7.いじめの黒幕?!
最近、社内でのいじめがすっかり減っていた。みんな、諦めてくれたのか。
そんな考えが脳裏をかすめた。
でも、そんなに簡単な事じゃなかった。
いつ置かれたのか?秘書室には、私たち秘書海外の人間は入れないはず、それなのに、白い封筒に手紙が一枚、私のデスクに置かれたいた。
『午後7時、屋上で』
差出人もわからない。一体誰が私を待っているのか?大きな不安を抱えつつ、指定された場所に、時間ピッタリにそこに向かった。
フェンス越しに外を見ていた。
「来てくれたのね」
その言葉に振り返った私は絶句した。
「香華さん、手紙は貴女が?」
私の質問にゆっくり頷いた。
「貴女に、どうしても話したい事があって」
「なんでしょうか?」
しばしの沈黙。
「・・・香華さん?」
「修二を諦めて」
私は言葉を失った。
「岩下さんさえ現れなければ、修二はずっと、私だけのモノだった」
…切ない目で、遠くを見ながら、喋り続ける香華さん。
「岩下さん、どんなことをしても、へっちゃらなんですもの・・・
ここを辞めてくれるって期待したけど、無理みたいだから」
「…今までの苛めって」
「苛めの黒幕は、私。他の女子社員達を上手く使って」
「・・・」
今までの事、全部香華さんの指示だった?!
「貴女が修二を諦めないなら・・・」
香華さんは、フェンスをよじ登った。
「私生きていても仕方がない。修二のいない人生なんて・・・」
「香華さん!!」
「来ないで!」
涙を流す香華さん、…私はどうすればいい?
「貴女はとってもいい人。貴女が悪いわけじゃない・・・さようなら」
こんな事で死んでほしくない。私さえ・・・
「香華さん!私、ここを辞めますから。…社長からも、ずっと遠い場所に、消えるから、死なないでください!」
「・・・」
少しずつ近寄った私は、香華さんをそっと下ろした。
「私のせいで、簡単に命を捨てないでください」
「…私」
「え?」
「修二の傍に、いてもいいの?」
その言葉に頷いた私は、
「だからこんなこともうやめてくださいね?」
そう言って念を押した。
香華さんは静かに頷いた。
「もう、遅いですから、帰ってください」
私の言葉で、屋上を去った香華さん。
…これで、よかったんだよね?
確かにいじめの黒幕だったとしても、あんなに良くしてくれた香華さん。よかったと、納得するしかなかった。
・・・修二さん、ごめんなさい。
泣きながら、小さな声で、何度もつぶやいた。
『何があっても傍にいろ』
その約束は、守れそうにありません。
・・・そんな時、突然鳴りだした携帯。
「もしもし」
「あんまり、元気そうじゃないな?」
「どうしたんですか、…春也さん」
電話の主は、春也さんだった。
「急に声が聞きたくなって・・・」
「春也さん」
「・・・なに?」
「私、アメリカへ行ってもいいですか?」
「それは大歓迎だけど、・・・修二はこの事知ってるのか?」
「・・・知りません」
「修二と何かあったのか?」
「いいえ・・・何も聞かず、そこへ行かせてください」
しばらく沈黙が続いた。
「・・・わかった。こっちに来る日が決まったら、連絡くれよ・・・いいな?」
「わかりました…無理を言ってすみません」
「オレの事は気にしなくていい」
携帯を切った私は、あるところに向かった。
チャイムを鳴らすと、すぐに出てきた。
「どうした?こんな時間に?」
「すみません」
「いや、とにかく中に入れ、びしょ濡れじゃないか?傘、持ってなかったのか?」
「はい」
急な通り雨で、びしょ濡れになっていた私。
涙を見られずに済んだのは幸いだった。
私をバスタオルにくるんだ修二さん。
「着替え貸すから、着替えてこい」
そう言って服を手渡した。
着替えた私は、修二さんの香りに包まれていた。
「どうしたんだよ、いつもの元気がないみたいだけど?」
私は修二さんに抱きついた。
「すみれ?」
「…私を抱いてください」
「え?」
「私は、修二さんの事を、好き…いいえ、愛しています」
「・・・本気で言っているのか?」
「こんな事、冗談で言えません」
最初で最後の告白。・・・聞いてください。
私を見つめた修二さんは、そっと私を抱きあげ、寝室へ向かった。
そしてベッドに私を下ろした。
「すみれのその言葉を、どれだけ待っていたか知ってるか?」
「・・・すみません、言うつもりはなかったんですけど」
その言葉にクスッと笑った修二さん。
「何度でも聞かせてくれよ。その言葉があればオレは、頑張れる」
「ずっと・・・ずっと、愛しています」
私たちは、何度も何度も、キスをした。
・・・でも。
「・・・修二さん?」
修二さんの動きが、私を抱きしめたまま止まった。
「今は、その言葉が聞けただけで十分だ。だから、今夜は、抱きしめるだけにしておくよ」
そう言って微笑んだ修二さん。嬉しいけど、最後に抱いてくれると思っていた私は、切ない気持ちで一杯だった。
こんなに優しくて、こんなに愛おしい貴方を置いて、遠くに行く私を許してください。
私は、修二さんの胸に顔を埋めた。
「…すみれ、何があった?なぜ、泣くんだ?」
「修二さんが、好き過ぎて」
それ以上は何も言えなかった。
朝、目が覚めると、修二さんの姿がなかった。
リビングに向かった私は、置手紙を見つけた。
『おはよう、昨日は愛してくれてると言ってくれてありがとう。
俺も心からすみれを愛してる。しばらく出張でいないが、帰ってきたら、
もう一度、聞かせてくれ』
私はその手紙を抱きしめた。
…貴方が帰ってくるころには、私は、いない。