女三人顔合わせ
それから1年がたち、経理課から豊沢亜貴が入ってきた。
室長から豊沢は本格的なヒューミント要員第一号である旨を紹介され、彼女の教育担当も任されることになった。が、この時池原は薗部と会議中で豊沢との顔合わせがかなわず、豊沢はしばらく秘書室のデスクに詰めるか外出することが多く、黒森ともなかなか話す機会がなかった。
そうして3ヶ月がたったころ
「・・・・・・美穂さん」
「どうしたの?」
「・・・・・・新しい人、入ってるの?」
「・・・・・・あー、貴方が会議中の時に挨拶はしたけど、他の時間は秘書室に詰めていることが多くてこっちではなかなか会わないわね」
「・・・・・・室長からヒューミント要員第一号の話を最近聞いたけど、その人?」
「恐らくね。経理課から来た豊沢亜貴さん。各所で集めた噂話から、いろいろな案件まとめた凄腕って話よ」
「・・・・・・見た目とか雰囲気はどんな感じだったんですか?」
「陰のある美人。押しに弱そう。多分、こっちから胸元に飛び込んだら頭撫でるなり抱きしめたりしてくれる」
「・・・・・・美穂さんみたいな人?」
「私とはまるで違う。聖母みたいな雰囲気だったわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・会って話してみたい?」
「・・・・・・・・・・・・」コクリ
「今日は金曜だし、待ち伏せ目的で残りましょうか?夕食囲めるかは豊沢さんの都合次第だけど」
「・・・・・・・・・・・・楽しみ」
そして2人は、定時過ぎても社史編纂室に居残ってPCに向かっていた。18時半にさしかかろうというとき、秘書室からのドアが開いた。
「・・・・・・・・・・・・、お疲れ様です」
「豊沢さん、お疲れ様。今日はこれから用事ある?」
「黒森さん。私は今日、予定ないですよ」
「なら、3人で夕食行きましょ。貴女の歓迎会には小さいけど、私たち、貴女とお話ししたいと思っているの。前の所属とか、今の仕事に関する話もそうだし、何が好きとか興味あるとか」
「・・・・・・・・・・・・初めまして」
「挨拶が遅くなってすみません。経理課から来た豊沢亜貴です。池原悠さんでしたね。よろしくお願いしますね」
「・・・・・・・・・・・・よろしく」
こうして3人で連れ立って、最寄り駅反対側のイタリアンバルに入った。池原の目から見て、黒森の人物評は自分の見立てと差異がないと思った。それだけに、噂話で仕事を積み上げた話は違和感もあった。
「・・・・・・豊沢さんは、人から噂話を集めるときにどんな風に話しかけるんですか?」
「あ、私もそれは気になる!ゴシップは好きだけどおばさんくさい振る舞いやると、却って面白い話が遠のく場合もあるのよね」
「うーん、最初の最初は本当に顔を合わせるたびに挨拶してたら向こうの方から話してくれたんですよね。・・・・・・2度目から先は、聞いた噂話と話し手をエクセルにまとめて管理しているんですけど、「○○さんの話、何か進展ありました?」って聞いたら高い確率で教えてくれますよ」
「いい!「この人は私の話をちゃんと聞いて、覚えてくれてる」って結構嬉しいし、話を続けたくなるわー」
「・・・・・・・・・・・・そのエクセルの使い方は想像しなかった」
「もっと言うと、部署ごとにシート作って、ネタにされた人の名前、噂の内容、聞いた日付、噂の話し手という形で列分けして打ち込んでいるんです。そうしたら噂になりやすい人の傾向とか、色々見えてくるものがあるんですよ」
「へー、私、いろいろな団体の名前とか特徴とか、支持している政党とか調べているけど、その管理にも使えそうね」
「・・・・・・わたしも色々な官庁や会社のサイト見て調べているけど、法人名、今後の展望、分野、更新日とか、やり様はあるかもしれません」
「私も黒森さんや池原さんの調べ方や、分析にあたっての準備の仕方とか、お聞きしたいです」
「いいわよ!と言いたいけど、私の場合は元が趣味だから、仕事として役に立てる自信がないわ・・・・・・」
「わたしも、今の方法に至るまでどういう流れで学習したのか記憶が遠いです。色々な小説読んだり、ドラマや映画、アニメを観たり、動画サイトのノベル動画で近い題材のを観たり、楽しみながら覚えたかな・・・・・・・・・・・・戦記もののノベル動画で、情報収集する場面とか印象に残ってるんです。戦争の気配がある国々で、保養地で急に人が増えたとか、鉄道の建設が急がれるようになったとか、資材の価格が上がったとか。これらが同時に絡むと、開戦が近いことを意味しているという話は今でも記憶に残ってますね」
「悠・・・・・・貴女珍しくしゃべるじゃない!私も聴き入っちゃったわ」
「・・・・・・・・・・・・//////」プイ
「照れないのー!今の貴女、先輩としてなかなか決まってたわ!あはははは!」
「はい。私も今の話は面白かったです。元のソースとか、思い出したら教えてくださいね」
「・・・・・・ええ」
酒も入り、3人とも口数が増えていた。特に池原は、普段の黒森との食事で酒が入ったことがないため、饒舌になった姿は他の2人に衝撃を与えた。また、爆弾も一つ落とした。
「豊沢さん、二川冬華さんと仲がいいんですよね。・・・・・・わたし、二川さんと同期入社だけど歳は1つ下なんです。わたしも、あなたに甘えてみたいです」
突然目がすわった池原は、卓を囲んで唖然としている豊沢の胸元に顔をうずめて抱きついてきた。豊沢は黒森と顔を合わせ、続いて胸元を見下ろすと、池原は眠っていた。
豊沢が池原の頭に手を伸ばして撫でてやると、起きている間は絶対見せない満面の笑みを浮かべた。
「「なに・・・・・・!このかわいい生きもの・・・・・・」」
黒森と豊沢は鼻血を出さんばかりに手で鼻を抑え悶絶した。
「・・・・・・えっと、下の名前で呼ぶね。亜貴ちゃんも仲良い後輩さんがいるの?」
「はい・・・・・・会社入ってからの短い付き合いですけど、休みの日に旅先で3回も遭遇してからその、・・・・・・さっきの悠ちゃんの百倍はアレな甘え方してくるようになりまして・・・・・・。酒の席でひどい時は、「おっぱい吸わせてください」って迫ってくるんですよ?」
「そ、それは大変ね・・・・・・悠がときどき私に抱きついて甘えに来たりお尻揉みに来るけど、まだ軽い方なのかなあ・・・・・・」
「美穂さんもなかなか大変な思いしてるんですね・・・・・・」
2人はそれぞれの甘えたがりな後輩を思い、ため息した。
「面倒押し付けるようで悪いけど、亜貴ちゃんも悠のこと、お願いしていい?この子天才児ですごい子を演じるばかりだったから、甘えに行ける相手が欲しかったみたい」
「いいですよ」
「ありがとう。私、そろそろ赤ちゃん産みたいから、休むようになったらお願いね」
「はい」
後日週が明けて、豊沢は古巣の経理課に立ち寄り以前の同僚と話していた。
「お疲れ様。秘書室の仕事はどう?」
「今のところ、周りも助けてくれてうまくやってるよ」
「良かった。でさ、秘書室っていったら大学飛び級で入社してすぐに配属になった天才もいるって話じゃん?その人とは会えたの?」
「この間、一緒に夕ご飯食べたよ。天才の人と、その教育担当やってる総務課にいた人」
「へー。で、面白い話聞けたんだ」
「うん。天才の人、池原悠さんっていうんだけど、小説、マンガ、アニメ、ドラマ、映画、動画サイトのノベル動画とかいろいろ手を出してて、そこからたくさんのことを勉強したって言ってたよ」
「すげー。あの子国立大の理系でさらに飛び級じゃん?よっぽどのがり勉だったのかと思うけど、そこからかー」
「今やってる仕事の基礎もマンガとか動画で覚えたって言ってたから、また次に教えてもらうんだ」
豊沢は池原が甘えたがりな部分を伏せつつ、「すごいけど雲の上な感じではない」ことをにおわせる話をした。この話も、元同僚や別に話した人を通じて広まっていく。そして、新たな別の噂が舞い込んでくるのであった。
昼休み、持参した弁当で昼食をとるべく社史編纂室に入ると、黒森と池原が待っていた。
「お疲れ様。これから一緒に、どう?」
「・・・・・・・・・・・・」ペコリ
豊沢は柔らかく微笑み、「いいですよ。お待ちいただいたようで、ありがとうございます」と快諾した。
「あの、豊沢さん。・・・・・・・・・・・・この間は、見苦しい姿を、」
「悠ちゃん、全然見苦しくなかったよ。私も・・・・・・慕ってくれる子を甘やかすのは、好きな方だから」
「・・・・・・・・・・・・ありがとう、亜貴さん・・・・・・」
「私からも礼を言うわね。亜貴ちゃん、ありがとう。悠、言ったとおりでしょ。亜貴ちゃんは受け入れてくれる人だって」
「はい・・・・・・。わたし、お酒慣れていないし、人と飲むのは初めてで不安でした・・・・・・」
「よしよし、いい子いい子」
黒森が池原の頭を胸元に抱き、撫でた。場が落ち着いたところで、この日にしたりこれからする予定の仕事の話をしつつ食事をした。




