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豊沢亜貴その2

豊沢は会社からの心理的・物理的距離を置かないと気が休まらない性質である。そのため、出勤しない日は同僚と飲んだり出かけたりすることなく自室にこもって読書や映画鑑賞、あるいは一人で遠方に出かけてマンホールカードを収集しつつ街歩きをするのが主な過ごし方なのだが。




「亜貴さん。お疲れ様です」


経理課時代の後輩である二川冬華とだけは一緒に過ごすこともままあった。


「冬華ちゃん。この1ヶ月しっかり仕事してた?」

「もう、先輩。今は就業時間外なんですから、仕事の話は抜きにしましょう♪」


豊沢と二川は、会社で知り合ってからまだ2年ほどの付き合いだが、二川は教育係として付いた豊沢にべた惚れといってもいいくらいに懐いてしまった。社内だけで会うならこうもいかなかったのだが、休日に豊沢が旅先で二川と遭遇したことで今の関係が決定づけられた。


それも、一度のみならず三度も。二度あることは三度ある、の三度である。


一度目は広島県のJR呉線安芸津駅で。二度目は新潟県の駅で。三度目は山梨県のワイナリーで。三度目の遭遇の時、二川はまぶしい笑顔で「もう、離しませんっ」と抱きつき、豊沢は苦笑いで観念したという。二川は大学在学中に唎酒師の資格を取るほど、日本酒が好きである。そして彼女もまた、休みを利用して頻繁に旅に出ている。目的は酒蔵見学とご当地の空気に触れながらの飲み歩き食べ歩きだ。

豊沢との最初の遭遇は安芸津駅で、試飲した酒の余韻を楽しみながら惚けていた時だった。驚きはしたが、二川は頭も体もしっかりしていた。その時は豊沢に強引に腕を引かれて宿に帰された。二度目はShu*Kuraという列車を待っているとき。この時は列車を予約していたし、こちらも飲む前だったし、豊沢も別の目的地に向けて移動の途中だったので軽い挨拶だけして分かれた。三度目は趣向を変えて山梨県のワイナリー見学に行った時だった。この時は豊沢も同じ時間の見学者でずっと一緒にいられると思ったら舞い上がってしまい、気づいた時には抱きしめていた。周りで見ていた人にはやし立てられ拍手もされたため、勢いのままにキスしようとしたらうめぼしをくらってしまった。ぎゅりぎゅりと、聖母のごとく優しそうな外見からは想像もつかないようないい感じの頭に効く一撃だった。


「冬華ちゃん、聞いてる?ねえ、起きてる?」

「・・・・・・・・・・・・亜貴さんとのこれまでの出会いを思い出してました」


2人は新幹線に乗って一息ついていた。


「声かけても反応ないから心配したよ?」

「すみません。亜貴さんと一緒の時間が久しぶりに思えて、なおのこと嬉しかったみたいです」

「あはは・・・・・・・・・今回はきっぷと宿の手配ありがとう」

「いいえ。こちらもマンホールカードの情報は見ていたので、場所の候補は決めやすかったです。お互い羽を伸ばして、しっかり気を休めましょう?」

「そうね」


2人は退勤後、夕方のターミナル駅で待ち合わせて新幹線で旅先に向かった。これまでの2人旅では夜11時頃に宿に入り、翌朝からそれぞれの目的地に午前午後と分けて動くのが定例となっている。

大体は朝のうちにマンホールカードを配布場所へ受け取りに行ってしばらく街歩き、午後は酒蔵見学と風にあたりながらの散歩で今回もその流れで動く。翌日は新幹線に乗るまで自由行動という形でのんびり名所を巡るなり地元の食堂で食べるなり古本屋や古本まつりを物色したりする。

少し前までは一人気ままにやっていたが最近は二川もこれに同行するようになった。古本関係の店では互いの趣味や気になるものを紹介し合ったりしているので、これもいい刺激である。豊沢と二川の旅はこうして流れて、二日前に待ち合わせた駅での解散まで続くのであった。

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