★春也side
午後二時。言われた時間に空港にきたオレは、すみれの姿を探した。
・・・ゲートからすみれの姿が見えた。
すみれもオレに気付いて微笑んだ。
今まで見た事無いすみれの顔。よほど辛い事があったのか、見てるだけですぐにわかった。
オレは黙って、すみれを抱きしめた。
…すみれは咳を切ったように、泣き始めた。
車の中でも、ずっと泣き続けていたすみれ。オレはすみれを抱きしめ続けた。
…着いたところは、オレの仮住まいのマンション。…そっとソファーに座らせた。
しばらくして、ようやく泣き止んだ。
まるで、捨てられた子犬のように、見えた。
「少しは落ち着いたか?」
オレの言葉に静かに頷いた。
「この家を使えよ」
「・・・そんなこと」
「ここでじっくりと考えて、すみれはこれからどうしたいのか、…今は、時間が必要みたいだ」
「…春也さん」
「ん?」
「春也さんの会社で雇ってもらえませんか?」
「仕事なんかできる状況じゃないだろう?」
「どんな雑用でもいいんです…がむしゃらに働きたいんです」
「でもな」
「失敗はしませんから」
溜息をついたオレは、すみれの手を取った。
「・・・わかった。丁度今、進行中のプロジェクトがある。それがドイツの会社で、通訳を探してたんだ…それで良ければ、やってみるか?」
「是非、お願いします」
すみれはそう言って頭を下げた。
「今日と明日はゆっくり休め。明後日から、ここに迎えに来るから、頼むよ」
「はい、わかりました」
すみれが微笑んだ。
こんなになるまですみれを傷つけたのは修二なのか?
…それともほかに何か?
・・・しばらくここにいれば、すみれの傷は癒されるのだろうか。
オレに、すみれの傷を癒すことが出来れば、それに越したことはないのだが。
…ただは今、そっと彼女を見守る他、オレに出来る事はなかった・・・