
修二さんは、笑いながら、私の手を取り歩き出した。
「そんなスタートもなんだか楽しいです。今まで色んな事がありましたから、修二さんとなら何でも乗り越えられそうです」
…私たちは、教会に入っていった。




