第13話:神殿、鉄拳制裁。第一幕!
《大聖堂》の中は、以前とまるで変わっていなかった。
磨き上げられた大理石の床。黄金の装飾が施された壁。高すぎる天井に、冷えきった空気。
でも、私はもう怯えない。
この場所は、かつて私が“沈黙を強いられた場所”。
だけど今は――
「ぶん殴りに来たからね」
足音を立てて、中央ホールを進む。
堂々と。まっすぐに。
隣を歩くラグナは剣を手に。後方では、勇者・ゆうりが距離を取りながらついてくる。
私たちは、まるで“儀式”でもするかのように一直線に進んだ。
そして、奥の壇上に立つ男が、ゆっくりと姿を現す。
「……おやおや。お戻りになられたのですね、我らが“聖女様”」
そう言って、にやりと笑ったのは――
「おお、いたいた、マール神官。あんたに会いに来たよ」
「ああ、これは光栄ですね。裏切り者にして、異端の聖女が、わざわざ自ら罰を受けにいらしたと」
「罰? 違う違う。“説法”に来たのよ。拳でな」
私が一歩踏み出すと、神官たちがざわめき、護衛騎士たちが一斉に前へ出た。
マール神官が手を上げて制止する。
「構わん、手を出すな……彼女には“神の声”を再び聞かせてやらねばなるまい」
「はーい、神の声より強烈な“拳”で語る準備してきたんで、よろしくねー」
私の挑発にも、マールは余裕の笑みを崩さない。
「聖女とは、民を癒す器。己の感情や思想で動くものではない。あなたは、その神意をねじ曲げた。ゆえに、粛清の対象なのです」
「ふーん」
私は立ち止まった。
「じゃあ、その神意ってやつで、この国がどれだけの人を見捨てたか、答えられる?」
「それは、神の試練」
「じゃあ魔族の村が飢えて死んだのも?」
「彼らは、神の秩序に背いた」
「私が癒した子どもが、“聖女に触れられたから汚れた”って言われたのも?」
「神意に背く行為は、穢れを呼ぶのです」
「――なるほど」
私は、拳を握った。
「やっぱりあんた、“殴っていい側”の人間だったわ」
その瞬間、空気が一変した。
ドッ!!
気合と共に、私は一気に壇上へ駆け上がった。
騎士たちが動こうとするが、ゆうりが剣を抜き、彼らの前に立ちはだかる。
「ーー手を出すな。あれは、“神意”とやらを正す時間だ」
マールが後ずさる。
「ば、ばかな、ここは神聖なる大聖堂なのだぞ!」
「だから何? 神聖なら何しても許されんの?」
私は拳を振り上げた。
「これは“癒し”だよ。歪んだ神意ってやつを、まっすぐにぶちのめす、“聖女の鉄拳”だ!」
ドカッ!!
豪快な音が響き、マール神官は壇上から吹き飛んだ。
神官たちが悲鳴を上げる。
けれど私は構わず、堂々と壇上に立ち――
「みんな、見てる? これが今の“聖女”だよ」
静まり返る神殿のなか、私の声が響く。
「もう私は、神殿の都合で動く聖女じゃない。
癒す対象を選び、“守るべき人”を自分で決める。
そして、必要とあらば、拳で正す!」
私は大聖堂の天井を見上げる。
「神様、もし本当に見てるなら――私の“癒し”が間違ってるって言ってみなよ!」
……沈黙。
誰も答えない。
空から声も光もない。
つまり――
「……黙ってるってことは、肯定ってことでいいよね?」
私はニッと笑った。
「ってことで、ここに宣言します!
本日をもって、“従順な聖女制度”は、ぶっ壊しまーす!!」




