表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話 おはよう


廊下を歩く生徒たち、文化祭準備でごった返す教室。

花紙のにおい、騒がしい声、色とりどりの飾り。

いつもの、はずの光景。


でも、俺の目に映るそれは、まるで既視感の塊だった。


同じ人の配置、同じ話題。

クラスの陽キャたちが昨日のバラエティの話で笑ってるのも、窓際で女子がかっこいい先輩の話をしながら花紙折ってるのも、全部、見たことがある。


黒板に書かれた日付:9月6日(水)


――いや、違う。

昨日は9月8日、金曜日。文化祭前日で、クラスはバタバタしていた。


そして、その日の夜、

俺は放課後、校舎のどこかで――


(……殺された。たしかに)


思い出そうとした瞬間、首の奥に鈍い痛みが走った。

息が詰まる。喉に締めつけるような違和感が残っていた。


俺は無意識に、首に巻いた白い包帯に触れる。


そのとき、後ろから軽く肩を叩かれた。


「はよ、南」

「……大地。……はよ」

「なんだよその首。どしたん?」


見れば、クラスの男子。口を開けてきょとんとしている。


俺は慌てて襟を正して、笑ってごまかした。


「なんか、寝違えちゃってさ。やっべー寝相だったらしくて」

「うっわぁ……お前それ、どんだけ激しい寝相なんだよ……」


すんなり流されたのが、逆に怖い。


昨日、9月8日金曜日の夜に死んだはずの俺は、

今、9月6日水曜日の朝の教室に立っている。


ざわつくクラスのなかをすり抜けるように歩いて、

俺は、自分の席を通りすぎ、窓際、いちばん後ろの席へ向かう。


そこに座っていたのは――


東雲アサヒ。


明るい色に染めた髪が、朝の光をうっすらと反射していた。

指先をじっと見つめるように、彼女は手元でネイルを眺めていた。


彼女は、俺に気づいた。

目が合う。

一瞬、何かを探るような視線のまま、彼女は小さく口を開いた。


「……おはよ」


――昨日、俺の首を絞めたはずの彼女が、“おはよう”と言った。


アサヒの視線が、ゆっくりと俺の首元へと吸い寄せられる。


「……首……」


かすれた声。ほんの一瞬、彼女の目が見開かれた。

その反応で確信する。


――彼女は、覚えている。


わずかに見えていた包帯。

その下に何があるのか、彼女だけが知っていた。


俺は静かに、でも確かめるように言った。


「……昨日、俺の首、絞めたよね……?」


教室のざわめきが、すっと遠のいていく。


まるで、そこだけ時間の流れが止まったみたいに、彼女は静かに座っていた。



夏なので、ホラーっぽいものを書きたくなりました。

巻き込まれ系男主人公×ギャルの組み合わせ、大好物です。


※こちらの作品は、『カクヨム』でも連載しています。

https://kakuyomu.jp/works/16818622177713290066


カクヨムの近況ノートにて、キャラクターのラフスケッチを描いていくので、

もしビジュアルのイメージに興味がある方は覗いていってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ