8.逃避行?!
まだ誰もいない、早朝の会社に私は向かった。
デスクの整理をして、引く継いでもらう書類を整理した。
間もなくして、藤田さんがやってきた。
「こんな朝早くに、オレに何の用だ?」
「すみません。あのこの書類、藤田さんに引き継いでもらいたくて」
「会社を、辞めてしまうような言い方、だな?」
「その通りです」
私はそう言って微笑んだ。
藤田さんは驚いた顔をしている。
「なぜ、急に?」
「藤田さん、香華さんが、社長と結ばれても、貴方はそれでいいですか?」
「・・・彼女に幸せが、オレの幸せだ」
「…私もそうなんです」
「まさか、社長の事を?」
私は頷いて見せた。
「社長には?」
「最後の我が儘で、好きだと言ってしまいました。でも、私がここを辞める事は知りません。だから、この辞表を。社長に、渡してもらえますか?」
私が書類と一緒に辞表を手渡した。
「辞めてどこへ?」
「アメリカへ」
「・・・遠いな」
「それだけ離れれば、すべて忘れられるような気がして」
「…無理だけはするなよ」
「・・・はい」
「…分かった、社長が帰ってきたら、渡しておくよ」
「すみません、お願いします。それと…洋子さんに、何も言わずに辞めてしまって、ごめんなさいと伝えてください」
「わかった」
「もう、行きますね?皆が出社する前に、出ていきたいので」
そう言って深々と頭を下げた。
家に帰った私は、家のモノをすべて処分して、キャリーバックにつめられるだけ詰めて、鍵をかけた。
部屋のカギをポストに入れて、空港へ向かった。
「・・・もしもし」
「…なん時の飛行機だ?」
「・・・そっちに着くのは、明日の午後2時です」
「わかった・・・気をつけて」
「ありがとうございます…私の我が儘を聞いてくれて」
「すみれの我が儘なんて、可愛いもんだ」
「そうですね、春也さんの我が儘に比べれば」
「…思ったより元気そうだな」
「…そうでもないですよ」
さようなら。
・・・修二さん。
私はアメリカ行きの飛行機に乗った。