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出入口は梓からすれば正面にあるが、捺と裕香は背を向ける位置だから二人は梓が驚いている理由にまだ気付いていなかった。

けれど、入ってきた彼もこちらに気付いたようで、一度軽く首を傾げた。

いつもと違って洋服だし、髪も黒いけれどその独特な雰囲気はそのままだ。


あぁ、どうしよう。バッチリ目が合っちゃった。

お願いだからそのまま気付かなかったことにして行って下さい……!


と念じて見つめてみたが、その甲斐空しく彼はこちらにやって来てしまう。


「ああ、やはり梓だ。こんにちは」


いつもながらに表情に乏しい彼だが、元々柔和な顔立ちなので仏頂面に見えないどころか微笑んでさえいるように見えるのだから美人は卑怯だ。


「こんにちは。昼間に会うのは初めてですね。よかったら一緒にお茶しませんか?この二人の紹介もしたいですし」

「うん?……そうだな、お邪魔させてもらおう」


開き直ってそう誘ってみると、彼は捺と裕香に視線を向けてから空いていた梓の隣の席に収まった。


「えっと、じゃあまずこっちの紹介から」


すっと向かいの二人の方に手を向ける。


「親友の松上捺と、淡海裕香です。二人とも小学校からの付き合いで、家族みたいなものです」


正直両親と過ごした時間よりも彼女たちと過ごした時間の方が多いと思う。

家族ぐるみの付き合いだから余計に友達というより姉妹くらいの気持ちだ。


「で。この人がさっき話してた、迷子のところを助けてくれたご近所さんのひさかきしろがねさん。その他のことは私は知らない」


面食いな彼女たちはしばらく彼の容姿に魅入っていたが、我に返ると緊張気味に挨拶を済ませた。

それから色々話している内にあっさりと打ち解けてしまった。


「で、ひーさんは梓のことが好きなのかっ?」


くっと身を乗り出して捺が問うたことがとんでもなかったので梓は飲んでいた紅茶をこぼしかけた。

ちなみに「ひーさん」というのは捺が付けた彼のあだ名だ。

一方、面と向かって聞かれた白銀は平然としたものだった。ふっと表情を和らげて事も無げに答える。


「無論、好いておるよ」


彼の放った低音美声が紡いだ言葉に、頭が「理解できません」と白旗をあげて思考を放棄した。

手から力が抜けて、カップを落としかたけたがそうさせた張本人が何とかしてくれた。

それからよしよしとあやすように頭を撫でられる。


「そなたはほんに自分事で色事となると苦手なのだな。どうせ私が来る前に何ぞいらんことを聞いておったのだろう。案ずるでない、私が言うたのはとりあえずそちらの方面ではない」

「いらんことって……」

「あはは~。なんでバレたんだろうねぇ」

「本当にしておったのか。まったく……梓。はよう戻って来ぬか」


両頬を大きな手で包み込まれて正面から見据えられる。

鳶色の瞳と視線が交差してようやく我に返った。


「あ、すみません。魂飛んでました」

「うん。お帰り」


手が離れていって、まだ完全に現実感を取り戻せずに何度か瞬く。

再度頭を撫でられて、子供扱いされているようで少し面白くないが不思議と嫌ではない。


「あーちゃんが大人しく撫でられてる……」


青天の霹靂とばかりに驚愕の表情で裕香が呟く。

その隣で捺も驚いた顔で頷く。


「さっきのは魂飛んでたからノーカンでも、これは……。明日は雪かもな」


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