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滞在3日目

翌朝、朝食食べ終えたぼく達は澁鬼くんに連れられ、昨日巡りきれなかった様々なお店を巡った。

洋服屋、武器屋、公園、どこでも町民の方たちは至れり尽くせりですれ違う町民の方たちも旅人であるぼく達に優しく声をかけてくれた。

そしてぼく達は今この町の最大の絶景スポットを見るべく、澁鬼くんに連れられ歩いている。

ぼく達はこの町の方たちと触れ合い、知れば知るほどどんどんこの町が好きになっていった。

ぼくは澁鬼くんに話しかけた。

「この町の人達は良い人ばっかりだね」

「町の皆で決めたんだ。『旅人には優しくしよう』ってね」

「皆で?」

「あぁ、なんか大人たちがひと月ほど前に町全体に呼びかけたんだ。それまでは山に囲まれた田舎町だったから、この町内だけで関係性は完結してたから、旅人が来ても、よそ者的な扱いを大人はしてたかもな。思い出してみれば」

「そうなんだ····」

にわかには信じ難い話だ。こんなに優しくしてくれる方たちが冷たい対応取る姿なんて、ぼく達には想像もつかない。

「ここはひと月前に獣人の残党が再び現れて、俺もこうして被害を受けた。そこから何故か外から来た旅人に対して対応が変わったんだ。母さんもそれまではあまり客人に対して愛想はあまり良くなかったんだ」

あんな優しい雰囲気の澁鬼くんのお母さんが冷たい態度を客人に取るなんてそれこそイメージがこれっぽっちも湧かない。


「よし、着いたぞ。ここだ」


澁鬼くんが指す方向を見て、ぼく達は目を奪われた。

そこには青く透明で美しい湖が広がっていた。


「綺麗······」

「雪姉ぇ見てみて!!遠くの山が反射して水に 写ってるよぉ!!」

ぼくと祐葉に関しては一言も発する事が出来ないほど、あまりにも美しい光景だった。

「ここは山に囲まれた町のすぐ隣にある湖で、この町の名物だ。水質も良いからここから井戸で汲んで水を運んだりもするし、水量も多いからダムとして使ったりもしてるんだぜ」

澁鬼くんは懇切丁寧にこの湖を説明してくれた。

その時ぼくは感じた。彼は本当にこの町を愛しているんだと。

彼が将来この町の案内人を務めたい理由がまた1つ分かったような気がした。

「俺はこの町が大好きだ。町民の皆も、ここから見える景色も、何もかもが好きなんだ。だから、俺はここを守りたい」

澁鬼くんの目はとても真っ直ぐで力強く感じた。ぼくらと種類は違えど、大切なものを守る覚悟をぼく達全員が肌で感じ取った。

「あ、そうだ」

澁鬼くんは何か思い出したように口を開いた。

「母さんからの提案だけど、俺、皆に着いて行っても良いかな?今度こそ守りたいんだ。大切なものを」

少しばかり澁鬼くんの声が震えているように感じた。

ぼくらが違和感を感じ取ったのも束の間、澁鬼くんは俯き、地面に向かって言葉を吐き捨てた。


「俺の父さんは、ひと月前、獣人に殺されたーー」

澁鬼くんは拳をギュッと歯ぎしりをする。

「俺の父さんは、この町の観光案内の代表取締役として当時、夜間にこの湖のダムの見回りに来ていた。そこで獣人が現れて、武器なんて持ってなかった父さんは何も出来ず、ただ喰われるだけの餌でしかなかった。駆け付けた部下数人のおかげで獣人は撤退したけど、父さんだと判断出来るものは、血に染まった身分証明書だけだった...」


ぼくらには返す言葉が見付からなかった。澁鬼くんも味わっていたんだ。ぼく達と同じ、家族を失う痛みを。

「それから俺は毎日武術の訓練をした。雨の日も雪の日も嵐の日も。何があっても欠かさず行った。もうあんな惨劇なんて二度と起こさせない。家族を、大切な人を失う苦しみを知るのは、俺だけで充分だ...」

ぼく達はまだ言葉を出せずにいた。ここまで強い覚悟を持って生きている少年を未だかつて見たことがなかった。

「だけど、結局俺は自分の身すら守れなかった。逃げる事しか出来ず、俺の努力は何にもならなかった...。だから俺はもっと強くなりたい。もっと努力して必ず守る。俺自身を、母さんを、そしてこの町を──だから、俺をアンタ達のパーティーに入れて欲しい。頼む」

澁鬼くんは深く頭を下げた。

「顔を上げて。あなたは出来ることを十二分じゅうにぶにやった。自分を責める必要なんて無いわ」

そう真っ先に声をかけたのは雪姉ぇだった。

「私たちも同じ。かつて獣人によって家族を失った。そして伝説の『7人の英雄』によって救われた。あなたと同じ、強くなって大切なものを守ろうとする人間よ」

「····アンタ達もそう··だったのか······」

「えぇ、だから一緒に修行して強くなりましょう。今度こそ、私たちの手で大切なものを守りましょう」

「あぁ···!」

雪姉ぇと澁鬼は固い握手を交わした。それに続いてぼく達も手を置いた。


この日、ぼく達のパーティーに1人仲間が加わった。



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