第11話:王国、聖女抹殺計画始動
「……王国が動いた、だと?」
焚き火の前、地図を睨みながらラグナが眉をひそめる。
「うん。昨晩、女神様からの“伝言”として聞いたの」
「つまり……王国は、あんたを消す気だってことか」
私はうなずいた。
「もう、“道具”じゃないって分かったからね。今の私は、あいつらにとって脅威なんだよ」
ラグナは唇を噛んだ。
その表情から察するに、王国は単なる“追手”じゃなく――
「暗殺部隊が動いてる。王都直属の精鋭、“黒の牙”。……聖騎士でも手を焼く連中だ」
「……なんか名前が中二すぎて、逆に笑えないんだけど」
「笑ってる場合じゃねえよ」
ラグナが真顔で言うので、ちょっとだけ反省した。
***
その夜。
村の裏手、小川の近くで。
私は、小さな“気配”に気づいた。
(……いる)
振り返ると、そこには黒装束の男がいた。
顔を覆い、体には音を立てない軽装。手には、毒塗りの短剣。
間違いない――刺客だ。
「へぇ、こんな田舎までご苦労さま。旅費は出た?」
「貴様が“異端”として処理対象に指定された。ただ、それだけの話だ」
男が一歩踏み込む。殺気が走る。
が。
私は一歩も退かなかった。
「へえ、異端ねぇ。じゃあその“正常”ってやつは、何? 回復魔法の乱用? 人を使い潰す制度? 搾取の正当化?」
「……黙れ」
男が飛びかかる。目にも留まらぬ速さ――だったけど。
「……っ、は……?」
「遅いよ」
私はその腕を、拳で迎え撃った。
パァン!と乾いた音。
次の瞬間、刺客の腕がねじれ、体が地面に叩きつけられていた。
「ッ……な、に……この力……」
「“魂ごと癒す力”ってさ、たぶん“魂ごと折れる力”にもなれるんだよね」
私は微笑みながら、もう一歩近づく。
「伝えておいて。次に送り込むなら、“話が通じるやつ”にしてって」
「くっ……!」
男は毒の小瓶を取り出し、口に含もうとする――
「させるかっ!」
だが、それを叩き落としたのは、ラグナの剣だった。
「さすがに自害はさせねえよ。情報引き出すからな」
私は小さくうなずいた。
「ありがとう。……でも、これでわかったね」
「……ああ。“聖女抹殺”は正式な国策になった」
「つまり、こっちも“本気で反撃していい”ってことだ」
***
翌朝。
村の広場に立った私は、全員の前で宣言した。
「王国が、私を殺しにきたよ」
騒然とする人々。
けれど、私は続けた。
「でも、私は逃げない。今までは“癒して”ばっかりだった。でもこれからは――“変える”ために戦う」
「戦うって……どうするんですか?」
一人の青年が、震える声で問う。
「こっちも、動くよ。
制度を変えるには、“見せつける”必要がある。
私たちは王都へ向かう。まずは、神殿に“直接文句”を言いに行く」
「聖女様、それは……!」
「私はもう、神殿の“持ち物”じゃない。誰かの道具でもない。
王都のど真ん中で言ってやるよ――“聖女なめんな”ってな!」




