表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/38

1 召喚師と召喚獣

よろしくおねがいします。

 二つの世界は隣り合って存在している。

 一つは人の住む世界。

 もう一つは人ならざる者が住む世界。


 人は世界の扉を繋ぎ人ならざる者を人の住む世界へと呼び出す。

 その力を召喚術という。

 召喚術を使う人を召喚師と呼び、召喚された人ならざる者は召喚獣と呼ばれる。


 召喚師は人には無い特別な力を持つ召喚獣に力を貸してもらい様々な物事を発展させてきた。


 召喚師は召喚獣を呼び出す際、お互いに承諾を得る必要がある。

 召喚獣は召喚の対価として召喚師へ望むものを要求することができる。


 そうして人と人ならざる者は何千年もの間、友好関係を築いてきた。




「オラ! 何をノロノロ歩いてやがんだこのグズ!」

「ひぃっ! ごめんなさいごめんなさい!」

「本っ当に使えねぇな、テメェは!!」

「うぐっ、ごめんなさいごめんなさい!」


 厚手のローブを着た痩せぎすの男が、角を生やした幼い獣人の少年に罵声を浴びせる。

 罵りの合間に男は自身の持っている杖で、何度も少年を殴りつけている。


 少年は呪文のように許しを乞う言葉を呟き続けるが男の手は止まらない。

 ひとしきり殴り満足したのか、男は少年を置いてさっさと歩き出す。


「何してやがる! さっさと来ねぇか!」

「…………はい、ご主人様」


 少年はそばに放り出された自身の体より大きな荷物を拾い、背負う。

 かなりの重さがありそうに見える荷物なのに、少年はまるで重さを感じていないかのように歩き出す。


「今日中に次の町に着くはずだったのに、テメェがノロマなせいでもう日が暮れちまいそうじゃねぇか!」

「……ごめんなさい」

「うるせぇ! 申し訳ねぇって気持ちがあんなら黙ってさっさと歩きやがれこのノロマ!」

「…………」


 後ろをノロノロと歩く少年へ口汚く罵りながら、男は少年を顧みずに一人どんどんと先へ進む。

 少年は男に置いて行かれないよう、痛む体に鞭を打ち必死に男を追いかける。


「あーくそ。このままじゃ今日は野宿かよ。せめてこの森を抜け――あ? なんだ、テメェ?」

「…………」


 なおもぶつぶつと不満を口にする男の前方から薄汚いローブを纏った者がふらふらと近寄ってきた。

 体に合わないのだろう大きなローブは、その人物の体を上から下まですっぽりと隠し、男か女かすらわからない。

 猫背なのか姿勢が悪い。

 だらんと力なく落とされた右手には手入れがされてなくボロボロの、しかし見事な細工が施された人の背丈ほどもある長い杖が握られていた。


 日が暮れ始めた薄暗い森の中で現れた不気味な存在に警戒を高める男だが、謎の人物が杖を持っているのを見て少しばかり警戒を解く。


「なんだ、お仲間か? どうしたんだこんなとこで、迷ったのか?」

「……………………」


 男の問いかけに相手は答えない。

 無言でなおもふらふらと近寄ってくる謎の人物に男は一歩後ずさる。


「なぁおい聞いてんのか? お前どこの召喚師(もん)だ? 守護獣はいねぇのか? 誰かにやられたのか? おい! なんか言えよ! くそっ、それ以上近寄んじゃねぇ!」

「……………………」

「くそが! おいノロマ! こいつをオレに近――がっ!」


 男が少年に命令しようと謎の人物から視線を外した刹那、それまでのふらふらと力のない動きが嘘だったかのように謎の人物は俊敏に動いた。

 力強く一歩を踏み出し、一気に男へと接近する。

 そして持っていた杖を高々と振り上げ、なんの戸惑いもなく男の頭へと振り下ろした。


「ぐえっ! まっ、やめっ! おい、ノロっ! たすけっ!」


 殴られ、倒れた男に、何度も何度も杖は振り下ろされる。

 それは男が事切れるまで続けられた。


「……………………」


 少年は見ている事しか出来なかった。

 いや、見ている事しかしなかった。

 助けを求められたが、助けようと思えなかった。

 体が動かなかった。


「……………………」


 男が物言わぬ肉塊へと変わり、男を殴り続けた手はそこでようやく止まる。

 謎の人物は返り血で汚れた手や杖を、男の服で雑に拭う。もちろん男の血で濡れていない部分でだ。

 次にゴソゴソと男の少ない荷物を漁り、めぼしい物を自らの懐へ仕舞い込み立ち上がった。


「…………」

「…………」


 それらをぼーっと眺めていた少年は立ち上がった相手と視線が交わった気がした。


 ――次は自分か。


 ゆっくりと近づいてくる相手を、少年はなおも無防備に眺めることしかできない。

 死にたくない気持ちはあるが、もう疲れた。終わりにしたい。

 そういう気持ちの方が上回り、少年は目の前まで来た謎の人物()を受け入れるように静かに目を閉じた。


「……………………」


 トストスっと何かが落ちた音がした後、自分の横を通り過ぎていく気配に少年は目を開ける。


「……あれ?」


 足元に落ちているのは、なにかの小瓶が三本と小袋。

 それ以外は視界に入らない。

 驚き振り返れば、ボロボロのローブがふらふらと歩き去っていく後ろ姿が見える。


「おぅ。大丈夫かチビ助」

「ぅわっ!」


 何が起きたのか理解が追いつかない少年にかかる声。

 今度はなんだと声がした方へと顔を向ければ、そこに居たのは長い赤髪を持った悪魔の男が一人。少年を見下ろすように立っていた。


「それ。使っていいとさ」

「え?」


 悪魔は少年の足元に転がっているものを指差し告げる。


「傷薬と金。ここで使っちまってもいいし、できるなら売っぱらって金に変えてもいいし、オマエさんの好きにしな」


 じゃぁなと手を振って去っていこうとする悪魔を少年は呼び止める。


「待って!」

「あん?」

「なんで……助けてくれたの?」

「……さぁ?」

「え?」

「オレはナイじゃねぇから理由なんか知らん。でもそうだな。一つだけ言えるのは……」

「のは?」

「別にお前さんを助けたわけじゃねぇって事だな」

「それってどういう……」

「つまり、オマエさんはあいつに感謝する必要もねぇし、恩に着る必要もねぇってこった。自由になれてラッキー、程度に思ってりゃ良いんでねーの?」


 そう言って今度こそ悪魔は少年に背を向けた。


 突然自由だと言われてもどうしていいかわからない少年は立ち尽くす。

 ご主人様だったものをしばらく見つめていた少年の背に、先程の悪魔の声が届いた。


「あー。これは独り言だが」


 振り向くと少し離れた場所で足を止め、こちらに背を向けたまま大きな独り言を呟く悪魔の姿。


「オレたちはこっちの道を行く。もしオマエさんも同じ道に用があるなら、たまたま一緒になることもあるかもな」


 そう言って悪魔はまた歩みを進めた。

 先に行った謎の人物に追いつくためか早足だ。


 少年は悪魔の言葉を聞くと、急いで足元の小瓶と小袋を背負っていた荷物にまとめて入れる。

 そして残された肉塊から必要なものを手に入れた少年は先を歩く悪魔の背を追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ