白銀の騎士と漆黒の姫
「この国はいずれ滅びます」
幽閉塔へ続く城壁の上。
漆黒の髪を風に遊ばせながら、ノワール=スウルスは静かに呟いた。
白銀の騎士ブラン=ケオトルトは、その言葉をにわかには信じられず、思わず眼下に視線を落とす。
そこに広がるのは、グリーディオラ帝国。
帝都は華やぎ、活気に満ちていた。
至るところに張り巡らされた水路を、客や荷を積んだゴンドラが忙しなく行き交う。
この大陸では『金』よりも『水』が尊ばれる。
水こそが『富の象徴』であり、繁栄の証だった。
そして、これほどまでの水路を擁する国は、グリーディオラ帝国ただ一つである。
「どんなに栄華を極めようと、所詮は人が作ったもの。…滅びる定めからは逃れられません」
動揺を隠せぬブランを見据え、ノワールは淡々と言葉を継ぐ。
「それが略奪による栄華なら、なおさら。いずれまた、人の手によって滅ぼされるでしょう」
「…口を慎んだほうがいい」
ブランが低く遮った。
「貴女は、自らの立場をわかっておいでか?」
「ええ、もちろんです」
揺るぎのない澄んだ青い瞳が、まっすぐに彼を射抜く。
その毅然とした佇まいに、ブランは不覚にも息を詰めた。
【白銀の騎士】
その名は周辺諸国に轟いている。
返り血一つ浴びることなく敵を斬り伏せる機敏さと卓越した剣術。
スウルス国との戦いは、彼の名声を盤石にした。
傷一つない白銀の鎧で凱旋したその姿に、帝国民は敬畏の眼差しを向けた。
その英雄が今、亡国の姫に気圧されている。
それほどまでに、ノワールの気高さは揺るがなかった。
「――私は敗国の王女。今の言葉が“あなたの主人”の耳に入れば、私は“恩知らずな女”として処断されるのでしょう?」
皮肉を帯びた声音に、ブランは頷く。
「…そうだ。だから言葉を選んだほうが身のためだ」
「私が死ぬこと…自分の命が惜しいと思っているとでも?」
その瞬間、ノワールの瞳に初めて激情が灯った。
「あの日――祖国が焼かれた、あの時に…私の心はとうに死にました」
その言葉を、ブランは直視できなかった。
──── ────
赤々と燃える、スウルス王都。
金目の物は奪われ、逃げ惑う民は次々と斬り捨てられる。
絶え間なく響く悲鳴の中を、白銀の騎士は駆け抜ける。
ブランは、皇帝から“ある勅令”を受けていた。
目的の石造りの建物に辿り着き、馬を繋ぐ。
入口のすぐ先には、地下へ続く広い石階段があった。
ブランは足音を殺し、慎重に降りていく。
最奥には、見上げるほど巨大な石扉がそびえ立っていた。
警戒しながら、ゆっくりと押し開ける。
『ここが…水の神殿……』
ブランは、思わず息を吞んだ。
目の前に広がる、闇に沈んだ地下空間。
だが、一面の水面が淡く輝いている。
水中には発光する小さな浮遊生物が漂っていた。
それが幻想的な光を放っているのだ。
ブランは、前方へ視線を向ける。
中央へと続く細い石畳の道。
その先にある台座には、古びた杯が鎮座していた。
『あれが…聖杯…』
小さく呟き、一歩踏み出した瞬間。
風を裂く音がし、踏み出そうとした石床に矢が突き刺さった。
『!』
ブランは即座に飛び退き、扉の陰に身を隠す。
呼吸を整え、広間内の様子を窺う。
暗がりに目が慣れていくと、上部のせり出した壁に、武器を構える弓兵の姿が見えた。
(さて…どうするか)
これでは、正面突破は難しい。
『……兄様?』
その時、背後から若い女の声がした。
『!』
反射的に真横に振った剣先が、女の喉元をかすめた。
漆黒の髪の一房が、はらりと落ちる。
澄んだ青い瞳が大きく見開く。
ブランは背後に回り込み、その首に片腕を絡めた。
『くっ…』
背後から首を絞め上げられた女が、必死で白銀の籠手に爪を立てる。
『貴様は、誰だ』
締め上げる腕の力を少し抜き、より一層低い声で問う。
女はなにも答えない。
『……このままへし折られてもいいのか?』
本気の言葉に、女は息を呑む。
『ノワール様!!』
その時、第三者の声が割り込んだ。
思わず舌打ちし、ブランは声の方へと振り向く。
そこには、横穴から現れた老人の姿があった。
(壁ではなく、隠し通路だったのか。…いや、それよりも…)
『ノワール』
その名に、ブランは気づく。
『スウルス国の姫君か』
女は明らかに動揺した。
その後、ノワールを盾に弓隊を制圧し、ブランは聖杯を手に入れた。
――こうして、運さえ味方につけた白銀の騎士は、さらなる栄光を得た。
『よくやった、ブラン。この聖杯で帝国は再び潤う!』
皇帝の称賛は、凱旋したばかりの彼の胸に届くことはなかった。
(あの戦いに正義はなかった。無抵抗な他国への侵略と略奪…そして殺戮だけだった…)
──── ────
無抵抗なスウルスの民を殺した。
投降しようとした者の首をはねた。
『なぜだ…我々が何をしたというのだ…?』
『痛い…痛いよ』
『抵抗はしない!だから殺さないで!!』
嘆き、悲しみ、もがき。
スウルスの死者たちが、ブランの身体を沈めようと纏わりつく。
「っ!」
ブランは飛び起きた。
――あの戦いの後から、ブランは悪夢に魘されるようになった。
「――何か、望むものは?」
ノワールは首を小さく振る。
そして椅子に腰掛けながら、小窓から外をじっと眺め始めた。
食事に手をつけた様子はない。
給仕の女を見ると、静かに首を振った。
「なぜ、ここへ来るのですか?」
ノワールの視線は、窓の外に向けられたままだ。
「あなたに……死なれては困る」
「ああ、聖杯のために、私は生かされているのでしたね」
生気のない眼差しを向けながら、ノワールは乾いた声音で言う。
聖杯はスウルス王家のみが『その力』を引き出せる。
大陸は、深刻な水不足にあった。
数年間、雨が地上を潤すことはなく、大陸中の至るところの水場が干上がった。
乾き切った大地では、作物が育たず、人々は飢饉に苦しんだ。
唯一、聖杯を持つ古い民族が統治する小国――『スウルス国』を除いて。
スウルス国は聖杯を独占することはなく、聖杯の力を持って、困窮する他国へ無償で水を分け与えた。
だが、グリーディオラ皇帝だけは、独占を望んだ。
『スウルスの王は、水の配当を打ち切ろうとしている!!』
嘘の情報が流れ、それを信じた各国は、激しく動揺した。
『スウルスの民が、聖杯を独り占めしようとしている!』
『なんとしても阻止しなくては!!』
波紋は瞬く間に広がり、国同士の聖杯を奪う戦いが始まった。
そして戦いの末、聖杯を勝ち取ったのはグリーディオラ帝国だった。
(……あの戦いに正義などなかった。独占力に駆られた、只の暴力だ。スウルスの民の慈悲の心を踏みにじった。これは彼らへの冒涜だ)
今の彼女には、かつての威厳はない。
その姿を、ブランは直視できなかった。
『本当に、彼女の心は死んでしまったのかもしれない』
『そうさせたのは一体…誰だ?』
静かに責め立てる、姿なき亡霊の声。
(違うんだ…私は…!)
ブランは苦悶の表情を隠すように、片手で顔を覆う。
自分が人質に取られたことで、大切な聖杯を奪われた。
ノワールは、自分自身をとても恨んだことだろう。
兄だと期待し、隠し通路から出てきた彼女。
敵兵である自分の姿を見て、どんなに絶望したことだろうか。
「………」
ブランは意を決して、ノワールの前で片膝を折った。
「…何を、しているのですか」
その行動に、ノワールは疲れ切った顔のまま眉を顰める。
「私は貴女に償わなければならない……」
ブランは片膝をついたまま、彼女を真っすぐ見つめる。
「何でも言うことを聞く。――貴女が望むなら…私のこの命を喜んで差し出す」
「何を…言っているの…?」
「私は本気だ。…この剣で私を殺してくれてもいい」
剣を差し出す。
「そんなことをして…何になるの?」
怒りに震えた声。
「貴方が死んだところで――父も、兄も、民たちも! 生き返るわけではないわ!」
立ち上がり、ノワールは涙を滲ませ叫ぶ。
「何でもするなら、皆を“生き返らせて”よ!」
ブランは沈黙するしかなかった。
「……ほら、できないでしょ?」
力なく、再び椅子に腰を下ろす。
「もう…いい。私の前から“消えて”」
ブランは、黙ってその願いに従った。
――― ―――
「ノワールを処刑する…?」
グリーディオラ皇帝の言葉に、ブランは一瞬、息を呑んだ。
「ああ」
皇帝は当然のように頷く。
「しかし……彼女が死ねば、聖杯の力は――」
「それがな。あの女がおらずとも済む術を見つけたのだ」
皇帝は得意げに笑う。
「なあ、そうであろう?」
「左様でございます、陛下」
隣に控えていた男が、恭しく胸に手を当てて答えた。
「貴殿は…?」
ブランは静かに、その男を見据える。
「アッシュと申します。かつては、スウルス大神殿にて神官長を務めておりました」
(……ノワール以外にも、生き残りがいたのか…)
「こやつは禁書の中より、王族の血筋いなくとも聖杯の扱う術を見出したのだ。もはや、あの女を生かしておく必要はない!!」
皇帝が高らかに笑う。
皇帝は恐れていた。
聖杯を操れるノワールが、いずれ民に“聖女”と祭り上げられ、自分の地位を脅かす存在になることを。
税を重く課し、周辺国を蹂躙して膨張してきた帝国。
皇帝は『報復』を何よりも恐れていた。
――王族が不要と分かれば、ノワールはただの囚人。
高笑いする主を前に、ブランは拳を強く握り締めた。
爪が食い込み、血が滲むまで――。
――― ―――
「なぜ、陛下に仕えている? お前にとって陛下は…」
皇帝が退いた直後、ブランはアッシュを問い詰める。
アッシュは静かに人差し指を自身の唇へ添えた。
「お静かに。それ以上は不敬罪にございますよ」
ブランは押し黙る。
「まぁ…命の保証と引き換えに、情報を差し出したまで」
口元は薄く笑みを浮かべているが、その目は冷え切っていた。
「ときに…ノワール様は、お変わりなく?」
その問いに、ブランはゆるく首を振る。
「分からない。彼女に“消えよ”と言われてからは、足を運んでいない…」
ブランは経緯を語った。
事情を聞き終えたアッシュは、小さく頷く。
「それで?…貴方はこのままノワール様の言葉に従うと?」
「それが、彼女の望みだ」
アッシュは顎に手を当て、しばし思案する。
「ならば、その誓い、破っていただくほかありませんな」
「……どういう意味だ?」
アッシュは、わずかに口端を上げた。
――― ―――
「アッシュ。他に誰もおらぬのか?」
「ええ、陛下と私のみにございます」
誰もいない部屋を怪訝そうに見渡す、皇帝。
「このことは、他言無用の話ゆえ」
「む、そうだな。して、一体どうすれば――」
言いかけた瞬間、鋭い衝撃を胸に受けた。
何が起きたのか一瞬では分からず、皇帝は緩慢な動きで、自身の胸を見下ろす。
背中から己の胸を貫く、剣先。
上等な服に、濃い赤が徐々に濡れ広がっていく。
「アッ…シュ。これは…」
血に触れ、皇帝は背後にいる男へ問いかけようとした。
だが、剣はさらに深く押し込まれる。
堪えきれず、皇帝は血を吐く。
そして自身が作った血溜まりの上へ、両膝を突いた。
「そのような術など、御座いませんよ」
倒れ伏す皇帝の背を踏みつけ、アッシュは剣を引き抜いた。
そして、剣身についた血をひと振りで払い、鞘に収める。
「貴様…余を…騙し…」
「…先に欺いたのは、貴様の方だろ?」
低く、冷たい声。
「……貴様は…誰…だ……」
息も絶え絶えになりながら、目一杯に叫ぶ。
鬱陶しい前髪を乱暴にかき上げ、男は告げた。
「俺はスウルス第一王子、アシュベルトだ」
「…ばか…な」
「配下には、“死んだ”と聞かされていたものな。だが貴様は、自身のその目で、俺の死体を確かめてみたのか?」
戦いの最中、皇帝は自国の城から一度も出たことがない。
あの戦火を、あの悲惨さを、この男は何も知らない。
“沈黙”。
それが、答えだった。
アシュベルトは、颯爽とその場から立ち去った。
――― ―――
『…お待ちください!……ぐっ』
制止する兵の声が途切れ、重い音が漏れ聞こえた。
軋みながら、鉄扉がゆっくりと開かれる。
「…ノワール」
名を呼び、片膝を折るブラン。
「ブラン…お願いがあります」
ノワールは消え入りそうな掠れた声で言う。
「私を、殺してください」
ブランは目を見開いた。
椅子から崩れ落ちるように石床に座り込むと、ノワールはその胸元に縋った。
「もう疲れました。…皆が責め立てるのです。お前のせいだ…お前のせいで…我々は死んだ……と」
「違う!」
ブランは強く否定する。
彼女の両肩を掴み、強い口調で諭した。
「貴女は悪くない。 絶対に違う!私のせいだ…貴女から聖杯を奪ったのは、この私なんだ…!」
ブランは、下唇を噛み締めながら深く俯いた。
「一体…誰が貴女を恨むだろうか」
ノワールは涙を滲ませた。
「そうだ。貴女は悪くない…なにも悪くないんだ」
しばらくして、石畳を叩く足音が複数、慌ただしく近づいてきた。
「…ノワール、行こう」
ブランは低く告げ、彼女を片腕で抱き上げる。
聖杯を奪ったあの日も、気を失った彼女を抱えた。
だが今は、あの時よりも驚くほど軽い。
「どこ…へ?」
戸惑うノワールに、ブランは薄く微笑んだ。
そして、すぐ表情を引き締めると、彼女を抱いたまま、剣を振り抜き、鞘を払う。
カラン。
鞘が石床に軽やかな音を立てて転がった。
同時に、数名の兵が部屋に雪崩れ込んでくる。
「ブラン=ケオトルト! 貴様を陛下殺しの反逆者として拘束する! 大人しく投降せよ!」
突き出した剣先が、一斉に二人へ向けられた。
ノワールは身を竦ませ、ブランの首に縋りつく。
ブランは彼女を抱く腕に力を込め、静かに言い放った。
「断る!」
不敵な笑み。
この状況下でも崩れぬ余裕に、兵士がわずかに足を引く。
「ノワール姫をお守りする。それこそが、白銀の騎士…このブラン=ケオトルトの使命!!そう心得よ!」
ブランは腰を落とし、踏み出す脚に力を溜める。
「――押し通る。死にたくなかったら、そこを退け!」
気迫が空気を裂く。
たじろぐ兵に向かって、ブラン=ケオトルトは突進した。
――― ―――
「…はっ、…はっ」
建物の影に身を潜め、ブランは荒い息を吐いた。
「大丈夫…ですか?」
腕から降りたノワールが、顔を覗き込む。
「…大丈夫だ」
そう言って、ブランは無理に笑う。
「でも…」
ノワールは両膝を折り、傷を確かめようとする。
切り抜けはした。
だが無傷ではない。
――せめて彼女だけでも、国の外へ。
そう思うのに、言うことをきかぬ身体に苛立ちが募る。
だが、ふとノワールの顔を見て、ブランは思い出した。
「ああ…そうだ。貴女に、吉報がある」
ノワールが小さく首を傾げる。
「貴女の兄上は、ご存命だ」
「――…っ」
ノワールの瞳に、光が戻る。
「お兄様が…生きて…いらっしゃる…?」
「そうだ」
力強い肯定に、彼女の目から涙が溢れた。
その青い瞳に再び生気が灯る。
――まだだ。
ブランの内に、ふっと力が戻る。
――自分は、まだ進める。
立ち上がり、手を差し出す。
「ノワール、行こう」
彼女は迷わずに、その手を掴んだ。
――― ―――
「お兄様!」
アシュベルトの姿を認めた瞬間、ノワールは駆け寄り、その胸に飛び込んだ。
「ご無事で…本当に、よかった……」
声を震わせ、涙を零す。
「お前も、生きていてくれたか…」
そんな妹を、アシュベルトは静かに抱き留めた。
「……」
そんな二人を見届けた途端、ブランの膝が崩れた。
「ブラン!」
ノワールの叫びが響いた。
――― ―――
乾いた喉に水が流し込まれる。
意識がゆっくりと浮上した。
「よかった…」
視界の先に、涙を堪えたノワールの顔。
ブランは膝枕されていることに気づき、ゆっくりと周囲を見渡した。
視界に鮮やかな緑が映りこむ。
風に揺れる若葉。
空を覆うほどに広がる大木。
「……これ…は」
ブランは思わず、身を起こす。
――まるで二人を守るように、森が広がっていた。
「聖杯の力を使いました」
ノワールが静かに告げる。
その手には、あの聖杯が握られていた。
「聖杯は、水を湧かせるだけではありません」
ノワールは辺りを見渡しながら、ゆっくりと話す。
「生命の成長を促す力を持っているのです。種を撒き、聖杯の水を与えれば…こうして、数刻で森が生まれる」
ブランは言葉を失う。
「…だが、その力を引き出せるのはスウルスの王族のみ」
木の幹に寄りかかりながら、アシュベルトが低く言う。
「そして、代償がある」
「代償?」
「力を使うたびに、寿命が削られる」
ブランは弾かれたようにノワールを見る。
「では、…先ほど私に飲ませた水は……」
ノワールは微笑むだけで答えない。
「聖杯の水は、傷の癒しにもなるのです」
ブランは自身の身体を見下ろす。
――深手は消えていた。
「だが、それでは…貴女が――」
「――ブラン。私たちは、これから巡礼の旅に出ます」
ブランの言葉を遮り、ノワールは静かに言う。
「兄と共に…この大陸を巡り、再び緑を取り戻します」
それは、自らの寿命を削る旅だ。
だがスウルスの民は、とても慈愛深い民族である。
「本来は、もっと早くにすべきでした」
ノワールの言葉を、アシュベルトが引き継ぐ。
「だが我らも人間だ。自分の命を削ってまで救う価値があるのか―― 見極めようとしていた」
その眼差しが鋭くなる。
「だが貴様らは、聖杯を奪い、独占しようとした」
ブランは何も言えない。
しばしの沈黙。
「……ですが」
ノワールが柔らかく微笑む。
「貴方は、命を差し出そうとした。その覚悟は私たちに通じています」
アシュベルトは無言で、ブランを見据える。
「だからこそ、私たちは許し、救う道を選びます」
ノワールは柔らかな声音で告げ、兄と頷き合う。
「…その旅に、私も同行させてほしい」
ブランの言葉に、二人は目を見開いた。
「傭兵としてでも構わない。国を追われる身――むしろ好都合だ」
わずかに笑う。
「あなた方を、聖杯を狙う者は多いのだろう?」
否定はない。
「ならば、私を連れて行ってほしい」
ブランは深々と頭を下げた。
「……本当に、それでよいのですか?」
「ああ。これが、私の望みだ」
強く頷く。
「――何よりも、貴女と共に…生きたい」
熱を帯びた力強い言葉に、ノワールの頬がわずかに染まる。
ブランは彼女の手を取り、静かに片膝をついた。
「ノワール=スウルス」
彼女の澄んだ青い瞳を見つめる。
「この白銀の騎士…ブラン=ケオトルト。我が魂に誓い、揺るぎなき忠誠を――」
通った声で、ブランは高らかに告げる。
「――そして、貴女に、永遠の愛を捧ぐ!」
森を渡る風が、二人を包み込んだ。
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