2.社長のマンションへ?!
結局、私は社長のマンションの前に立っている。
…会社では何もされないが、家に帰ると、どこで調べたのか、
イタ電・誹謗中傷の張り紙・あげくの果てには、その紙が部屋中一杯に・・
泣く泣くここへ引っ越してきた。
…部屋で、荷物の整理をしていると、インターホンが鳴ったので、
玄関を開けた。
「…社長」
「どうも・・・これ」
社長の手には、お弁当?
「引っ越し祝い」
「・・・」
めでたい事でもないんだけど。
っていうか、社長が直々にこんな物を、持って来た事が信じられなかった。
「…ありがとうございます。あの…上がりますか?」
私の言葉に社長は笑顔で頷いた。
・・・二人で静かにお弁当を。
何とも言えない心境だ。
「悪いな。初めから秘書課に入れたのは、まずかったかな?」
その通り!…と思ったけど、黙って黙々と食べ続けた。
そんな私を見て社長は苦笑い。
「君を、私の傍に置いておきたかったから」
…私の箸がピタッと止まった。
入社試験の時くらいしか私を見た事無いだろうに、どうしてそんな事を思ったんだろう?
私は、社長の顔をマジマジと見つめた。
社長は、弁当をしまい立ち上がった。
「社に戻らないといけないから行くよ」
社長を玄関まで送ると、靴を履いた社長が、こちらを見て言った。
「こうやって、2人で会うときは、プライベートだから、修二って呼んで」
「・・・修二、さん」
「・・・よし、じゃあ、また明日」
微笑んだ社長・・・いや、修二さんは、手を振ると、部屋を出ていった。
私には、修二さんが何を考えているのか、さっぱりわからなかった。
…私の事、愛人にでもする気かしら?
…身震いをして、また片づけに戻った。
引っ越して以来、私への嫌がらせが無くなったのは言うまでもない。
やっと快適ライフが楽しめる。仕事は忙しいけど、やりがいはあるし、
洋子さん・香華さん・スタッフ全員優しくて、信頼できる人ばかりで安心した。
でも・・・
最近、社内の廊下でわざとぶつかってきたり、ロッカーにいたずらされることが多くなってきた。
洋子さんはそんな陰険な女子社員達に凄い文句を言いながら、私を守っていてくれた。
でも、今日は私一人残業。洋子さんも私用で早く帰ってしまった。
午後6時。やっと仕事を終えて、社を出た時だった。
2.3人の女子社員が私の前に立ち塞がった。
私はギョッとした。
そんな私にお構いなく、一人が喋り出した。
「貴女、社長の何なの?」
…なんなの?と言われても、社長と社員の関係でしかないと思ってるし。
この人たち、私を社長の愛人か何かだと勘違いしてる。
…そう思いながら、困っていると、クラクションの音が聞こえた。
…藤田さんだった。
「岩下さん、今帰り?」
私は車に近寄って、頷いた。
「じゃあ、乗りなよ、君んちの近くに用があるから・・・
それとも、その子たちと?」
藤田さんの言葉に私は目一杯首を振った。
女子社員達の顔をチラッと見ながら、そそくさと車に乗り込んだ。
藤田さんが女の子たちに笑顔で手を振ると発進させた。
私が大きな溜息をつくと、藤田さんはクスクスと笑った。
私はムッとして言った。
「何で笑うんですか?」
「イヤ…悪かった。でもさ、女の執念って凄いと思って。玉の輿の為なら、
女を捨てられるのかな?」
…私はまた溜息をつく。
「私と社長は何でもないのに」
「…本当に、社長の事、何とも思ってない?
「もちろんですよ」
「その気持ち、変えちゃダメだよ?」
私は首を傾げた。
藤田さんは話しを続けた。
「チーフいるだろ?…あの人、ずっと社長の事が好きなんだ。
一時は付き合ってたみたいだけど、別れてね?…君が入社する前に。
チーフの為に好きにならないで」
・・・香華さんと社長が?…あれ、藤田さん。
チーフの事喋ってる時の顔見てると・・・
「藤田さん、チーフの事好きなんですか?」
私の言葉に、藤田さんの顔は真っ赤になっていた。
・・・やっぱり。と、思っていると、車が止まった。
「オレの気持ちは誰も知らない事だから、他言無用だよ?」
私は笑顔で頷いた。
いつもキリットした人なのに、意外な一面が見れて、嬉しかった。
私は車の外に出た。・・・マンションに着いていた。
そう言えば、ここに住んでいることを知っているのは、社長だけのはず。
私は藤田さんの顔を怪しい目つきで見た。
「何で知ってる顔だな。…もちろん社長から聞いたんだよ。
君に何かあった時は、助けてやってくれって言われてるんだ」
その言葉にホッとすると、藤田さんはニッコリ笑って、車を発進させた。
藤田さんを見送り、私はマンションの中に入った。
5階は本当に人気がない。それなのに・・・
私の部屋の前で、誰かが座り込んでいるのが見えた。
恐怖に襲われながら、でも、そこに行かないと部屋には入れない。
仕方なく、ちょっとずつ近寄った。
・・・よく見て見ると、社長だった。
「修二さん、こんなところで何してるんですか?!」
私は修二さんをゆすって起こした。
・・・?!
修二さんは急に立ち上がると、私を抱き寄せた。
ビックリして、腕を払いのけようとした。
でも、抱きしめる力が強くて、どうにもならない。
・・・ふと、
私の頬に、ポタポタと何かが落ちた。
・・・修二さんが泣いてる?
「どうしたんですか、ホントに?」
私は、修二さんの背中を優しく撫でた。
「やっと…手に入れた」
「・・・」
…ズシッと、修二さんの体重が私の体にのしかかってきた。
…寝てるし。…重い。
修二さんのポケットを探って、部屋のカギを探してみたけど見つからず、
仕方なく私の部屋に運び、ベッドに寝かせた。
「全く」
私は修二さんの寝顔を見つめる。
仕事の時とは全く違う、無防備な顔。
なんだか可愛い・・・
「キャッ」
頬を突こうとした手を引っ張られた私は、修二さんの腕の中。
ありえない体勢に、体をジタバタ・・・
知ってか、知らずか、修二さんは私を抱きしめたまま、気持ちよさそうに寝ていた。
…お風呂もまだ入ってないのに・・・
一人、心の中でぼやく。
・・・まぁ、明日は仕事が休みだし、明日の朝、シャワーを浴びるか。
観念した私は、そのまま眠りについた。
・・・何やってるんだか。
社長と一夜を過ごすなんて、・・・ただ、一緒に寝ただけなんだけどね?
…外の雑音で目が覚めた。
そっと目を開けると、修二さんはまだ眠っている。
今なら抜けられるかな?…そっと腕を動かした。
「・・・ん」
「・・・」
・・・修二さんが起きてしまった。
「あれ…何で君が?」
すっとぼけた事を言い放った修二さん。
「・・・ここ、私の部屋なんですけど」
私は苦笑いするしかなかった。
「え・・・?!」
どうやら、気づいてくれたようだ。
「そろそろ帰ってもらえますか?…シャワーも浴びれていないので」
私の言葉に目を丸くした。
「なんで?」
・・・ちょっと殴ってやりたくなった。
…ダメダメ。
今幸せな時間を過ごせているのは、修二さんのおかげなわけで・・・
「修二さんが、一晩中離してくれませんでした」
「エ?…じゃあ、オレは君と?」
?!
「ち!違いますよ!!酔ってた修二さんの腕枕で眠っただけです」
私は慌てて誤解を解いた。
「・・・そういうこと」
ちょっと残念そうな顔をした修二さん。
…私は残念なんかじゃないんだけどね。
「ところでいつになったら、この腕離してくれますか?」
私は修二さんの腕を掴んだ。
「すみれは小さいから、スッポリ収まって、こうしてるとスッゲ―落ち着く」
「え、あの・・・」
そうじゃなくて・・・戸惑う私に、意地悪そうに笑った修二さん。
…完璧遊ばれてる。
「このまま、ヤッチャウ?」
「へ?!」
私の裏声に、思わず吹き出した修二さん。
「・・・」
真っ赤になって、何も言う言葉が見つからない私。
「冗談だよ。・・・ホントにスーツのままだな」
・・・だから、お風呂にも入れていないって、言ったでしょ?!
「しょうがない、解放してやるか。オレも仕事に行かなきゃならないし」
「エ、今日は、日曜日」
私の言葉に、クスッと笑った修二さん。
「社長に休みはない・・・でも。午後は空けておけよ?」
「え?」
「出かけるぞ」
「・・・どこへ?」
「鈍い奴だな。デートだよ」
「デ?!」
「わかった?」
優しい笑顔で頭を撫でられたら頷くしかなかった。
頷いた私に納得したのか、やっと腕を解いた修二さん。
ゆっくりと立ち上がり、私にウインクして、寝室を出ていった。
…大きな溜息をついた。
午後からはデート。
社内に知れ渡ったら、どんな目に遭うか、恐ろしくて考えたくない・・・
ゾッとした私は、気を取り直して、シャワーを浴びに・・・
シャワーを浴びている最中に、昨晩のことを思いだす。
女子社員が狙っているイケメン社長と・・・
こんな時に何を考えているんだか。
…だって抱きしめられてる腕が温かくて、気持ちよかったんだもん。
って!欲求不満か?!
最近彼氏いないし・・・
いかん、いかん・・・
考えるの止めておこう。
デートだと思うだけで、顔がニヤけるのは無視して・・・




