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妙メモリー

厄を追い払ったときの話

作者: みょめも

人生いつでも順風満帆というわけにはいかない。

何をやってもうまく転がり、まるで世界は自分のために廻っていると錯覚することがあれば、やることなす事ことごとくダメで、自分はおろか御先祖軒並み恨みたくなるくらいに絶望することもある。

山あり谷ありの人生だからそれがいいんじゃないかと言う人もいるが、そうは言っても結局、厄払いだの厄除けだのに頼るのも人だ。


その頃の僕はまさに谷底に転がり始めたところであって、交通事故に合うわ、台風の日に看板がアパートの窓ガラスを直撃するわ、資格試験で記名を忘れるわ、恋人に振られるわとツイてない日々をおくっていた。

すべてを運のせいにするわけではないが、少しでもこの状況をどうにかしようと「厄払い」に行った。





厄払いは近くの寺院にお願いした。

小さい頃から毎年初詣に行く寺院だ。

大きくはないが、この辺りの住民はこぞって厄払いや厄除けに来ている。

僕が寺院に着いたとき、丁度1人厄払いをされていた。

住職が竹ぼうきの柄を短くしたようなもので、その女の人の体を服の上からパッパッと払っていた。

女の人から払われた厄はあちらこちらに舞って散り散りに飛んでいった。



「これで厄払いは完了しましたよ。」



「ありがとうございます。」



女の人は満足そうな笑みでお礼を言うとくるりと振り返った。

そして次は僕の番だったのでその人とすれ違うかたちになった。



「厄、けっこうついてますね。」



「お互い大変ですね。」



そんな言葉を交わし僕は住職の前へ進んだ。

よろしくお願いします、と一礼し厄払いが始まった。

先ほど見ていたのと同じように住職が竹ぼうきのようなもので僕の腕や背中、足まで厄を払ってくれた。



「けっこうついてますか?」



「ええ、数もそうですが、しつこいのもいます。」



そんなやり取りをしながら眉間にシワを寄せ、時折シッシッと手で追い払う仕草で厄を追い払ってくれた事を覚えている。

あとから知った事なのだが、その頃の僕は「大殺界」と呼ばれる、人生のうちで最も不運な時期にあり、そんじょそこらの厄払いでは払いきれない厄もあったそうなのだ。

だから厄除けスプレーを使っていようが厄取り線香を焚こうが、厄にしたら平気で寄ってきていたのだ。

「今年の夏は安い厄除けスプレーにしちゃったからいけなかったのかなぁ。」

そんな事を住職に話していたが、安かろうと高かろうと、もうそういう次元ではなかったらしい。


あらかたの厄を払い終えた住職は、坊主頭に汗をかきながら「これ以上は私の手に負えない」と言い申し訳ない、と頭を下げ奥へとさがってしまった。

残された僕は半ば諦めて、あらかた払えたのなら良しとしようと寺院を後にしたのだが、知らないうちに靴底に犬の糞がついていた。




最近はまたやってくる夏に備えて、強い厄除けスプレーが出ているといいな、などと薬局に寄っては季節物の棚を物色する毎日を送っている。今年は網戸に貼るだけの厄コナーズにしようか。


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