第17話:選ばれるのは、どっちの未来?
公開問答が終わった翌日。
王都はざわついていた。広場の戦いを目の当たりにした者たちは、口々に語る。
「聖女様が……拳で勝ったんだって?」
「いやいや、癒しの力もすごかったらしい。あの騎士が立てなくなったって」
「でも、剣でなく拳で正義を語るって……そんなの、前代未聞だぞ?」
「けど、確かにあの聖女は“誰かのために”戦ってた。神殿より、信じたくなるっていうか……」
空気が変わっていた。
かつて、ただ「ありがたい存在」として崇められていた聖女が。
今や、「共に戦う存在」として、民衆の中に入り込もうとしている。
***
「……で、呼び出されたと」
私は、王宮の玉座の間の手前にいた。
その背後には、神殿側の神官たち。
前方には王国の王、レオニス三世。
そして、私の横には、神崎ゆうり。
「ふむ。昨日の騒ぎについては……もはや我が王国としても、見過ごせぬ状況だ」
王は重々しい声で言った。
「聖女・天川ひなた。貴殿は神殿の命に背き、民衆を焚きつけ、公開の場で王国騎士を叩き伏せた」
「……はい。その通りです」
「ならば、尋ねよう。貴殿は――」
「王国を敵に回す覚悟が、あるか?」
……また、それか。
毎回聞かれるなあ、それ。
「“王国”の意味にもよりますね。もし、“権力にすがる者たち”のことなら、はい。ぶん殴る気満々です。だけど、もし“民の未来のために動ける人たち”のことなら……敵には回らない」
静寂が広がる。
「なるほど……では、逆に問おう」
王の声が低く響いた。
「貴殿に、“この国を治める資格”はあるのか?」
……は?
え? なに言ってんの、この人。
「この国の正義は揺れている。神殿の信頼は地に堕ち、王家も民衆にどう応じるか模索している。ならば――異端の聖女に、試す資格を与えるのも一興」
「民の支持を集め、この混乱を収められるなら……貴殿に、“王国改革”の役目を担わせても良い」
「はぁああああ!?」
思わず叫んだ。
「いやいや、ちょっと待って!? 私、治癒と暴力しかできないんですけど!?」
「貴殿は、癒しと破壊の象徴である。それに、選ばれるのは民意だ。我らが押し付けるのではない。これより一月の間、自由に動くがいい」
「その結果、民の信頼を得たなら――改革の旗手として、正式に迎えよう」
「できなければ、“ただの反逆者”として処刑だ」
……うん。最後の一言で、急に生々しくなったよね。
「じゃあ……試すってことですね?」
私は一歩前へ出る。
「拳と癒しで、“この国に未来を与えられるか”。やってやろうじゃないの。全力で」
ラグナが苦笑していた。
「またろくでもないことに巻き込まれたな」
「自業自得でしょ」とゆうり。
でも、私はもう決めた。
「誰かの痛みを見捨てない。それが、聖女の仕事だから」
そして、それが“私”として生きることだから。




