第12話:神殿突撃! 聖女、帰還す
「……うわ、街の空気、くっさ」
王都の門をくぐった瞬間、私は思わず顔をしかめた。
いや、正確には“空気”じゃなくて、“空気感”。
どこか押しつけがましくて、重たくて、上っ面だけキラキラしてる。そんな感じ。
あの神殿で過ごした日々が、嫌でもフラッシュバックしてくる。
「うわぁ、また“聖女様”って言われるのかな。ゾワゾワするわ……」
「でも、今のあんたなら殴り返せるだろ?」
ラグナが苦笑しながら言った。
うん、まあ、たしかに。
今の私は“ぶん殴る聖女”ですからね。
人類の回復担当をやりつつ、敵性存在は拳で殴る。
最高に効率悪くて、最高に気分がいい方法で反抗中ってわけだ。
***
目的地は、王都の中心にある《大聖堂》
私が召喚された場所であり、そして――
「……あのクソ神官どもが牛耳ってる、“聖女牧場”の総本山ってやつだよ」
心底うんざりしながら、石畳を踏みしめる。
途中で、騎士団の視線を感じたり、町人のざわめきが起きたりしたけど、無視。
というか、あえて無視してる。
こっちは“ぶん殴る理由”を探しに来てるんだから、妙な騒ぎは後回し。
ただ――
「……久しぶり、聖女様」
門前で、あの声が聞こえるまでは。
「……ああ、いたの。勇者さん。王国には戻らないって言ってなかったっけ?」
振り返ると、そこには勇者・神崎ゆうりが立っていた。
見た目は変わってなかった。
私と同じ、日本からの召喚者。
肩まで伸びた黒髪と、鋭い瞳。背筋をピンと伸ばした、真面目そのものの立ち姿。
……なんだろうなあ、この違和感。
「あたしは……“正しさ”の意味を確かめるために戻ってきたの。王国の味方でも、あんたの敵でもない。ただ、あたし自身の目で――見極めるためにね。
その言葉には、嘘がなかった。
敵でも味方でもない。その“中間”の立ち位置が、逆に彼女の本気を物語っていた。
あのとき神殿で出会った勇者とは違う。
今の彼女は、きっと――“自分の意志”で立っている。
「それにしても、王国ではあんたの無断離反に、ずいぶん騒ぎがあったよ」
「ふーん。でもこっちとしては“無断で連れてこられた”時点で文句言う権利ないよね」
皮肉っぽく返すと、ゆうりは眉をわずかに動かした。
「……あんたの力は、あたしが見ても驚異的だよ。だから、それを暴力に使うのは間違ってる」
「そりゃ違うね。暴力に使ってんじゃなくて――“搾取の構造”に対して使ってるの。癒しの力を、正義面した連中が都合よく使う。その状況に、拳でNOを突きつけてるだけ」
「あんたはもう、“聖女”じゃない」
「じゃあ、なんて呼ぶ? “ぶん殴る救世主”? “魔王の味方”? 好きにすれば?」
そう言い放った瞬間――
ゆうりの瞳が、揺れた。
……ああ、そっか。
この子、迷ってる。
王国の正義と、自分の信じた理想と。
たぶんその狭間で、ずっと悩み続けてるんだ。
「ねえ、ゆうり」
私は一歩だけ、彼女に近づいた。
「自分が正しいって、思い込みたくて仕方ないときってあるよね。でも、誰かが傷ついてるのを“正しさ”で黙らせたら、それはもう暴力なんだよ」
「っ……」
「……私はもう、黙らない。“癒し”の反対って、きっと“無関心”なんだよ。だから私は――」
「ぶん殴ることにしたんだよ、世界を」
大聖堂の扉が、静かに開いた。
私が、私として、生きるために。
中で待つ、神官どもに“説法”と“鉄拳”をお見舞いするために――




