★あなたは・・・?
そんな幸せな日々が続いていたある日、思いもよらない事件が起きた。
…夜。
寝室で眠っていると、ベッドに誰かが、入ってきた。
当然、修二さんかな、と思う。だから私は、迷うことなく、修二さんの体に腕を回した。
・・・・?
いつもと違う唇の感触。・・・そして、いつもと違う香水の香り。
「・・・修二さんじゃないの?」
私の質問にクスッと笑った、謎の人物。
…違う、この人は修二さんじゃない、一体誰?
暗くて、何も見えないうえに、押さえつけられた状態で、身動きもとれない。
「修二さん!」
私の叫び声と同時に、寝室のドアも勢いよく開いた。
「すみれ、どうした?!」
修二さんの声と共に寝室の明かりが点いた。
青い顔をした私と・・・
修二さんにそっくりな、まるで瓜二つな顔が、そこにあった。
「雅也。何でそんな体勢何だ?」
修二さんは雅也と言う男を私から引き離した。
「久しぶりに帰ってきたら、時差ボケで眠くてさ…ベッドを借りようとしたら、この子がいたってわけ」
そう言って私を指差した雅也。
「・・・」
言葉が出ない。
「柔らかいキス、ご馳走様」
そんな私に、雅也はそう言って微笑んだ。
「しゅ、修二さんだと思って…貴方、誰ですか?」
口を拭いながら、質問する。
そんな私の行動に、雅也は苦笑いをした。
「オレは、ばい菌かよ?」
「雅也が悪い・・・すみれ、コイツは、オレの5つ下の弟。雅也だ」
「…弟?」
…通りで、顔がそっくりなわけだ。
「帰ってくるなら、連絡くらいしろ、雅也。いつ、ヨーロッパから帰ってきたんだ?」
どうやら外国に行ってたらしい。
「ほんの1時間前、親父が、オレを無理やり呼び戻したんだ」
そう言ってムッとした表情をした。
「何でまた急に?」
「青木財閥の経営する会社の社長に就任しろってさ」
「・・・まぁ、雅也も潮時だな。いい加減、後を継げ」
「イヤだね。オレは自分の会社で手一杯だ」
「両立なんて、お前の得意分野だろう?オレに負けず劣らずな才能があるくせに」
・・・!!
突然、私の方を向いた雅也。
「な、なんですか?」
布団で少し顔を隠した。
「…ところで、兄貴の何?」
「え・・・あの」
困った私。
「オレの婚約者だけど?」
困ってる私を助けるように、修二さんが横から言い放った。
「ふ~ん、今までに見た事ないタイプだね?兄貴のどこがいいの?冷たくて、無表情に近いのに」
…私の前で、冷たい態度も、無表情も見たことがない。
「貴方、お兄さんの事、何か勘違いしてるんじゃないですか?」
雅也は、私の言葉に目を丸くした。
「君の前じゃ、違うって言うの?」
「そうですね。とっても優しいし、色んな顔も見せてくれますよ?」
「ふ~~ん・・・兄貴、本気、なんだ」
「え?」
「女って言うのは、兄貴にとって、遊び道具だと思っていたから」
意味深な発言。
そうなの、修二さん?私は修二さんを見つめた。
「適当な事を言うのは止めろ。とにかく、この鍵をやるから、隣の部屋を使え。俺達の邪魔をしたら、例え、お前でも許さない」
そう言って雅也を睨んだ修二さん。
「はいはい・・・とりあえず、明日からしばらく、兄貴の会社で働くから」
「なんで??」
「兄貴を見て勉強しろってさ」
「…あの、くそオヤジ」
「じゃあまたね…誰だっけ?」
「・・・すみれです」
「そっか、すみれね、おやすみ、すみれ」
ウインクして雅也は出ていった。
溜息をついた私。
「驚かせて悪かったな」
修二さんがベッドに腰を掛けた。
「いいんです、・・・それより、手のかかる弟さんのようですね」
私の言葉に苦笑いした修二さん。
「仕事の才能は、十分あるんだけどな。青木財閥を嫌ってるんだ」
そう言った修二さんは、私を抱きしめる。
「・・・なぜです?」
私は優しい口調で、問いかけた。
「この仕事のせいで、母親は死んだと思ってるからだ」
・・・その言葉に、それ以上なんて聞いたらいいかわからなくなってしまった。




