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大学時代の話
大学時代の話。
その頃僕はバイトをしていて、僕はそのバイトでチーフの様な役割をしていた。
そのバイトが終わるといつも最後までバイトをしているメンバー5人で僕の車で夜中色々なところに遊びに行っていた。
僕と、他に大学1年の男の子、高校2年の男の子、専門学校1年の女の子、高校2年の女の子の5人がいつものメンバーだった。
大抵は深夜まで営業しているファミレスで夜食を食べたり、ドライブと称して他県まで足を伸ばしたりもしていた。
自分の事を話すと・・・色々と面倒な事が多いので、バイト先では伏せていた。
その日は夏の土曜日ということもあって、バイト中から怪談話で盛り上がっていた。
メンバーの一人の女の子が、
「幽霊が見たい!」
と言い出した。
怪談話に花が咲いていたので、4人のメンバーは今夜どこ行こうかという話に切り替わったのはごく自然な流れだった。
メンバーのもう一人の女の子が、最近看護婦の霊が出るという噂のトンネルがあると言い出し、4人はそこにしようと盛り上がっていった。
僕は自分の事を伏せているのであからさまには反対は出来なかった。
「興味本位で行くのはやめた方がいいよ。」
と言っても、
「大~丈夫っ!ぜんっぜん問題ないっすよ!」
「ナナイさんって幽霊とかの話になると急に態度が変わりますよね?」
「もしかして家が宗教関係かなんかなんですか?」
「あ~実は怖いんだ!」
などと返される。
「そんなことないけど、もしそんなところに行って憑かれちゃったりしたらどうするの?」
と聞くと、
「憑かれるって!?
本気でそんな事言ってるんじゃないですよね?
そんなこと有る訳ないじゃないですかっ~
今時そんなこと言うと頭おかしいんじゃないかって馬鹿にされますよ!」
と相手にされない。
しかし、
「じゃあ幽霊は?」
というと、
「幽霊はいるんです!」
とまったく頓珍漢な答えしか返ってこない。
多数に無勢。
今後のバイトの事も考え、仕方なく行くことにした。
場所は退魔師編『黒い影』の話の中のトンネルとはやや離れてはいるが遠くではない。
あの辺りはこういった話が尽きることがない。
この辺りに行くと分かるが、常に陰の『気』が勝っている。
山間部にあたるので、夏に初めて訪れる人は山の冷気がひんやりして気持ちいとかいうが、そういうのでは決してない。
陰の『気』なのだ。
今回行くことになったそのトンネルは山間部までは行かず、山裾に広がる繁華街から少し脇にそれた住宅街予定地に通じるトンネルだったので、それほど陰の『気』は強くはない。
店を閉めるとその子の案内でそのトンネルに向かう。
道順は殆ど『黒い影』のトンネルへと向かう道と同じだった。
ただ途中で右に曲がり、住宅街予定地へと向かう。
開けているとはいえ、もともとは山裾を切り開いて造られている。
「もうすぐ着くよ!」
と言われ目の前の交差点の信号が赤になったので停車した。
「そこそこ!この信号の右に見えるトンネルだよ!」
「もうすぐどころの騒ぎじゃないじゃん!」
「そういうのはな『ここ』っていうんだ!」
一斉にツッコミが入る。
その交差点はトの字型の三叉路で、自分が来た道とその直線方向、そして右折して入るトンネルという構図だ。
車の左側はガードレールがありその外は林。
右側は残された山裾になっていて、そこをトンネルが貫通しその向うに住宅街予定地へと続く。
僕はその信号で待っている間、この辺りを注意して見回していた。
流石にこの時間だと人通りはない。。が、
交差点の中心の辺りの進行方向からみて左側、つまり林側のガードレールの外に黒のシャツの上に白いカーディガン、そしてグレーのスラックスを履いて、頭には短いつばのあるクリーム系の色の帽子を被ったおじさんが立っていた。
時計を見ると既に深夜1:00を超えている。
「うわーあの幽霊こっちをみてるなあ・・・・」
僕はそう思いながら信号が青に変わったのでトンネルへと入っていった。
トンネルの中は意外、というよりもかなり明るかった。
まるで陰湿な感じがしない。
水銀灯がこれでもか!といわんばかりに灯火されているからだ。
逆に言うと不自然すぎるほどの明るさだった。
何往復かしたが、看護婦の霊の気配はおろか、他の霊の気配さえ感じられなかった。
それで帰ろうということになり、トンネルから出てきたところまたあの信号で捕まった。
先程のところには既におじさんの霊は立ってはいなかった。
信号が青に変わると左折して戻り始めたときにメンバーの一人が
「人っ子一人いませんでしたね。」
というと、メンバーの一人が
「幽霊じゃないけど、おじさんぐらいしか居なかったね。」
この発言に他の3人が声を上げた。
「おじさんなんかいねーよ!」
「どこにいたのどこに!?」
その為もう一度戻ることになった。
その信号まで戻ると車を降り、5人でその場所に向かった。
そこでおじさんが居たというメンバーが目を見張って声を上げた。
「ここって崖じゃん!!!!」
そう、その場所は少なくとも人が立てられる様な場所ではなかった。
もし立てるとしたら、足が少なくとも3~4mはないと、先程のおじさんが立っているようには見えないからだ。
4人は叫びながら車に乗り込んだ。
僕は一人残され、辺りを見渡した。
どこ・・・とは言えないがどこか・・・何かが不自然だった。
車の中で盛んに僕を呼んでいる。
僕は車に戻った。
僕たちは近くのファミレスに入るとコーヒーを注文した。
「さっきのまぢやべー!」
「見れなかったーーー!!」
などと騒いでいると、近くの地元のお客さんが、
「もしかしてあのトンネルに行ってきたのか?」
というので
「はい。そこでおじさんの霊を見たんです。」
というと、
「今度はおじさんの幽霊か・・・」
すると他のメンバーも次々と、
「トンネルでは出なかったですけれど、信号待ちしてたらその交差点の外の崖のところにいました!」
「トンネルは眩しいぐらい明るくて全然怖くなかったですよ!!」
その話を聞き終わると地元の人の表情が変わり、静かにこう話した。
「お前ら幽霊に騙されたな。
あそこの信号は常に点滅だし、トンネルもいまだに電気は通ってないぞ。」
あの不自然感は・・・なるほど、見事に騙された。