二川冬華の受難 その3
「沖浦、人事部が来いって電話来てたよ」
「はい。部長、わかりました」
沖浦は人事部へ出向き、課長の元へ通された。
「安全管理部門の沖浦さんですね」
「はい」
「少し込み入った話になるので、席を移しましょう。こちらに来てください」
「? はい、わかりました」
人事課長は課員を1人指名して同伴させ、応接室に入った。
「これからお話しすることはあなたにとって良くないことです。冷静にというのは難しいかもしれませんが、正気を失って暴れることのないように覚悟してください」
「は、はい・・・・・・」
「沖浦さん。あなたについて良くない話のレポートが、信頼できる筋から上がっています。あなたたちもいい大人だから、社内恋愛について細かい口出しをしないのがわが社の社風です。惚れた腫れた別れたはごく一般的な範囲内なら、こうして君に来てもらう必要もありません」
「はい・・・・・・」
「でも、リベンジポルノちらつかせて恐喝とも取れることをやったというなら、話は変わります」
「・・・・・・・・・・・・」
「今回来てもらった件について、少なくとも4人の退職した女性社員を通じて裏は取りました。なので、今この場で君が弁明をしたところで、今後の動きに変わりはありません。こちらに記されている人物は、君の利害関係者で間違いないですね?」
課長が数人の男の顔写真とプロフィールが記されたレポートを提示して沖浦に尋ねた。沖浦は顔面蒼白の状態でうなずいた。
「よろしい。君は若手社員として頭角を表しつつあったから前途が開けていたが、それ以上に君が潰した逸失利益が多いと判断された。本当に残念ですよ」
「逸失利益・・・・・・・・・・・・ですか?」
「君は自分と別れた女性の後日談については、ご存じないですか?」
「はい・・・・・・ストーカーに見られて訴えられるのは嫌ですから・・・・・・」
「なるほど。設計課にいた△△さんは現在、S社で係長になっています。総務課にいた○○さんはB社でうちとも連携しながら対圧力団体のプロジェクトをやっていますね。秘書室にいた●●さん・・・・・・彼女が移ったT社はそれから勢いづいて、規模が大きくなっていますね。重役秘書として快進撃を支えているとレポートにあります。営業三課の◇◇さん・・・・・・ライバル会社のI社にいますね。今では課長補佐」
「・・・・・・・・・・・・」カタカタカタ
「うちの社風がそもそも合っていなかっただけ、と見れなくもないけど、君が近くのコンビニからも消した女の子だってやっぱり出世している。これはもう、君の存在をマイナス要因と判断するほかない。うちの本社では、女性社員に対する悪影響と、男性社員の間接的なモラール低下について、沖浦さんにこれ以上居てほしくないという結論が出ました」
「・・・・・・・・・・・・」
「地方の関係会社事業所に係長の席があります。そこへ行くか自己都合で退職していただくか、週明けにもう一度ここで意思確認の時間をとりましょう。選んでください」
「わかりました・・・・・・」
異動先として提示された場所は、懲罰人事の定番として知られたところだった。一息つこうと安全管理部門のフロアに入ったところ、直属の課長から手招きされた。
「沖浦くん、君は何をやらかしたんだ。俺の所にも話来たが、あのレポートは秘書室お手製のかなり気合入ったやつだぞ」
「秘書室ですか・・・・・・!?」
「課長以上の人間だけが知っていい話とかあるから細かく言えないが、君は秘書室の機嫌を損ねる何かに触れたらしい。この先の身の振り方で色々思うところあるだろうが、この近辺の同業とか似た職種で働くことは出来なくしたそうだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「1週間もすれば、君の話は本社中に広がって居場所もなくなる。まあ、ご苦労だったな」
「・・・・・・・・・・・・こんな、形で・・・・・・去ることになり、申し訳ありません・・・・・・」
「ん。こちらの話は以上だ。気分が優れないようなら、もう帰っていいぞ」
「はい・・・・・・」
沖浦はそれから、人事課長より提示された週明けまで会社を休んだ。
休んでいる間、異動を受けるか退職するか、どちらが自分にとって傷が浅く済むか考えた。
やめた場合、再就職にどれだけ手こずるかが読めない。異動を受けたとして、これまで自分がとった仕事の手法が果たして通用するのか。
手癖が出たときはまた地獄に落とされて今度こそ息の根を止められるのか・・・・・・・・・・・・不安が限界に達し、恋仲である二川にメッセージを送ったが既読表示すらつかず、通話を試みたが応答なく、沖浦はブロック受けたことを悟った。
自分のしてきたことを身を以て思い知ったのであった。




