第十二章:要塞への潜入
辺境惑星「バニッシュメント」の赤黒い岩肌を、四つの影と、一機の小型ドローンが静かに移動していた。
ウォルターは先頭で、両手にエネルギーソードを構え、警戒態勢を取る。
彼の背後には、ヤミ、エリス、そしてカイジに抱かれたヒヨリが続く。
「要塞の外部シールドは、旧型のヴァルハラ防御システムだ。 ヤミ、バイパスできるか?」
ウォルターが低く尋ねた。
「ウォルター、あの要塞は数世紀前の流刑地を改築したものだ。 セキュリティプロトコルも陳腐化している。 俺のドローンで外部システムに干渉する。」
ヤミが小型ドローンを飛ばし、要塞の岩壁に隠された通信アンテナに接触させる。
数秒後、エリスが即座に反応した。
「成功です。 警備システムが一時的にフリーズしました。 ウォルター様、私なら、内部の巡回ルートと、ゼノン王子が最も機密性の高い情報を保管している区画が分かります」
「必要ない」ウォルターは即答した。
「我々の目標は、機密情報ではない。 ヒヨリが導く場所へ行く。 彼女の『次元知覚 (ディメンション・センス) 』こそが、ゼノンの追跡システムを破壊する唯一の鍵だ」
カイジに抱かれたヒヨリは、眠っているように見えるが、その小さな手は、要塞の方向に向けられ、微かに震えていた。
彼女のサファイアの瞳は閉ざされているが、その意識は、この次元の壁を超えて、ゼノンの悪意の波動を追っていた。
「船は... あそこ... に... くる」ヒヨリが、かすれた声で囁いた。
ヒヨリが指し示したのは、エリスが「軍事兵器の最終整備ドック」だと説明した、要塞の最も深く、中央部に位置する巨大な格納庫だった。
一行は、ヤミのハッキングとエリスのルート知識を頼りに、警備兵の巡回をすり抜け、要塞内部へと深く潜り込んでいった。
内部は、血統の純粋性を重んじるヴァルハラの冷徹さを体現するかのように、全てが灰色の金属と無機質な光で構成されていた。
この場所こそ、かつて初代皇后の子どもたちが追放された、王家の「穢れ」を隔離した地なのだ。
数時間に及ぶ潜入の末、彼らはついに目的地に辿り着いた。
巨大なドックの金属製の扉が、ヤミの最後のハッキングによって音もなく開いた。
中に入った瞬間、ウォルターは息を飲んだ。
そこは、通常の軍事ドックではなかった。
巨大な空間の中央には、スポットライトが当てられた、円形の祭壇のようなステージが設えられていた。
船を整備するためのアームや工具は一切なく、代わりにステージ上には、数基のホログラムプロジェクターと、いくつかの金属製の拘束具が設置されていた。
「これは......」エリスが絶句した。
「ドックではない。 これは、ゼノン王子があなた方を公開処刑するために用意した、祭壇です」
エリスの言葉が、その場の冷徹な真実を突きつけた。
ゼノンは、このドックを、アリステリアの血を引く子どもたちを「血統の汚点」として全銀河に配信し、ヴァルハラ王家の純粋性を再確認させるための舞台として用意していたのだ。
ウォルターは、怒りで体が震えるのを押し殺した。
その時、カイジが抱いていたヒヨリが、突然、小さな声で歌い始めた。
「ソウカイ... イチゾク...」
それは、アリステリアがよく口ずさんでいた、ハウメアの古い子守歌の旋律だったが、歌詞は、亡き母が彼らの運命に込めた言葉を繰り返していた。
ヒヨリは、サファイアの瞳を大きく開いた。
その瞳は、もはや恐怖の色ではなく、祭壇の中央を見据えていた。
「父さん... ここに... ゼノンが...... くる...」
「ヒヨリ……?」
ヤミがドックの天井を見上げ、驚愕の声を上げた。
「ウォルター! ヒヨリが感知しているのは、あれだ! このドックの、上空にいる!」
ゼノンは、逃亡者のウォルターたちが、恐怖で逃げ回り、いつか力尽きて捕らえられると考えていた。
そして、力尽きたウォルターたちを捕縛した後に、ここで公開処刑することを、ずっと予測していた。
しかし、ウォルターたちは、ゼノンの予測を裏切り、自らこの舞台に上がった。
ウォルターは、カイジにヒヨリを預け、エリスとヤミを援護位置につかせた。
そして、彼は一人、ドックの中央にある、スポットライトの当たる祭壇へと歩みを進めた。
「カイジ。 私の合図で、全システムをオーバーロードさせる。 このドックに仕掛けられたゼノンの全通信システムを破壊するんだ」
「了解しました、父さん」
カイジの声は、緊張しながらも冷静だった。
ウォルターがステージに到達した瞬間、ドックの天井が開いた。
眩い光と共に、ヴァルハラ王族専用の、漆黒に輝く巨大な指揮艦が、静かに降下してきた。
その船体には、ヴァルハラ帝国の誇りを示す、冷徹な紋章が刻まれている。
そして、船のハッチが開く。
そこに立っていたのは、金色の甲冑を纏った、冷酷な表情の男、ゼノン・ヴァルハラだ。
ゼノンは、ステージ中央に立つウォルターを見て、一瞬、驚きの表情を見せたが、すぐに冷笑へと変わった。
「ウォルター・ハルト・マトゥザック......。逃げ回ることをやめ、自ら舞台に上がるとは、貴様の愚かさには驚かされる」
彼は、祭壇と拘束具を一瞥した。
「王女…いや『穢れ』と、『穢れ』の子どもたちは、どこだ? 貴様の手で、ここに連れてくるがいい。 さすれば、貴様だけでも、その場で死を許してやろう」
ウォルターは、構えたエネルギーソードの光を、ゼノンの瞳に突き刺すように向けた。
「ゼノン。 貴様がこの一族を『穢れ』と呼ぶのなら、この『穢れ』が、貴様のその冷徹な秩序を、根底から破壊してやる」
滄海の一粟として逃亡した彼らの、運命を決める最後の舞台が、今、開かれた。
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次回は、火曜日の20:00頃に更新します。
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