序章:禁断の夜明け(後編)
【登場人物】
惑星:ハウメアの主席護衛官
ウォルター・ハルト・マトゥザック
地球の日本名:魔都場 陽登
惑星:ハウメアの王族 第一王女
アリステリア・プリンセス・ハウメア
地球の日本名:魔都場 亜璃水
海路:ウォルターとアリステリアの長男
日和:ウォルターとアリステリアの長女
ヤミ・クロノス・ヴァイス:ウォルターの親友であり、次元跳躍技術の権威
シーナ・テレイア・エリュシオン:アリステリアに忠誠を誓う侍女
惑星:ヴァルハラの王太子
ゼノン・ヴァルハラ
エリス・ファースト:元ヴァルハラ軍属
次元の狭間を研究する異端の貴族:カーライル公爵
その夜明け前。
濃紺の空がわずかに白み始めた頃、王宮の裏手にある格納庫区画に、ウォルターが用意した超高速輸送用ホバークラフトが静かに滑り込んできた。
アリステリアは、侍女シーナに付き添われ、身分を隠すための質素な旅装を纏っていた。
豪華な王族の衣装ではなく、簡素な外套を深く被っている。彼女の手には、王族の証である宝飾品ではなく、亡き母から譲り受けたただ一つの小さなペンダントが握られていた。
「アリス…ヤミが待っています。急ぎましょう」
ウォルターが周囲を警戒しながら、短く促す。
ホバークラフトは、王宮の厳重なセキュリティラインを、ウォルターの護衛官コードと、ヤミが仕込んだ電子ロック解除プログラムによって、まるで透明人間のようにすり抜けた。
辿り着いたのは、王宮から遥か離れた辺境の、巨大な岩山に隠された秘密のドックだった。
ドックの内部には、鈍い銀色に輝く流線型の船体が鎮座していた。
従来の宇宙船とは一線を画す、無駄を削ぎ落とした美しさを持った船。それが、ヤミが作り上げた、次元跳躍を可能とする超光速宇宙船、「アサギリ」だった。
「間に合ったか、ウォルター」
船体のそばで、細身で鋭い目つきをした男が、ニヤリと笑った。ヤミだった。
「アサギリ」には、既にシーナが乗り込んで、緊張した面持ちで待機していた。
アリステリアは、振り返り、巨大なハウメアの王宮を、そして星そのものを見つめた。故郷。家族。王族という身分。その全てを、この瞬間、彼女は永遠に捨てるのだ。
「アリステリア!行くぞ!」
ウォルターが叫ぶ。
彼女は、迷いを断ち切り、決意の表情を浮かべて船内へ滑り込んだ。
コックピットに乗り込んだウォルターは、ヤミに最後の確認をした。
「ヤミ、座標は?」
「設定済みだ。太陽系第三惑星、地球の日本という、極めて辺境で、誰も我々を追ってこない、安全な場所だ。ただし、この次元跳躍は、人体に大きな負荷をかける。皆、覚悟しろよ……」
「ああ…」
「覚悟しますわ…」
「はい…」
ウォルターがメインエンジンを起動させると、「アサギリ」の船体から、青白い光が漏れ出した。
その時、王宮の方角から、緊急事態を知らせるサイレンの音が、辺境のドックにまで響き渡ってきた。
「見つかったぞ!急げ!」
ウォルターが操縦桿を握り締める。
ヤミは、アリステリアに最後の忠告をした。
「アリステリア殿下。貴方たちが選んだ道は、光ではなく、深い闇だ。二度と振り返るな。」
アリステリアは深く頷いた。
ヤミがスイッチを入れると、船体全体が眩い光に包まれた。
外では、既にハウメア王立宇宙軍の高速戦闘機が、ドックの上空に到達していた。
しかし、時既に遅し。
「アサギリ」は、光の粒子と化し、轟音と共に、何億光年という宇宙の距離を、一瞬で超える次元の裂け目へと突入していった。
その光景は、あたかも大海原に浮かぶ、たった一粒の粟が、その存在自体を宇宙の彼方に消し去ったかのようであった。
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そして、同時刻…ハウメア王宮のバルコニーで、婚約を反故されたヴァルハラの王太子、ゼノンが、憎悪に満ちた目で光が消えた宇宙の彼方を見つめているのを知る由もなく、ウォルターとアリステリアは、遥かなる地球へと旅立ったのであった。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回は、木曜日の20:00頃に更新します。
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