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二川冬華の受難 その1

豊沢は違和感を抱いていた。


彼女は月一回の頻度でマンホールカード集めを主目的とした旅に出ているが、酒蔵巡りにかこつけて二川が同伴してくるのがここ2年の常だった。しかし、この3ヶ月は同伴がなかった。


もともと積極的に同伴したがっていたのは二川の方だったが音沙汰がなく、珍しくこちらから誘いのメッセージを送っても色よい返事がない。

週明けの仕事で社内を歩いた際、古巣の経理課で一つの噂を耳にした。




 「二川冬華は安全管理部門の沖浦と付き合っている」




豊沢は沖浦について、以前から各所で噂話を聞いた覚えがあった。秘書室に戻って噂話をまとめたファイルを開くと、




「沖浦は安全管理部門に移ってから力を付けてきている成長株」


「総務課の○○が沖浦と付き合っている」


「総務課の○○が男と別れた傷心で退職した」


「沖浦は主任に昇格して格下への当たりがきつくなった」


「秘書室の●●が沖浦と付き合っている」


「秘書室の●●が退職した」


「沖浦は社内外で女をとっかえひっかえで、喧嘩別れが多い」


「沖浦が会社近くのコンビニ店員の女の子に粉かけてるのを見た」


「会社近くのコンビニから、ちょっとかわいい女の子の店員がいたが消えた」


「沖浦が経理課の二川冬華に狙いをつけた」




見るからに不安だらけの相手だ。同僚への誘いの声かけなどを積極的にしない豊沢だが、二川だけは特別にかわいがりもしていた。

下手に反発させるような物言いは避けたい。とりあえず沖浦との関係や状況を聞いて、すべきことはまたあとで考えよう。

そう結論付けたところで、秘書室の同僚から声をかけられた。




「豊沢さん、経理課の二川さんがあなたに会いたいと来ています。お手すきでしょうか?」

「! ありがとうございます。会ってくるので、少し外しますね」

「はい」




豊沢は急ぎ足で秘書室の入り口に向かうと、二川の姿があった。


今までに見たことのない顔だった。泣き腫らした赤い目、やつれた表情、放っておくわけにはいかない状態だと一目見て思った。




「・・・・・・・・・・・・先輩・・・・・・・・・・・・」

「冬華ちゃん・・・・・・静かなところに、場所移そうか?」

「・・・・・・・・・・・・う゛う゛う゛・・・・・・・・・・・・」




二川は泣きながらもうなずき、豊沢の後をついてきた。




「・・・・・・今日はこの後、仕事に戻れそう?」

「・・・・・・グスッ・・・・・・・・・わかりません・・・・・・」

「ん。じゃあ、私も今日はこれで終わりにする。うちの部屋に行こうか」

「はいぃぃ・・・・・・・・・・・・」




豊沢は道すがら、秘書室に自分の、経理課に二川の早退を伝える電話をした。

豊沢の家は会社から10分もかからないマンションの一室にあった。部屋に入って上着を脱いだ後、豊沢は二川からぽつりぽつりと話を聞いた。

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