表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

第10話:女神との再会

 夜。


 焚き火の音が消え、子どもたちの寝息が静かに響くなか。


 私は、ひとり星を見上げながら眠りについた。


 ほんの一瞬、まばたきをしたような感覚のあと――

 私は、白い世界に立っていた。


 空も地もなく、ただ静寂が広がる無音の空間。


(……夢?)


 そう思った瞬間。


 音もなく、彼女は現れた。


 白銀の髪。柔らかな衣。まるで光で編まれたような存在。


 どこか懐かしくて、優しいまなざし。


 彼女は、ただ一言――


「お久しぶりですね、ひなた」


「……女神様」


 私の声は自然に出た。


 たしかにこの人だった。


 召喚されたとき、最初に出会った、あの“誰にも信じてもらえなかった”存在。


「ようやく……ここまで来たのですね」



 ***



「なんで今さら、出てきたの?」


 問いかける私に、女神は微笑んだ。


「あなたが“自分の意志で道を選んだ”からです。聖女という枠に縛られることなく。癒しという力を、自分の手で掴み直したから」


「……でも、あんたは見てたんでしょ? 私が“使い潰される”の、ずっと」


「はい。見ていました。そして、あなたの怒りも、痛みも、無力さも。……私は、干渉できなかった。けれど、見守ることはできました」


 女神の声は、どこか震えていた。


「聖女とは“癒しの器”ではありません。

 本来は、“癒しの意思”をもって世界に抗う存在なのです」


「……抗う?」


「あなたが抱いた怒りも、悔しさも、正しいのです。誰かを救えないまま、ただ祈るだけの力ならば、そんなものは――神の力ではない」


「…………」


「だから、あなたに託します。

 癒しの“真の力”を。

 それは、ただの再生ではなく――魂すら揺さぶる、“怒りと希望の癒し”です」


 女神が、私の胸元に手を添える。


 すると、そこから光が広がって――私の体に、じんわりと暖かさが染み込んでいった。


「これが……?」


「“癒しを拒むもの”にも届く力。

 あなたの拳に宿る、“魂癒しの力”です。

 それは痛みを知るあなたにしか扱えない。……“怒りを知る聖女”だけが使える、もう一つの祝福」


 私は、手を見つめた。


 力が、確かにそこにあった。


「ありがとう。……あんたのこと、ちょっと嫌いだったけど、いまは……少し、好きになりそう」


「ふふ。それで十分です」


 女神が、微笑んだ。



 ***



 目覚めた私は、拳を握った。


 ほんのわずかだけど――何かが違う。


(……これは、“誰かを癒す拳”じゃない)


(“世界そのものを叩き直す拳”だ)



「おはよう」


 横で眠っていた子どもが起きて、私の顔を見て笑った。


「うん、おはよう」


 私はその笑みに、いつも以上に優しく微笑み返す。


 癒す力は、与えられたものじゃない。


 選んで、進んで、掴み取ったもの。


 それが、これからの“私の癒し”だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ