表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウカイノイチゾク  作者: 神代 チイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/17

第九章:ゼノンの王冠と憎悪の連鎖

惑星ヴァルハラの首都、鉄とガラスと炎で構成された巨大な宮殿の最上階。


ゼノン・ヴァルハラ王子は、その巨大な執務室で、ハウメア王宮から送られてきた一枚のホログラムを前に、静かに立っていた。


ホログラムに映し出されているのは、王族の伝統的な白のローブを纏った、透き通るような美しさを持つ女性、アリステリア・プリンセス・ハウメアの姿だった。


「穢れ(けがれ)……」


ゼノンは、自室の重厚な壁に飾られた、ヴァルハラ初代国王の肖像画を見上げた。


その瞳には、深い嫌悪と、そして自らの王族としての使命感が入り混じっていた。

ゼノンの憎悪の根源は、幼少期の教育にあった。

ヴァルハラ王族は、その血統の「純粋性」と「絶対的な秩序」を何よりも重んじる。

そして、ゼノンが最も繰り返し教え込まれたのは、数百年前の初代皇后の逃亡事件だった。


初代皇后は、政略結婚によりハウメア王族の分家から迎え入れられた女性だった。

初代皇后はヴァルハラ王の冷酷な統治に耐えかね、ついには幼い子どもたちを連れて王宮から逃亡を図った。


「王族の血筋は、国の『いかり』であり、決して感情によって揺らいではならない」


幼き日のゼノンは、厳格な家庭教師から、初代皇后の逃亡が、ヴァルハラ王家にどれほどの恥辱と混乱をもたらしたか、耳にタコができるほど聞かされていた。


「愛? 感情? それは、下賤な者にのみ許される弱さだ! 王女という存在は、国家の秩序を保つための『契約の証』であり、個人の自由意志など、塵芥ちりあくたに等しい!」


初代王は、最終的に皇后を捕らえることは叶わず、皇后は異次元の狭間で消息を絶った。


しかし、初代王は、皇后との間に生まれた子どもたちを「血統の汚点」として公に断罪し、辺境の惑星に追放することで、ヴァルハラの血統の絶対的な純粋性を全宇宙に示そうとした。


ゼノンの執着は、王族の血統への純粋な信仰と、この過去の事件に対する強烈な嫌悪感から生まれていた。


そして、数百年の時を経て、アリステリアとの婚約が成立した。

アリステリアは、まさに完璧だった。

知的で美しく、ハウメア王族の正統な血統。

彼女との婚姻は、ゼノンの権威を不動のものとし、ヴァルハラ王族の歴史的な威信を回復する、最後のピースとなるはずだった。


「アリステリア。君は、私とヴァルハラ王国の誇りとなる。君の美しさと血統は、我が惑星をさらに強固にするだろう…」


ゼノンは、婚約の打ち合わせでアリステリアに対面した際、そう語った。

だが、アリステリアの瞳に、ゼノンが期待する「畏敬」や「服従」の光はなかった。

あるのは、ただ静かな諦念と、かすかな抵抗の影だけだった。


その時、ゼノンの中に、ふとした既視感が走った。この瞳は、幼き日に地下に迷い込んだあの倉庫で見た、初代皇后の肖像画、あの虚ろな眼差しに酷似していると。


「まさか、あの愚かな過去を、また繰り返そうというのか……」


ゼノンは、アリステリアの心を支配し、彼女を徹底的にヴァルハラ王家の秩序に組み込むことに、異常なまでの執念を燃やした。


そして、婚約式の前日。


報告が届いた。

「ハウメア王女、アリステリア・プリンセス・ハウメアが、護衛官ウォルター・ハルト・マトゥザックと共に、王宮から姿を消した」と。


ゼノンは、その報告を聞いた瞬間、怒りよりも、むしろ冷たい確信に似た感情に支配された。


「やはり、愚かな女だ……」


アリステリアの逃亡は、ゼノンにとって、単なる婚約反故ではない。

それは、数百年前の初代皇后による裏切りが、彼の目の前で、再び完全に再現されたことを意味した。


「これは、私個人への侮辱ではない。ヴァルハラ王家…いや、惑星ヴァルハラと秩序に対する、宣戦布告だ」


彼は、怒りよりも冷徹な決意を固めた。

アリステリアを追跡し、捕獲することは、初代王が果たせなかった復讐であり、ヴァルハラの絶対的な支配力を全宇宙に示す、最大の儀式となる。


「ウォルター・ハルト・マトゥザック……下賤な護衛官の愛などという『穢れ』によって、王族の血統が汚されるなど、絶対に許さん!」


ゼノンは、自らヴァルハラ軍の追跡艦隊の指揮を執ることを決定した。

彼の追跡の目的は、アリステリアを生きたまま捕らえ、ウォルターと共に、彼らの「愛の結晶」たる子どもの血統がいかに下劣であるかを、全宇宙に証明することにあった。


彼の冷酷な瞳には、アリステリアの逃亡という「一粟(いちぞく)」が、やがてヴァルハラ王家の権威という「滄海(そうかい)」を揺るがす波紋となることへの、絶対的な拒絶と憎悪の炎が燃え盛っていた。


そして、密かにアリステリアの体内に仕掛けられていた追跡装置が、一瞬だけ爆発的な信号を放った時、ゼノンの脳裏には、勝利の確信が閃いた。


「見つけたぞ、アリステリア。逃げ場などない。お前たちの愚かな『穢れ』の愛は、私がこの手で、永遠に葬り去ってやる!!」


ゼノンは、最新鋭の偵察機を、地球と呼ばれる辺境の惑星に向けて、送り出したのであった……


最後まで読んでいただきありがとうございました。


次回は、日曜日の19:00頃に更新します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ