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第14話:揺れる王都、響く拳と声

 マール神官が、床に転がり、呻きながら手足をバタつかせていた。


 壇上から見下ろす私の目は、冷たい。


「……二度も私に殴られるなんて、運が無いね。もう少しマシな人生送ればよかったのに」


「が……っ、貴様ァ……っ」


「まだ言う? 根性あるじゃん。でも、口じゃなくて行動で示してよ。あんたの言う“神意”ってやつを」


 マールは歯を食いしばって立ち上がろうとする。


 が、ラグナがさりげなく剣の柄を鳴らすと、すぐにその腰は引けた。


「……王に、訴えてやる……! 貴様は異端だ……!」


「うん、どうぞどうぞ~。むしろ“直接”会いたいしね。ちょうど今から、王宮にも行く予定だったし?」


「な……っ、正気か!?」


「超・正気。暴力と理不尽に正面から“癒し”で反抗するのが、今の聖女なんで」


 私はマールを見下ろし、最後に一言だけ告げた。


「これ、宣戦布告だから。神殿も、王国も、全部含めてね」



 ***



 大聖堂を出たとき、そこにはすでに市民たちの人だかりができていた。


 中には知っている顔もいた。


 花を売ってくれた老婦人、パン屋の兄ちゃん、治癒を受けた子ども――

 みんなが、ざわざわと私を見つめていた。


「……あれが、本当に“聖女様”……?」


「いや、でも神殿を……ぶん殴ったんだろ?」


「いやいや、それ以前に……マール神官、宙を飛んだって……」


 うわー、都市伝説みたいになってる。


 でも構わない。


 こうやって噂が広まってくれればいい。


 “聖女は変わった”

 “あの神殿に逆らった”

 “ぶん殴ってでも癒す側に立った”――って。



「……派手にやったね」


 後ろから、ゆうりがぽつりとつぶやく。


「見届けるって言ってたから、ちゃんと見せたよ」


「ええ、見たわ。たしかにあんたはもう、“従順な聖女”じゃない」


「でしょ? カッコよかったでしょ?」


「……ちょっとだけ、ね」


 口ではそう言いつつも、ゆうりの目は優しかった。



 ***



 神殿の鉄拳宣言は、その日のうちに王宮へ届いた。


 玉座の間では、王と側近たちが報告を受けていた。


「聖女が……帰還し、大聖堂にて“神意への反抗”を宣言。神官のマールは重傷。さらに、王家に“直談判”を申し出ております」


「……馬鹿な。あの聖女が、なぜ今さら」


 国王の眉間に、深い皺が刻まれる。


「もはやただの聖女ではありませんな。これは……反乱分子の扇動です」


「異端だ。処刑せねば、民が勘違いする」


 重苦しい空気の中、ただ一人、若い王子が立ち上がった。


「……私は、彼女の話を聞くべきだと思います」


「レオニール王子、貴殿は何を――!」


「“正しさ”に疑問を持つことすら、許されぬのですか? それは“神意”ではなく、“恐怖”による支配だ」


 その言葉に、空気がわずかに揺れる。



 王国は今、揺れている。


 神の名を借りた搾取と、聖女の鉄拳。


 どちらが本当に“民を癒す存在”なのか。


 次に戦場となるのは――王宮。


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