弐
始業式の3日前。
梓は小学校からの親友である淡海裕香と松上捺の3人でバイト先のカフェ・Cassisにいた。
「ほー。それでその人といい仲になったんだな?そうかそうか、梓もついに恋を知るときが来たんだな。よきかなぁ」
最後の一言は某ジブリ 作品の川の神様風に言って、チョコレートパフェをつついているのは捺の方。
短く切った髪や健康そうな小麦色の肌からも活発なのがうかがえる。
女子にしては背が高く、さっぱりした性格なんかも合わさってその辺の男子よりも格好いい彼女だが中身はちゃんと女の子だ。
そのとなりでにこにこと楽しそうに話を聞きながらガトーショコラに舌鼓を打っているのは裕香だ。
彼女はイギリス人の母を持つハーフで、肌は白く金に近い栗色の癖の強い髪と珍しい紫瞳の可愛らしい容姿をしている。
「よかったね、あーちゃん。因みにどんな人なの?」
先日の迷子になったときのことを話したのだが、予想外の反応である。
「いや、ね。別にどういう関係にもなってないから。たまにお茶するくらいで……いいひとだよ。あと綺麗なひとだと思う。ちょっと変わってるけど」
「綺麗って、格好いいじゃなくてか?」
確かに男の人に綺麗と言うのは変な気もするが、彼の場合はその方が合っていると思う。
「会えば納得すると思うよ」
などと迂闊に言ってしまったのは間違いだった。
さっそく会わせろと言われることくらい分かったはずなのに。
確かに彼とお茶することがあるとはいえ、初めて会った時間が遅かったからそれからも夜にしかあっていない。
明るいうちに行って会えるかは分からない。
「夜にしか会わんだと?けしからんな。いかがわしいぞ」
「なっちゃん、気持ちは分かるけど」
「だって、夜に二人きりだろう?こんな可愛い子と二人きりで変な気起こさないはずがないだろ。男なら!」
「確かに、あーちゃんは美人だもんねー。自覚ないけど。それにちゃんと紹介される前にウチの子が傷物にされちゃうのは許せないよねぇ」
「なっ、そうだろ?というわけだから早くウチらに会わせるんだ、梓」
身を乗り出して迫られて降参の印に小さく両手を挙げた。
仕方なく応じようと口を開いたとき、カランという音と一緒にドアが開いた。
何気なくそちらに目をやった梓は言葉をなくした。