第1話~拾っちゃいました~
やぁ、初めましてだな、諸君。
俺の名前は九条輝輝。まぁ、どこにでもいるような高校生だ。
え?名前の漢字?……うるせぇな。笑いたきゃ笑え。
とにかく、だ。俺は今、とんでもなくピンチな状況下に置かれている。
事件が発生しているのは、白と黒を基調とした俺の部屋。
んで原因は、ベッドの上で俺を挟んでにらみ合っている、二人の美少女。
一人は俺の義妹の九条彩音。こいつは常に俺にベタベタくっついているため、異常はない。『異常』(アブノーマル)は、もう一人の美少女であった。
可愛らしい猫耳に、肩まで伸びた茶色い髪に、大きな緑色の瞳。そして、彼女を包む赤い浴衣。誰がどう見ても、美少女コスプレイヤーだと思うだろう。
そんな彼女に、俺が言いたいことは一つ。
誰だ、こいつ。
♂ ♀ ♂ ♀
時間は、昨日の夜まで遡る。
高校生の分際で『snake match』なんてロックバンドを組んじまっている俺にとって、この帰宅時間は普通であった。むしろ、ちょっと早いくらいだ。
いつも放課後になると、学校の音楽室を借りて練習している。
まぁ、そんなことはどうでもいい。異変の始まりは、俺の帰宅途中にあるのだから。
8時に練習を切り上げると、俺は無駄に重いギターを背負いながら、無駄に長い通学路を歩いていた。
中間地点である商店街を抜けるとメンバーと別れ、一人になってしまうため、俺はwalkmanで好きなバンドの音楽を聴きながら、少し急ぎ足で自宅へと向かっていた。
向かっていた、のだが。
ふいに、小さな声が耳に届いた。
それは、声というより鳴き声。普通なら気が付かないが、それは足元から聞こえたため、つい足を止めてしまった。
「……なんだ?」
木製の、犬の尿の後がある電柱。小学生のころ、ここに貼られていたデリヘルの広告を剥がして遊んでたりした。そんな電柱にくっつくように、大きめの段ボール箱が一つ、放置されていた。
先ほどの鳴き声は、どうやらその中から聞こえた様だ。
「……。」
そしてその中の物と、『目が合った』。
何だろう。気になる。めちゃくちゃ気になる。
開いたら耐えられなくなることは確実なのだ。なんせ俺は、高校一のムツゴロウとして有名なのだから。
ダメだ。そう思いつつも、手は段ボールの蓋へと延びていく。
そして……。
「ふにゃっ!」
中にいたのは、まだ子供の黒猫。大きな瞳が特徴的だ。
もうすぐ冬だから寒いのだろうか。プルプルと小さく震えている。
そしてその首に巻かれている首輪に、小さなメモ用紙が挟まっていた。
「……ん?」
それに気づいて、噛まれないように気を点けながら首輪に手を伸ばし、メモ用紙を抜き取る。
それは、小さな花柄のメモ用紙だった。そこに書かれた丸い文字で、それがあまり歳の行っていない少女であることが想像できる。
家に連れて行ったところ、親に捨ててこいとでも言われたのだろう。
『拾ってください。』
そう書かれた文字の周りに、乾きかけの涙の後があった。
♂ ♀ ♂ ♀
「ただいま。」
「お帰り、お兄ちゃんっ!」
家のドアを開けると、いつも通り、義妹の熱いハグが疲れた俺を出迎える。
ここは日本だぞ。なんで出迎えがアメリカンスタイルなんだ。
とにかくハグしようとした彩音だが、俺が抱えている段ボールを見て急停止した。
「ただいま、彩音。突然だが……。」
呆気にとられている彩音をチラリと見ながら、玄関に段ボール箱を置く。するとそこから、先程の子猫が飛び出してきた。
「ふにゃ!?猫!?」
「ふにぃっ!」
同じような声を上げながら、子猫が彩音の顔にダイブ。彩音は驚きながらも、子猫をナイスキャッチ。
「家族が増えたぞ。」
軽くおどけながら、俺は背中のギターを下ろした。
♂ ♀ ♂ ♀
「で、この子、飼うの?」
黒猫を膝に載せながら、彩音が首をかしげて俺を見る。
やっべ、萌えた。
「ああ。もちろん。」
ここまできて捨てる訳にもいかんだろう。
それに、俺が高校に行っている間、先に下校した彩音に寂しい思いをさせないように連れてきたのだ。
幼いころに両親を亡くした彩音は、俺の家に引き取られてからも、毎晩泣いていた。
寂しかったらしい。俺が中学2年に上がる日の夜、彩音は一晩を俺の胸の中で泣き明かした。
それからと言うものの、彩音は俺にべったりだ。
「やった!ね、名前は?」
……あ。そういえば、忘れていた。
「……ジョニー。」
「女の子だよ、この子。」
……そうかい。
え?仮にオスでもネーミングセンスがないって?放っとけよ。息子に『輝輝』(てるき)なんて名前つける親の血を受け継いでるんだぞ、こっちは。お蔭で毎年、クラスの担任に『キキ』と読み間違えられる。
別に俺は魔女でも宅急便でもないのだが。
「お前がつけろ。俺にはなにも思いつかん。」
一日の疲れを癒すイチゴ牛乳を飲みながら、彩音に伝える。
すると彩音は嬉々とした表情で、猫の名前を考え始めた。
「んと、んとねぇ……。」
必死に考えている様子。無難にタマとかで良いと思うのだが。




