★修二side
今日は、友人ポールの会社の創立記念パーテイー。
行かないわけにはいかなかった。
『ポール、おめでとう』
『ありがとう、修二』
その後、しばらく会話を楽しんだ。
『・・・そうだ。さっき、すみれを見たよ』
「え?」
『春也と一緒だった・・・君たちの中で何があったのかは聞かないが、これが、最後のチャンスなんじゃないのかな?』
そう言って微笑んだポールは、オレの肩を叩いて、その場を後にした。
アメリカに言ったとは聞いていた。・・・まさか、春也の所へ行っていたとは、予想外の事に驚きを隠せなかった。
2人は付き合っているのか?
すみれはもう、オレの事など、忘れてしまったのか…
オレは、会場中を探し回った。例え、そうだとしても、ただ、すみれに会いたい一心で。
「久しぶりだな、修二」
その声に振り返った。
「春也・・・すみれは?」
春也の横に、すみれの姿はなかった。
「今、オレの友人と、向こうで雑談中だ」
そう言って指差し先に、すみれの姿があった。
煌びやかなドレスを身にまとったすみれの姿に、一瞬見惚れてしまった。
・・・話がしたかった。
オレが歩き出そうとすると、春也がそれを止めた。
「もう、彼女に近づくな。どれだけすみれが傷ついたのか、知っているのか?」
「・・・」
返す言葉もなかった。
「そうだ…来月の第三日曜日。結婚式を挙げる」
「・・・なんて言ったんだ?」
「だから、結婚式を挙げると言ったんだ」
「…誰と?」
「もちろん、すみれとに決まってるだろ」
「…嘘だ」
「嘘をついてどうする。お前も出席してくれると、嬉しいんだが?」
「・・・そんなの許さない」
「お前が許さなくても、もう決まっている事だ。今更変更はない」
それだけ言った春也はすみれの方に、戻っていった。
春也を見るすみれの顔は、幸せそうに見えた。
オレだけなのか…
お前を愛しているのは…
パーテイーは続いていたが、オレは一足先に帰る事にした。日本に仕事を山ほど抱えているから。
でも、もう一度だけ、すみれの姿を見てから。
そんな思いで、会場を歩いていた。
・・・一人、シャンパングラスを抱え、外のテラスで涼んでいるすみれを見つけた。
見るだけだと思っていたのに、体は正直だった。
「・・・すみれ」
オレは愛おしい人の名を呼んだ。
振り返ったすみれは、目を見開いた。
「久しぶりだな」
「・・・そうですね」
「何で黙って会社を辞めた?」
「・・・すみません。せっかく社長の推薦で入社したのに」
申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんな事で怒っているんじゃない・・・ただ、何で大路だったんだ?」
「え?」
「大路じゃないと、ダメなのか?」
「・・・」
オレの質問に静かに頷いた。
それがすみれの答えなのか?
「俺じゃダメなのか?」
オレをすみれをギュッと抱きしめた。
「・・・修二さん」
「お前以外、オレにはいない…こんなに愛さる奴なんて、どこにも」
…オレのスーツが濡れた。
…すみれが泣いてる。
「・・・ごめんなさい」
謝るな。謝るくらいなら、オレの傍にいてくれ・・・
オレの腕を、すみれから誰かが引き離した。
「すみれに近づくなと言ったはずだ」
春也がオレを睨んだ。
…また、すみれを苦しめているのか?
…オレの愛は、苦しめるだけなのか?
すみれの肩を抱いた春也は、オレを横目に、会場を出ていった。
オレには、すみれを幸せにしてやる事が、出来ないのか?
…オレは溜息をつき、会場を出た。
ホテルに帰り、ソファーに座って、溜息をついた。
まだ、すみれを抱きしめた感触も、すみれの香水の香りも、スーツに付いたまま・・・
オレは無意識に、スーツを抱きしめた。
この腕の中に、彼女を取り戻したい。
それは、オレの我が儘でしかないのか?自問自答の日々が、結婚式まじかまで続いた。
正直、こんな自分に驚いている。一人の女性を、ここまで引きずったのは、初めてだったから・・・付き合った女は、たくさんいる。でも、ほんのひと時の遊びにすぎなかった。
・・・すみれ。お前は幸せか?
オレがいなくても、やっていけるのか?
すみれの笑った顔、泣いた顔、怒った顔、どれも忘れられない。
結婚式を見れば、この想いを、断ち切る事が出来るのか・・・
…オレは、アメリカへ行く事を決めた。
自分の思いを断ち切る為に・・・