★修二side
飛行機が乱気流に遭い、到着時間が遅れた。…式に行くのは止めておけ。
そう言われてる気がした。
それでもオレは、教会に急いだ。
すみれのウエディングドレス姿を・・・
他の奴とならんでいる姿を、まともに見る事が出来るのか、正直不安だった。
・・・それでも君に会いに行く。
…教会のドアの前。
今は式の真っ最中だろうな。…オレは静かにドアを開けた。
すみれの後姿が見えた。…横に立っているのは、春也か・・・
拍手を受けながら、こちらに近寄ってきた二人。
・・・やっぱり、オレにはこんな事受け入れられない。
2人に足早に近寄った。
「「あ」」
2人が、オレに気づいた。
オレは黙ったまま、すみれの手を取り、教会を連れ出した。
会場は騒然とする。でも、オレにはそんな事、どうでもよかった。
「修二さん?!」
「・・・」
・・・お前を手に入れる為なら。
中庭に出たところで、
「修二さん、離してください。式が台無しじゃないですか?」
すみれの言葉で足を止めた。
「大路との結婚なんて、オレは認めないからな?」
「・・・」
「どこまでも追いかけるって言っただろう?」
「修二さん、あの・・」
「何も言わず、オレと日本に帰れ」
「…それは聞き捨てならないな」
「…春也」
俺達の後ろを追ってきた春也は、壁にもたれて煙草を吸っていた。
「人の式を邪魔して、花嫁を連れ出すなんて、オレが許さない」
「オレにはすみれが必要なんだ」
「「あ!!大事な商品が!!」」
すみれと春也が叫んだ。
「あれ、高いんですよ?!お店の人に怒られる・・・」
青い顔をしたすみれが呟いた。
「あ~ぁ、知らないぞ?」
言いながら春也は指輪を拾った。
…傷がないか、確認している。
「修二さん、話聞いてくれますか?」
溜息をついたすみれがオレを見た。
「春也さんも!修二さんに、何か変な言い方をしたんでしょ?!」
・・・?すみれが凄く怒ってる。
「…で?誰と誰が結婚したんですか?」
2人に質問を投げかけたすみれ。
「すみれと春也が・・・」
オレが真顔で呟けば、
「春也さんと結婚なんかしてません!」
・・・??
ウエディングドレスにタキシード。
教会に神父・・・
これが結婚式じゃなければ、他に何だって言うんだ?
「修二さん、教会にいたお客さんの格好みましたか?」
「・・・いや」
そんな所見てる余裕なんか。
「お客さんはすべて、私服でしたよ?」
「・・・え?」
「これは模擬挙式です」
「意味がよくわからないんだが?」
何がなんだかさっぱり・・・
「今度、春也さんの会社がブライダル部門を立ち上げたんです。その模擬挙式に、私と春也さんがモデルで出ただけなんです」
「何?!…春也、お前・・・」
驚きと怒りが入り混じった顔で、春也を見た。
「こうでもしないと、お前はすみれを取り返しに来ないと思ってね?・・・ったく。損な役回りだ。愛する人を、他の奴の為に、芝居なんかして・・・」
そう言った春也は中に入ろうと、背中を向けた。
「春也さん」
「すみれ…意地を張るのは、もう終わりにしろよ?すみれの我が儘は、そいつに聞いてもらえ」
背を向けたまま手を振った春也は、中に姿を消した。
取り残された二人。
「すみれ」
「…あの、私はこれで」
この期に及んでまだ逃げようと・・・あっさり捕まった。
「オレはすみれを愛してる。日本に一緒に帰ろう」
「・・・香華さんは?」
「あんな奴、クビにした」
「・・・え?」
「お前にした香華の自殺未遂は、すべて自作自演。お前が気にすることはもう何もない」
すみれはオレに背を向けたまま、
「私は、修二さんの傍に・・・いてもいいんですか?」
「当たり前だ」
「私、わがままになりますよ?」
「すみれの我が儘なんて可愛いもんだ」
…涙ですべてが歪んでいる。そんなすみれの瞳。
オレはすみれの背中を包み込むように抱きしめた。
「何があっても、オレの傍にいろ・・・もう、絶対に離さないからな」
「はい…愛してます・・・修二さん」
久しぶりのキスの味は、涙の味がして切なかった。
でも、それと同時に、幸せも溢れ出した。