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ソウカイノイチゾク  作者: 神代 チイ


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第十三章:決戦の舞台

ゼノンは、祭壇に立つウォルターの堂々たる姿を前に、その冷笑をさらに深めた。


「破壊だと? 貴様一人が、私の築いたヴァルハラの秩序を破壊できるとでも思っているのか? 貴様の行動は、王女を奪い、私の威信を傷つけた、たった一粟いちぞくの抵抗に過ぎない。この滄海そうかいに、貴様の存在など、一瞬で飲み込まれる」


一粟いちぞくの抵抗だと? 我々の愛は、貴様の歴史的な怨念を、ここで断ち切る」


ウォルターは、エネルギーソードの出力を上げた。

その時、ヤミとエリスが隠れていた影から、カイジが小さな通信装置を手に、ウォルターに合図を送った。


「父さん、準備完了です!」


ヤミが、要塞のメインシステムに仕掛けていたオーバーロードプログラムを起動させた。


──ドック全体に、警告音が鳴り響き始める。


「何事だ!」


ゼノンは苛立ち、周囲の警備兵に声を荒げた。


「ゼノン! 貴様は、私たちを追うために、このドックに全通信と追跡システムの中枢を集中させた。その全てを、今、壊滅する!」


ウォルターが叫び、祭壇の横にある制御盤に向けて、エネルギーソードを振り下ろした。

制御盤は爆発し、ドック内の照明が激しく明滅した。

その隙に、カイジはヤミの指示で、特殊な次元ジャミング装置を作動させた。


この装置は、ヒヨリの「次元知覚」によって感知されたゼノンの追跡システムの波動を逆利用し、要塞の全通信をパニック状態に陥れるものだった。


「馬鹿な……追跡システムが混乱している! 何が起こった!?」


ゼノンの顔から、初めて余裕が消えた。

その瞬間、ウォルターの背後、影に隠れていたカイジが、ヒヨリを抱いたまま、祭壇へと躍り出た。


「ゼノン王子! あなたが追っているのは、俺たちの未来だ!」


ヒヨリは、カイジの腕の中で、そのサファイアの瞳を完全に開き、覚醒していた。

彼女の身体から、あの二歳の時と同じ、強烈な青白い光の粒子が噴き出し始める。


「あれは…まさか!ハウメアの秘力か!?」


ゼノンは、驚愕に目を見開いた。

ヒヨリの放つ光は、祭壇の空間全体を歪ませ始めた。

彼女の「次元知覚(ディメンション・センス)」は、ゼノンの追跡システムが作り出した「予測される未来の経路」そのものを、現実に引きずり出そうとしていた。


「カイジ! ヒヨリを抑えろ! 力が強すぎる!」


ヤミが叫ぶ。


「……ッ!だめだ!止まらない! ヒヨリの力が、このドック全体を、ゼノンの予測した次元と繋げようとしています!」


カイジは、必死にヒヨリを抱き締めた。

ヒヨリの力は、このドックを、ゼノンが最も恐れる場所、すなわち「初代皇后が消息を絶った、次元の狭間」へと変えようとしていた。


「やめろ! その力は、お前たち自身を破滅させるぞ!」


ゼノンが叫んだ。


彼の顔は、恐怖に歪んでいた。

初代皇后の事件の再現は、彼にとって最大の悪夢だ。


ウォルターは、この機を逃さなかった。

彼は、ゼノンに向かって全力で突進した。


「ゼノン! 貴様を、アリステリアの愛した世界から、永遠に切り離してやる!」


二人の身体が激しく衝突する。

ウォルターは、鍛え抜かれた肉体と、アリステリアへの愛という、純粋な怒りを力に変えて、ゼノンの甲冑を叩き割ろうとした。


ゼノンもまた、訓練されたヴァルハラ王族としての戦闘術で応戦する。


「下賤な男が! 貴様の存在こそ、この宇宙の秩序に対する反乱だ!」


二人の剣戟が火花を散らす中、ドック全体が激しく揺れ始めた。


ヒヨリの次元知覚(ディメンション・センス)によって開かれた「次元の裂け目」が、ドックの壁を侵食し、外部の荒涼とした景色と、未知の光景を混ぜ合わせ始めた。


「 ウォルター様!次元が不安定です! 早く脱出をしないと皆が次元の裂け目に飲み込まれます!」


エリスが叫んだ。


「このままでは、ダメだ! ヒヨリの力を制御しなければ……」


ヤミは、次元ジャミング装置の制御盤を必死にいじっていた。


その瞬間、ウォルターはゼノンの動きを読んで、エネルギーソードを捨て、彼の顔面を掴んだ。


「貴様も、この次元の嵐に巻き込まれて、塵となれ!」


ウォルターは、ゼノンを抱え込んだまま、ヒヨリの力の中心である、青白い光が最も強く発する祭壇へと飛び込んだ。


「馬鹿な! 私が、こんなところで……!」


ゼノンの断末魔の叫びが響く。


青白い光は、ゼノンの金色の甲冑を溶かし、彼の存在そのものと、ウォルターを次元の波間に引きずり込んでいく。


「父さーんッ!!」


カイジが叫んだ。


ウォルターは、最後にカイジとヒヨリに向かって、力強く言った。


「カイジ! ヒヨリ! 生きろ! お前たちが、このソウカイノイチゾクの未来だ!」


その言葉を最後に、ヒヨリの放つ青白い光は、ウォルターとゼノン、そして祭壇全体を飲み込み、巨大な閃光を放った後、一瞬で消え去った。


ドックは静寂に包まれた。


残されたのは、ゼノンの指揮艦、ヤミ、エリス、そしてカイジに抱かれ、力を使い果たして眠るヒヨリだけだった。


「父さん……」


カイジは、崩れ落ちた岩の破片の下で、涙を流した。


しかし、ヤミはすぐにカイジの肩を掴んだ。


「泣いている場合じゃない、カイジ! ウォルターは、お前たちを生かすために、自ら次元の狭間に身を投げた! ヴァルハラの残存部隊が、もうすぐここへ集結する!」


カイジは、涙を拭い、顔を上げた。

彼の白銀の髪は、その運命の重さを背負う王族の血統の証として、静かに輝いていた。


「師匠。エリス。僕たちは、ここを離れます。父さんが守り抜いた命を、無駄にしないために」


ヤミとエリスは、頷き、彼らは急いで小型脱出艇へと向かった。


ウォルターの自己犠牲と、ヒヨリの次元知覚(ディメンション・センス)によって、ゼノンという最大の脅威は、宇宙の次元から隔離された。


しかし、ウォルターもまた、その滄海の中に、自らの一粟いちぞくとしての存在を、溶け込ませたのであった。


──逃亡の旅は、まだ終わらない。


だが、今、カイジとヒヨリは、亡き両親の犠牲の上に、ソウカイノイチゾクの未来を背負う、新たな逃亡者として、次元の荒波へと旅立つのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


次回は、金曜日の20:00頃に更新します。

よろしくお願いいたします。

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